作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ウルリカ・ダヴィッドソンのソナタ集(ハイドン)

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今日はクラヴィコードとフォルテピアノによるソナタ集。

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ウルリカ・ダヴィッドソン(Ulrika Davidsson)のクラヴィコードとフォルテピアノによる、ハイドンのピアノソナタ6曲(Hob.XVI:14、XVI:2、XVI:28、XVI:44、XVI:23、XVI:52)を収めたアルバム。収録は2005年8月2日から9日、ニューヨーク州北部オンタリオ湖沿いのロチェスターという街にあるイーストマン音楽学校でのセッション録音。レーベルは米ワシントン州のLOFT RECORDINGS。

奏者のウルリカ・ダヴィッドソンは、主に教育畑の人のようです。90年代はスウェーデンのヨーテボリ大学の音楽教室の教員であり、その後、イーストマン音楽学校の歴史的鍵盤楽器の准教授、ドイツのブレーメン芸術大学でクラヴィコードを教師などを担当。フォルテピアノ、ハープシコード、クラヴィコード、オルガン、ピアノなどをこなし、コンサートでは広く欧米で開き、日本にも来ているようです。もちろん私ははじめて聴く人。

このアルバムは2009年と割と最近リリースされたもの。フォルテピアノとクラヴィコードでハイドンのソナタを弾き分けているところに興味をもって手に入れたと言う流れです。こう言ったマイナーな録音でも、何気に素晴しい演奏が多いことは、当ブログの読者の方なら先刻ご承知の事でしょう。このアルバムも、埋もれた名演盤発掘をモチベーションに入手したということです。演奏のほうはどうでしょうか。

最初の2曲がクラヴィコードでの演奏。楽器は1766年製Johen David Gerstenberg(ライプツィヒ大学楽器博物館蔵)のコピーで、2001年ヨーテボリ・オルガン芸術センターのワークショップで製作されたもの。

Hob.XVI:14 / Piano Sonata No.16 [D] (early 1760)
録音で音量が調整されているようで、音量は問題ありません。クラヴィコードの中では音質、音量はかなり安定したもので、クラヴィコード独特の高音の繊細感がありながら、中低音域もわりとしっかりした音色。ウルリカ・ダヴィッドソンの演奏はまさに教科書通り。クラヴィコードの音色とダイナミックレンジを踏まえて、柔らかいタッチで的確に演奏していきます。個性的な部分はほとんどなく、逆に楽譜通りに揺るぎない正確性で音にしていきます。クラヴィコードの雅な音色を十分に堪能することができます。録音が優秀なせいか、鍵盤を操作する動きの気配、空気感の超低音が録られており、不思議に迫力を増しています。
2楽章はメヌエット。楽章が変わっても淡々と演奏が続き実に繊細な音色によって紡ぎ出されるハイドンの名旋律に身を委ね安心できる演奏。フィナーレに入っても同様。確かなテクニックなんでしょう、実に自然なニュアンスの演奏が続きます。テンポが速い分、キレも増して、小曲なのになかなかの立体感。クラヴィコードの演奏としてはかなりダイナミックさがある方でしょう。

Hob.XVI:2 / Piano Sonata No.11 [B flat] (c.1762)
選曲が上手く、この曲もクラヴィコードの繊細な音色が合います。この曲では主旋律に上手くヴィブラートをかけて、クラヴィコードならではの高音の繊細感を強調。前曲とは演奏のスタンスが少々変わり、主旋律を歌わせる感じが強くなります。これぞクラヴィコードと言う演奏でしょう。すこしスケール感を意識して溜める部分、メリハリを強調する部分もあり、前曲より音楽のつくりが大きくなっています。
続くラルゴでも同様、主旋律にかなり意識的にヴィブラートをかけて、主旋律と伴奏の対比を強調。クラヴィコードのデリカシーに富んだ音色が聴かせる詩情が絶妙。妙に聴き入ってしまいます。
この曲は3楽章がメヌエット。前楽章の深みを洗うようにさっぱりとした表情に戻り、さらさらと音楽をすすめます。確かなテクニックなんでしょう。さりげない演奏にもキリッと引き締まった印象が残ります。

