作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【新着】宇山ブヴァール康子のソナタ、音楽時計曲集(ハイドン)

6
0
今日もすばらしいアルバムを紹介しましょう。先日HMV ONLINEから到着したばかりのアルバム。

YasukoUyama.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

宇山ブヴァール康子(Yasuko Uyama Bouvard)のフォルテピアノの演奏で、ハイドンのピアノソナタ48番、49番、アンダンテと変奏曲(XVIII:6)、オルガンの演奏で、音楽時計曲8曲(XIX:11、14、12、13、10、24、15、9)を収めたアルバム。収録年はPマークが2012年とだけ表記されています。フォルテピアノはフランス南部、トゥールーズの県庁舎のサロン、音楽時計の方はトゥールーズのサン・ピエール・カルトゥジオ修道会教会堂(saint pierre des chartreux a toulouse)での録音。レーベルは仏EDITIONS HORTUSという未知のレーベル。

フォルテピアノによるピアノソナタとオルガンによる音楽時計曲という非常に珍しい構成のアルバム。一聴してフォルテピアノもオルガンも楽器を美しく響かせることに関して、非常に鋭敏な感覚をもった人との印象を受けました。しかも演奏は非常に自然で、ハイドンの音楽の豊かさがにじみ出てくるもの。良いアルバムそうですね。

奏者の宇山ブヴァール康子さんについて、ライナーノーツやらネットやらで調べてみたところ、現在はトゥールーズのトゥールーズ地方音楽院(Conservatoire à rayonnement régional de Toulouse)のハープシコードとフォルテピアノの教授とのこと。このアルバムでオルガンを弾いているサン・ピエール・カルトゥジオ修道会教会堂のオルガニストでもあるそうです。京都生まれで東京芸術芸大学でオルガンを学び、1976年に渡仏、フランスのオルガン奏者、ピエール・コシュロー(Pierre Cochereau)との出会いで大きな影響をうけたとのこと。フランスではオルガンとハープシコードをさらに学び、パリ国立高等音楽院でヨス・ファン・インマゼールにフォルテピアノを学び、フォルテピアノにも開眼。ハープシコードとオルガンでは国際コンクールで1等をとるなどの成果につながりました。その後、鍵盤楽器全般のソリストや室内楽の鍵盤楽器奏者として活躍し、録音もいろいろあるようです。このアルバムを聴いてまずピンと来た、楽器の音色に関する鋭敏な感覚、おそらくインマゼールから学んだものでしょう。インマゼールと似た透徹した感覚の持ち主とみました。

音楽時計については以前に2度ほど取りあげていますので、楽器や曲の解説は下記リンク先をご覧ください。

2011/06/13 : ハイドン–室内楽曲 : ペーター・アレキサンダー・シュタットミュラーの音楽時計曲集
2011/02/11 : ハイドン–協奏曲 : マルタン・ジュステルのオルガン曲集-2

レビューは収録順に記載します。

Hob.XVI:49 / Piano Sonata No.59 [E flat] (1789/90)
フォルテピアノは1785年製のアントン・ワルターのコピーで、2003年クリストファー・クラーク(Christopher Clarke)の作。録音会場は18世紀の板張りのサロンということで、状態の良い楽器が適度な大きさ、適度な残響のサロンで良く鳴っている録音。フォルテピアノがスピーカーの奥に定位してコンサートの席で聴くよう。流石インマゼール門下という素晴しい楽器の響き。一般的には残響がちょっと多めの録音ですが、聴きにくくはありません。宇山さんの演奏はゆったりとしたテンポで、メリハリを適度につけながら楽器の響きを自身で楽しんでいるよう。それでいてハイドンの書いた楽譜に込められた創意をくまなく拾い上げて、旋律の受け渡しや対比を楽しむ余裕があります。非常に穏やかな心情の持ち主なのでしょう、表現にはかなりのメリハリがつけられているのに、一貫して穏やかに曲が進みます。
2楽章のアダージョも同様。時折軽やかに装飾音を加えますが、メロディーラインがしっかり一貫しているので音楽の流れにぶれがありません。日本人ならではの清らかさも感じますが、表現の陰影が深いので、ともすると単調になりがちなところを、深い情感も帯びて聴き応え十分。深いアダージョの呼吸に打たれます。
フィナーレはテンポを速めますが、やはり楽器の響きを楽しむように落ち着いてハイドンの創意を響かせていきます。楽器のダイナミックレンジは素晴しく、強音の響きも澄みきっていて、弱音の繊細さも見事なもの。今まで聴いたフォルテピアノのの中でも最高のコンディションのものの一つでしょう。楽器の音響を踏まえた打鍵強度のコントロールも見事なもの。透明感ある表情から浮かび上がるハイドンの傑作ソナタを存分に楽しめる秀演と言っていいでしょう。

Hob.XIX:11 MS. Wien No.1 Allegretto [C] (before 1789)
Hob.XIX:14 MS. Wien No.4 Menuett [C] (before 1789)
Hob.XIX:12 MS. Wien No.2 Andante [C] (before 1789)
Hob.XIX:13 MS. Wien No.3 Vivace [C] (before 1789)
音楽時計曲は収録通り4曲まとめて。それぞれ1分少々の短い曲。このオルガンも実に美しい響き。オルガンの技術的なことは詳しくはありませんが、録音で聴けるオルガンの最上の響きと言って良いでしょう。曲ごとに音色をかなり変えて変化を付けます。フォルテピアノによるソナタと同様、演奏には揺るぎない安定感というか、非常に穏やかな心境で一貫して演奏していくのが印象的。この方、達観されていますね。音楽時計という細工物のために書かれた、微笑ましい小曲を、音楽時計以上に微笑ましく演奏していきます。本来壮麗、重厚であろうオルガンからおとぎ話のようなメロディーを紡ぎ出し、文字通りおとぎ話のような音楽。録音も鮮明で言うことなしです。

