作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【新着】パウル・クレツキ/フランス国立管の102番(ハイドン)

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いやいや、暑い日がつづきますね。今日は新着アルバム。

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HMV ONLINEicon / amazon

パウル・クレツキ(Paul Kretzki)指揮のフランス国立管弦楽団の演奏で、ショパンのピアノ協奏曲1番、ハイドンの交響曲102番の2曲を収めたアルバム。ショパンのピアノはマリツィオ・ポリーニです。ハイドンの収録は1952年10月30日、パリでのライヴ。会場の表記はありません。レーベルはヒストリカル復刻の雄ARCHIPEL。

ジャケットには若きポリーニの眼光鋭い姿が見えますが、ポリーニが加わっているのはショパンだけなので、今日のレビューは純粋にクレツキとパリ国立管のハイドンの102番の演奏のみとなります。

パウル・クレツキは1900年、ポーランド中央部のウッチ(Łódź)の生まれ。地元のオケに15歳で入った後、第一次世界大戦に出兵。その後ワルシャワ大学で哲学などを学び1921年にベルリンに移ります。1920年代に彼が作曲した作品は当時トスカニーニやフルトヴェングラーに評価され、フルトヴェングラーは1925年に彼をベルリンフィルに招いて、指揮する機会を提供しました。ユダヤ人だったため、1933年にはドイツを離れますが、イタリアでもファシスト政権の反ユダヤ主義的政策の苦労したため、1936年にソ連に逃れます。今度はスターリンの大粛正のため、結局スイスに亡命します。彼の代表作である交響曲3番「イン・メモリアム」はナチスの犠牲者のための墓碑として1939年に作曲されたとのこと。両親や姉妹を含む肉親をホロコーストによって殺害され、精神を破壊されたということで、1942年以降作曲することはなくなりました。戦後は指揮者として活動し、ベートーヴェンとマーラーを得意としていました。1954年から55年までロイヤル・リヴァプール・フィルの音楽監督、1958年から61年までダラス交響楽団の首席指揮者、1966年から亡くなる1973年までスイス・ロマンド管の音楽監督を務めました。来日もしていて日本フィルハーモニー交響楽団を振ったこともあるようです。2度の大戦に翻弄されながらも、多くの録音を残した偉大な指揮者だったのですね。

今日取り上げるクレツキの102番、終戦からしばらく経ってからのパリでのライヴ。彼の経歴を知って聴くと、重みも増すのでしょうか。

Hob.I:102 / Symphony No.102 [B flat] (1794)
録音は時代なり。ヒストリカルなライブ独特の饐えた感じが少々ありますが、音像は鮮明。残響はそれなりにあるホールですが、かなりオンマイクな録音なので、実体感は抜群。幽玄な序奏につづいて、速めのテンポによる畳み掛けるように主題に入ります。クレツキがオケを煽っているのでしょう、オケは足並みが乱れるところもありますが、細かいところは気にせず、グイグイドライブをかけて怒濤の迫力。ハイドンの交響曲の1楽章の類いまれな構成感を良く理解して、もの凄く緊密な演奏。入魂の演奏とはこのことでしょう。
2楽章のアダージョはオケの粗さはそのままに、穏やかなこの曲ではありますが、彫りの深い彫刻的な演奏。噛み締めるようにフレーズ毎に険しい表情で鉈で木を荒々しく削りこんでいくよう。癒しを感じる演奏が多い楽章ですが、クレツキの演奏には張りつめたものがあり、真剣勝負な気迫が漲っています。荒々しい響きがかえって迫力につながっています。
メヌエットはざらついたオケの迫力が尋常ではありません。微妙にテンポを落として迫力を感じさせたり、テンポをちょっと上げたり、意外とデリケートなクレツキのコントロールが行き渡ってます。途中テープの伸びでしょうか、一瞬音程が揺らぎますが、一カ所だけ。木管陣はヴィブラートをほとんどかけず、持続音をきっちりふききりメロディーを重ねていくことで、剛直な感じを演出。さらりとした荒々しさが次のフィナーレの爆発を予感させます。
入りから、気合いが漲っているのがわかります。冒頭はヴァイオリンの音階さらりとこなし、盛り上がってからは、各パートがしのぎを削って畳み掛けます。ゴリゴリザクザクメロディーラインが展開するうちにエネルギーが集まり始めます。音量を上げて聴くと素晴しい迫力。最後のリズムの面白さを聴かせる部分もなかなかの演出。楽章間の咳払いなどはすべて録られているのに最後の一音が鳴ったあとはさっと絞って拍手はカットです。不思議なライヴ収録。

パウル・クレツキ入魂のハイドン。時代なりの粗い録音から、当時のホールの様子がリアルに伝わります。手に汗握る迫力の演奏。ライヴ独特の粗さはありますが、手綱を締め上げながらオケをコントロールするクレツキの様子がよくわかる録音です。ヒストリカル、ライヴ好きの方には是非聴いていただきたい演奏です。わたしはクレツキの略歴を調べているうちに、苦難の人生を送ったパウル・クレツキと言う人にちょっと興味をもちました。戦争が終わり、家族を失っても指揮台に立ち、実に彫りの深い音楽を奏でる不屈の人と言うイメージをもちました。音楽とは心で感じるもの。このアルバムから流れる響き以上に何か深いものを感じざるを得ません。心に残る良い演奏でした。評価は[+++++]とします。クレツキの交響曲3番、手に入れて聴いてみたいと思います。

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