この後の4曲はフォルテピアノに変わります。楽器は1785年頃製作されたAnton Walterのコピーで2004年Monika May製作のもの。

Hob.XVI:28 / Piano Sonata No.43 [E flat] (1776 or before)
やはり比べると音のエネルギーが全く異なります。張りのある音で、音の粒立ちの冴えに耳を奪われます。楽器によって、聴かせどころが全く異なるのは致し方ありません。ダヴィッドソンはリズム面白さをことさら強調し、右手のメロディーラインをクッキリと浮かび上がらせます。ダイナミックレンジをフルに活用するように、強音に至る所でかなりはっきりとアクセントを付け、楽器の違いを楽しむように演奏します。低音の迫力がなかなか。テンポの変化の幅も広げて、表現の幅を広げようとしているよう。
メヌエットは、リズムの面白さを素直に活かした演奏。そしてフィナーレに入るとクラヴィコードでの穏やかな演奏とは異なり、自在なタッチでリズムとテンポ、ダイナミクスを変化させて、曲の面白さに鋭敏に反応します。それでも端正さを保っているあたりが、この人の特徴でしょうか。

Hob.XVI:44 / Piano Sonata No.32 [g] (c.1771)
楽器の違いに慣れてきたところで、短調の名曲。2楽章構成。さっぱりと端正なところもありながら、時折はっとさせるような変化を聴かせ、なぜかスリリングな印象もあります。きちんとした技術に裏付けられながらも、ふつふつと表現意欲が顔をのぞかせているというところでしょう。シュトルム・ウント・ドラング期のハイドンの曲の特徴である、ほの暗いなかにも輝きのあるメロディーを詩情たっぷりに演奏していきます。多少たどたどしさがあるのが良い味わいに。

Hob.XVI:23 / Piano Sonata No.38 [F] (1773)
一転して明るい曲調に変わります。鮮やかな指さばきで早いパッセージをこともなげに弾き進めていきます。曲が成熟してきて、表現の幅もより求められてきているよう。ここまでくると、ピアノでの表現とも比較対象になるような演奏。大きな視点から、曲の構造をとらえて表現すると言う意味では、他の奏者と比較してニュアンスの豊かさ等はもう少し求められるのかもしれませんね。
穏やかな2楽章のアダージョはダヴィッドソンの端正な良さが出た演奏。フィナーレはXVI:28と同様、自在さが活きた演奏。

Hob.XVI:52 / Piano Sonata No.62 [E flat] (1794)
冒頭の一撃にかなりビックリ。フォルテピアノでこの迫力は出色。分厚い音色の和音の衝撃が押し寄せました。この曲を最後に置いたのは得意としているからでしょう。前曲まででこの人の演奏に対するニュアンスがわかったつもりでしたが、最後の一曲で認識を改めるべきだと思いました。ピアノ顔負けの力強さ。楽器のコンディションもあるでしょうが、この迫力は素晴しい。フォルテピアノ独特のあっさりした印象はあるものの音楽は濃密に変化します。フォルテピアノでこの曲を聴く快感のようなものに襲われます。1楽章でノックアウト。これは見事。
アダージョもこれまでの曲より一段踏み込んだ演奏。間の取り方が神がかってます。そしてフィナーレはこのアルバムの総決算。やはりこの人、テクニックは素晴しく、この入り組んだ曲を鮮明な響きで演奏します。楽器の響きを知り尽くしているので、アタックのコントロールも音が濁る寸前までの強度にコントロールし、フォルテピアノの限界まで響かせているよう。最後の一曲は納得の仕上がりでした。

ウルリカ・ダヴィッドソンのハイドンのソナタ集。クラヴィコードとフォルテピアノを弾き分け、それぞれの楽器の響きを活かした名演奏。普段教職にある人らしく、テクニックは確かなもの。その上でハイドンのソナタの演奏に必要な深みを加えることで、それぞれの曲に応じたテクニックで演奏をこなしていきます。評価はクラヴィコードの演奏と最後のXVI:52が[+++++]、その他の曲は[++++]とします。

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2 Comments

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トトラ

こんにちは。

ブログに「ハイドンの音楽の魅力とはーアムランのピアノソナタを聴いて」を書いたので、よかったらご覧ください(^_^)v

http://ameblo.jp/book-mushi/entry-11579175542.html

デルジャヴィナのソナタ全集買いました。いま3枚目。Daisyさんは++++でしたが、私は特選です(笑)オルベルツやアムランのような典雅さとは一風違った、彫りの深いドラマのあるハイドンだと感じました。まるでハイドンの肉声を聴いてるかのようでとても好きです。

  • 2013/07/25 (Thu) 21:53
  • REPLY

Daisy

Re: タイトルなし

トトラさん、ブログ拝見しました!
アムラン、気に入られたようですね。それにオルベルツの揺るぎない演奏はご指摘の通り!
ハイドンのピアノソナタはハイドンの素晴らしさを知った事情通の人のが楽しむ音楽でしょう。アムランの透き通るような透明感のある演奏で聴くと、その素晴しさも一層良く聴こえますね。演奏を貫く一貫性はオルベルツと非常に近いものを感じます。

  • 2013/07/26 (Fri) 00:30
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