Hob.XVI:48 / Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
再びフォルテピアノの演奏に戻ります。楽器が変わっても音楽の穏やかさは一貫しています。間を十分にとって、この曲潜む詩的な表情を浮かび上がらせます。ブレンデルのピアノの演奏や、インマゼールのフォルテピアノの演奏がこの曲の刷り込み盤ですが、良く聴くと宇山さんの素直な響きの演奏もそれに勝るとも劣らない素晴しいもの。力強さも、詩情も負けていませんね。むしろ曲自体を楽しむにはこちらの方が良いほど。ちょっとハマってしまう良さ。2楽章構成のこの傑作ソナタを完全に手中に収めた素晴らしい演奏です。

Hob.XIX:10 Andante [C] (????)
Hob.XIX:24 MS. Niemecz No.3 Presto [C] (1789)
Hob.XIX:15 MS. Wien No.5 Allegro ma non troppo [C] (before 1789)
Hob.XIX:9 (Hob.III:57-III) Menuetto, Allegretto [C] (1788)
再び音楽時計曲4曲。今度はパパゲーノの吹く笛のような音色で来ました。やはり楽器の音色に関しては非常に鋭い感覚をもたれています。聴く人の想像力をかき立てる音色の変化。こればかりは聴いていただかなくてはわからないでしょう。たかが音楽時計のための曲と片付けられない深みを感じます。音楽とは音を楽しむものなりと諭されているよう。これまできいた音楽時計曲の演奏の中で間違いなく一番洗練され、一番楽しめる演奏です。

Hob.XVII:6 / Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
最後は再びフォルテピアノの演奏。間違いなくハイドンの最高傑作の一つです。この曲を最後にもってくるということは、ハイドンのことを熟知されているからに他ならないでしょう。前2曲のソナタと同様の一貫した演奏スタイルですが、テンポは前2曲より自由にとって、フレーズひとつひとつを噛み締めるように弾き進めていきます。右手のきらめき感も素晴しく、儚さをを帯びた美しいメロディーを繊細な表情と落ち着いた心で音にしていきます。淡々と変奏を重ねながら静かに心に刺さってきます。終盤の盛り上がりの力強さ、混濁感のない美しい響き、波の満ち引きの演出の巧みさ、そして穏やかな心境に裏付けられた、美しい音楽。この曲のフォルテピアノの演奏のなかでも飛び切り美しい演奏の一つでしょう。

初めて聴いた宇山ブヴァール康子さんの演奏ですが、これは素晴しい。フォルテピアノの演奏は、古楽器の弱点を一切感じさせない磨き抜かれた演奏。そして音楽時計曲もこれほどの完成度の演奏は聴いた事がありません。加えて素晴しいのがアルバムのプロダクションとしての完成度の高さ。初めて手にするレーベルですが、デザインのセンスもタイポグラフィーも素晴しいですね。昔ジュピターレコードでACCENTの美しいLPを手にした時と同じような悦びを感じます。評価はすべての曲を[+++++]とします。このアルバムのフォルテピアノの演奏、古楽器の演奏を苦手としている人にも聴いていただきたいですね。この雄弁なフォルテピアノによる深い詩情は、きっと気に入ると思います。

最近取りあげるアルバムが素晴しいので、レビューも楽しいです。

にほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ
関連記事

6 Comments

There are no comments yet.

トトラ

宇山さんまったく知りませんでしたが、こういうマイナー盤を知れるのがDaisyさんのブログの面白さです(^o^)

アッカルドのヴァイオリン協奏曲、絶品でした。お持ちですか?ブログに感想書いたのでよかったらいらしてください(^_−)−☆

  • 2013/06/25 (Tue) 02:04
  • REPLY

Daisy

Re: タイトルなし

トトラさん、いつもコメントありがとうございます。ブログ拝見しました!
アッカルド盤素晴らしい演奏ですね。私も好きな演奏の一つです。以前にレビューしています。
http://haydnrecarchive.blog130.fc2.com/blog-entry-463.html
このアルバム、流石PHILIPSという録音も聴きどころですね。

  • 2013/06/25 (Tue) 07:42
  • REPLY

maro_chronicon

音楽時計。

おひさしぶりです(でもずっと拝見してました)。ハイドンは好きでも音楽時計の曲ははひとつも知らなかったので、これを機会に買ってみました。現代ではライヒが時計用のちゃちな音楽を作っていた印象があって、ハイドンのもそんなんかな、と思っていたら、けっこうしっかりした音楽になっているんで驚きました。

Daisy

Re: 音楽時計。

maro_chroniconさん、こちらこそごぶさたしています。
そう、音楽時計曲、意外ときちんと書かれているんですね。こうゆう曲でも手抜きがないのがハイドンの素晴らしいところです。このアルバムの演奏も実に豊かな表情があり楽しめますね。

  • 2013/06/26 (Wed) 07:18
  • REPLY

トトラ

アッカルドのご感想読ませていただきました(^o^) 感想が一緒で嬉しいです。

3番て1番や4番となんか雰囲気違わなくないですか?

このブログの記事の検索はできるんですか?

  • 2013/06/27 (Thu) 19:44
  • REPLY

Daisy

Re: タイトルなし

トトラさん、おはようございます。
PC用の画面なら検索できます。上部に表示される検索バーで「このブログ内」と表示されていれば、ブログの記事を対象とした検索結果が表示されます。もしかしたら、ブラウザのバージョンなどによってはバー自体が表示されないのかな?
スマホ用の画面だと検索機能まではないです。

  • 2013/06/28 (Fri) 08:00
  • REPLY