サッコーニ四重奏団のOp.54(ハイドン)

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サッコーニ四重奏団(Sacconi Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.54のNo.1、No.2、No.3の3曲を収めたアルバム。収録は2008年7月21日、22日、8月4日にかけて、イングランド南東部サセックスのペットワース近郊のチャンプス・ヒル(champs Hill)のミージック・ルームという室内楽用の160席のホールでのセッション録音。レーベルはこのクァルテット自体のレーベルと思われるsacconi recordsというところ。
このアルバム、湖国JHさんからお借りしたもの。あまり見た事のないレーベルですが、上に紹介したとおり、HMV ONLINE、amazon、TOWER RECORDS、iTunesまですべて流通していますので、手に入れるのは容易でしょう。印象的なジャケットから湖国JHさんがジャケット買いしたという曰く付きのアルバム。ライナーノーツの記載によると、ネイル・カンニング(Neil Canning)という画家がサッコーニ四重奏団の演奏に触発されて描いた絵とのこと。普段音を言葉で説明する事に苦労している立場ですが、音を絵にするとこうなるのかと、妙に納得してみたりしています(笑)
演奏者のサッコーニ四重奏団は2001年、王立音楽大学ので結成されたクァルテット。サッコーニという名称は、イタリアの著名なヴァイオリン製作者・修復家のシモーネ・サッコーニ(Simone Sacconi)氏に由来するとのこと。サッコーニ氏の著作「ストラディヴァリウスの秘密」はヴァイオリン製作者必携の教本とのこと。弦楽器の響きに格別のこだわりがあるということでしょうか。2006年にロンドン国際弦楽四重奏コンクールで2位になったほか多くのコンクールで入賞しているそうです。最初にコンサートに出演したのが2008年ということなので、このハイドンのアルバムはコンサートデビューの頃の録音ということになります。メンバーは下記のとおり。
第1ヴァイオリン:ベン・ハンコックス(Ben Hancox)
第2ヴァイオリン:ハンナ・ドーソン(Hannah Dawson)
ヴィオラ:ロビン・アシュウェル(Robin Ashwell)
チェロ:カーラ・ベリッヂ(Cara Berridge)
写真を見ると若手美男美女のクァルテットのようです。クァルテットのサイトも紹介しておきましょう。
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さて、肝心の演奏はジャケットの絵のような躍動感と色彩感、前衛性がにじみ出るものでしょうか。若手クァルテットがハイドンに挑むのを聴くのは非常に興味をそそります。
Hob.III:58 / String Quartet Op.54 No.1 [G] (1788)
なんと、予想通り艶やかで色彩感溢れる演奏。若手らしい溌剌としたエネルギーに溢れた演奏。フレーズのつなぎ目がちょっとギクシャクした印象のところがあるところも含めて、新鮮な演奏。ストイックという感じはなく、基本的にノリのいい演奏。スタイリッシュと言う言葉が相応しいでしょうか。メロディーが絡み合うところのカオスの様な雰囲気はまさにジャケットの絵を彷彿とさせる瞬間があります。
つづくアンダンテは楽天的な面と、現代音楽風のキレの良さが相俟って独特の軽さが魅力。心情を濃く表現するのとは対極にある、センスの良い響きの面白さで聴かせます。彼らが響きの美しいOp.54をなぜ選んだのかがわかるような気がします。
メヌエットも同様。録音上のバランスはチェロが少し弱めなのが、いい具合に軽さの表現につながっているのかもしれません。録音は十分鮮明。160人収容という小ホールに適度に響く残響もいい感じ。弦楽四重奏の演奏、録音にはベストなホールと聴きました。
フィナーレは独特の躍動感がユニーク。踏み込みがもう一歩欲しいという印象もあるんですが、この軽さも捨て難いもの。ハイドンの弦楽四重奏曲の捉え方の問題だと思いますが、大上段に構えてストイックな演奏よりも、この遊び心を感じる適度な軽さもまた、本質を捕らえたものに違いありません。実に楽しそうに演奏しているのがわかる好演です。
Hob.III:57 / String Quartet Op.54 No.2 [C] (1788)
演奏は安定しており、曲ごとのムラも少ないので、あとの2曲はカンタンに触れるのみにしておきましょう。やはり、リズムと起伏、メロディーの間の面白さに主眼をおいた、爽やかな演奏。音楽が重くなる瞬間はなく、軽々と弓を運んでいるよう。短調のアダージョもメランコリックな表情で重くならずにこなし、メヌエットにつなぎます。しっかりと拍子を刻んでいるんですが、爽やかさを失わないところが流石。幽玄な終楽章もクァルテットの各楽器がデリケートに重なり合っていく響きの面白さに置き換えてアーティスティックに聴かせます。この曲、先日とりあげたガブリエリ弦楽四重奏団の燻し銀の演奏も良かったんですが、この新鮮な響きも良いですね。
Hob.III:59 / String Quartet Op.54 No.3 [E] (1788)
ちょっと地味な曲ですが、サッコーニ四重奏団の手にかかると、地味ながら淡い色彩感をつけて華やかな印象もついてしまうのが不思議なところ。響きの新鮮さとは裏腹に、これまでの音楽を聴くと、達観したかのように一貫してハイドンの曲の面白さのみにスポットライトを当てる視点が存在し、そういう意味では老成した音楽でもあります。若手らしい感情移入はなく、逆に感情は冷静にコントロールされ、響きのキレや音の重なりの面白さに集中しているようです。深い音楽ですね。長いラルゴも訥々と聴かせ、メヌエットは軽さを聴けと言われているよう。フィナーレはこのアルバムの最後に相応しい振り返るような表情が秀逸。軽さとデュナーミクの変化、リズムの面白さとこのクァルテットの特徴がすべて出た面白いもの。
ジャケットの絵からのインスピレーション、もとい、このクァルテットの演奏からインスピレーションを得て書いたジャケットの絵は、まさにこの演奏の特徴を捕らえたものだと言う事がわかりました。今時珍しい、表現は踏み込まない演奏ながら、音楽は豊かで、しかもハイドンのクァルテットの面白さを十分に表現したもの。これは気に入りました。疲れて帰った日に、このアルバムを聴きながらのんびり過ごすなんて言う聴き方にも好適なものでしょう。評価は全曲[+++++]とします。
このアルバム、最近のアルバムにはめずらしく、トラック毎のタイミング表示がありません。時間等気にせず聴けというメッセージでしょうか。リストマニアとしてはタイミングがわからないアルバムは困るんです(笑)
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