トーマス・ビーチャム/ロイヤルフィルの93番(ハイドン)

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サー・トーマス・ビーチャム(Sir Thomas Beecham)指揮のロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、ハイドンのザロモンセットの前半6曲を収めたアルバムから、今日は93番を取りあげます。収録は1957年10月4日、パリのサレ・ワグラムでのセッション録音。レーベルはEMI CLASSICS。
ビーチャムのハイドンは古くから名盤として親しまれていますが、なぜか交響曲をこれまで取りあげてきませんでした。これまでレビューしたのは四季のみ。しかも非常にあっさりと取りあげたのみ。
2012/09/02 : ハイドン–オラトリオ : トーマス・ビーチャム/ロイヤル・フィルの四季
ビーチャムの紹介は上の記事をご参照ください。ビーチャムのハイドンはまさに古き良き時代のハイドンの演奏というのがぴったりでしょう。鳴らしすぎず、踏み込みすぎず、こだわらずという一貫した姿勢でハイドンの交響曲をこなしていきますが、そこには、ジェントルで高雅な雰囲気が漂い、えも言われぬ雰囲気を醸し出します。まさに奏者たちが余裕をもって楽しんでいるような演奏です。
わたしは、たまにではありますが、ビーチャムのようなハイドンが無性に聴きたくなることがあります。峻厳なドラティの演奏とはまた違った魅力があるわけです。
Hob.I:93 / Symphony No.93 [D] (1791)
しっかりと芯のある響き。1957年とは思えない程よい鮮明さ。ゆったりと雄大な序奏から入ります。この曲の刷り込み盤となっている、カレル・アンチェル盤の狂気に近いザクザクとした展開とは異なり、あくまでも穏やかかつ中庸を保った演奏。ただ良く聴くと、ヴァイオリンのボウイングには力が宿り、高音域のキレもそこそこあり、この曲に内在する迫力の片鱗を感じさせます。1楽章は穏やかなテンポに乗った燻し銀の出来。踏み込みが足りない印象は微塵もなく、テンポ設定、デュナーミクのコントロール、フレージングのすべてが高次のバランスで成り立つ完成度の高い演奏。簡単に真似の出来るものではありません。
素晴しいのが続くラルゴ・カンタービレ。穏やかさは変わらないのですが、穏やかな中にもキリリと引き締まった風情があり、音楽が進むにつれて要所をわきまえたアクセントと休符で、クッキリとしたメリハリがつきます。まさにジェントルな演奏。
メヌエットは記憶のなかのビーチャムの演奏とは少し印象が異なり、ヴァイオリンの鋼のような張りのある音色にちょっと驚かされます。これまでの楽章よりもテンションが上がり、やはり穏やかながら、クッキリ度がまた一段上がります。
そしてフィナーレは、高貴さの範囲での盛り上がり。髪のセットが乱れないスタイリッシュな盛り上がり。イギリス紳士の矜持を一番感じる楽章。燃え上がるような爆発も聴きたいのですが、ビーチャムのような粋な盛り上がりも良いものです。歌舞伎の型にはまった荒事が粋なように、ビーチャムのハイドンもビーチャム独特の美学の上に成り立つもの。最後は音量ではなく、テンポを一段ギアチェンジして高揚感を演出。
ビーチャムのハイドンの交響曲の演奏。何度聴いても素晴しい完成度。先日聴いたパイヤールの演奏でも感じた、古き良き時代のハイドンの典型的なイメージの演奏です。伝え聞くところではビーチャムのリハーサルは通しの演奏を好み、細かいところをさらう事は嫌ったそう。音楽全体のつくりにコントロールのポイントがあり、細かいつくりはオケにゆだねているからこそできる、このバランスなのではないかと想像しています。踏み込みすぎず、さりとて踏み込み足りないところはない絶妙な音楽。これぞハイドンです。評価は[+++++]とします。ザロモンセットのアルバムとしても、お薦めできる良い演奏です。
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