作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のアルバム収集とレビュー。音楽、旅、温泉、お酒など気ままに綴ります。

リンゼイ四重奏団のOp.77、Op.103(ハイドン)

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今日はコレクションの穴埋めで最近手に入れたアルバム。

Lindsays77.jpg
TOWER RECORDS / iTunesicon

リンゼイ四重奏団(The Lindsays)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2、Op.42、Op.103の4曲を収めたアルバム。収録は2004年1月20日から22日にかけて、イギリス中部のシェフィールドの北にあるウェントワース(Wentworth)という街の三位一体教会(Holy Trinity Church)でのセッション録音。レーベルは英ASV。

リンゼイ四重奏団の演奏は以前に一度取りあげています。演奏者の紹介はこちらをご覧ください。

2010/12/20 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 【年末企画】リンゼイ四重奏団の弦楽四重奏曲Op.20「太陽四重奏曲」

前記事を読んでいただければわかるとおり、ちょっと癖のある演奏をするクァルテットですが、私は気に入っています。リンゼイ四重奏団にはかなりの量のハイドンの弦楽四重奏曲の録音があり、手元にもかなりのアルバムがあるのですが、まだ数枚未入手盤があります。このアルバム、先日ディスクユニオンの店頭で見かけて、すかさず手に入れたもの。コレクションの穴となっているアルバムに店頭で出会うのは実に嬉しいものです。

今日取り上げるアルバムは2004年の録音。彼らは2005年に解散していますので、解散目前の時期の演奏。しかもハイドン最後の作品であるOp.103を含むということで、彼ら自身にとっても思い入れのあるアルバムなのではないでしょうか。

第1ヴァイオリン:ピーター・クロッパー(Peter Cropper)
第2ヴァイオリン:ロナルド・バークス(Ronald Birks)
ヴィオラ:ロビン・アイルランド(Robin Ireland)
チェロ:バーナード・ グリゴア=スミス(Bernard Gregor-Smith)

Hob.III:81 / String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
独特の力感と弾力がある響き。いかつい顔のピーター・クロッパーが丁寧に弓を操る姿が目に浮かぶような演奏。基本的にインテンポでグイグイ推進していきます。録音は教会の空気感をとらえた鮮明なもので、教会での録音ということで想像されるほど残響は多くなく、ちょうどいいもの。かなりオンマイクで録っているように聴こえます。ちょっと黒光りするボディービルダーの肉体のように筋骨隆々としたハイドン。チェロやヴィオラが雄弁なことと、微妙に溜めをつくっているのでそう感じるのでしょうか。
つづくアダージョは奏者それぞれのメロディーラインがくっきりと浮かび上がり、それぞれの丁寧なボウイングが印象的。ヴァイオリンのピーター・クロッパーの音程が微妙に揺らぐのが少し気になります。
メヌエットはこれまでの流れの延長で力感溢れる演奏ではあるのですが、良く聴くとすこし枯れた感じもあるのが味わいにつながっています。フィナーレに入るとフレーズのひとつひとつをしっかりと描いていくので、複雑にからまる音符をわかりやすく解きほぐしながら演奏しているよう。最後に向けての盛り上げ方はライヴさながらの迫力。ヴァイオリンの速い音階のキレは流石です。

Hob.III:82 / String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
息の合ったクァルテットらしく、演奏の安定感は素晴しいものがあります。前曲同様、音楽の骨格をしっかりと感じさせながら、弱音部の扱いも非常にデリケート。このクァルテット独特の音感を感じさせます。武骨な感じがあるのにデリケートな一面もあり、弦楽四重奏の面白さ、演奏の個性というものを考えさせられます。この曲では2楽章がメヌエットで、速めの舞曲という感じで颯爽と進めますが、中間部の弱音の演奏で思い切った音量ダウンとスタイルチェンジでハッとさせ、後半の鮮やかなキレを引き立てるあたりは演出上手。つづくアンダンテも耳をそばだてたくなるような軽いタッチを際立たせ、この曲の展開の面白さ、深み、ウィットを実に上手く表現していきます。アンダンテでスイッチが入ったのか、フィナーレは音楽が活き活きと弾み、アンサンブルの集中度も一段上がり、リンゼイ四重奏団の魅力が炸裂します。

Op.42はスキップして、ハイドン最後の作品へ。

Hob.III:83 / String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
やはり、力感が特徴のリンゼイであっても、この曲では力を少し抜いて、枯れた印象を感じさせます。丁寧なフレージングはそのままに、流すようなイメージの弓運び。曲のそこここに仕掛けられたハイドン独特の創意を上手く拾って、表情を与えていきます。フレーズ毎の演出の巧みさはハイドンの曲に精通したた彼らならではのもの。1楽章も最後に至るところではきっちり決めてきます。
ハイドン最後の楽章は鬼気迫るメヌエットですが、八分の力で曲をなぞるような演奏。抑えながらもクッキリ表情をつけてくるあたりは流石です。最後になって彼らの丁寧なフレージングの良さが印象的。しっかりとした響きで毅然と終わります。この2楽章を書いたあと、筆を置き、ハイドンが「我が力すでに萎えたり、齢をかさね、力、衰えぬ」と歌詞をつけた歌をそえて、最後の作品として出版された話は有名ですね。リンゼイ四重奏団の演奏は、ハイドンが自身の創造力の陰りを知り、力を残して筆をおいたとように感じる演奏でした。

久々に聴いたリンゼイ四重奏団のハイドン。最近いろいろなクァルテットのハイドンを聴いて、ハイドンの弦楽四重奏の演奏の表現の多様さを認識するなか、彼らのアプローチはオーソドックスながら、個性ある表現の面白さを再認識した次第。武骨さもありながら繊細さもあるという、彼らの個性、ハイドンの弦楽四重奏曲の面白さをしっかり伝えていると思います。評価は最初のOp,77のNo.1が[++++]、それ以外の曲は[+++++]とします。

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