ヤーノシュ・ローラ/フランツ・リスト室内管の受難、告別(ハイドン)

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ヤーノシュ・ローラ(János Rolla)指揮のフランツ・リスト室内管弦楽団の演奏でハイドンの交響曲49番「受難」と45番「告別」の2曲を収めたアルバム。収録はブダペストの改革派教会でのセッション録音、Pマークが1983年との表記のみで日付はわかりません。レーベルはハンガリーのHUNGAROTON。
このアルバム、フランツ・リスト室内管のメンバーがエステルハーザ宮殿の階段でたたずむ写真がジャケットに使われていますが、エステルハーザ宮殿は現在ハンガリー領にあり、ブダペストからも160キロと、そう遠くありません。彼らにとってハイドンは地元の作曲家ということでしょうから、これは本場物ということになります。加えて、曲がエステルハーザの離宮での夏の長期労働を強いられたオーケストラの団員の希望を侯爵に伝えるために書かれた傑作交響曲告別を含むということで、このオケにとっては渾身の一枚であるはず。残念ながらアルバムは中古以外に流通していませんが、iTunesで聴く事ができます。
ヤーノシュ・ローラはフランツ・リスト室内管弦楽団のコンサートマスター、音楽監督。フランツ・リスト室内管弦楽団は1963年、フランツ・リスト音楽院の教授だったフリギエシュ・シャンドール(Frigyes Sándor)を中心に、音楽院の学生達により設立されたブダペストを本拠地とするオーケストラ。現在はコンサートマスターのヤーノシュ・ローラが芸術監督を務めています。基本的に指揮者を置かず、ローラのリーダーシップにより演奏を行っているそう。フランツ・リスト室内管の演奏は協奏曲の伴奏でこれまで2度取りあげています。
2010/09/14 : ハイドン–協奏曲 : ペレーニの至芸、チェロ協奏曲
2010/06/05 : ハイドン–協奏曲 : ハイドン第2のホルン協奏曲?
どちらのアルバムの演奏もオーソドックスながら、情感の濃いなかなかの演奏だっただけに、この組み合わせでのこの曲は、かなり期待できます。
Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
予想どおり、しっとりと情感の乗った響きから入ります。まさにこの曲はこう演奏されべきというようなオーソドックスさ。じっくりじっくりメロディーを音にしていき、まったく外連味なし。録音は少し古びた印象がなくはありませんが、HUNGAROTON特有の石のような響きの癖は感じず、十分優秀。適度な残響がリラックスして音楽を楽しむのにぴったり。1楽章はアダージョ。楽章全体が序奏のような位置づけですが、ハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の名旋律がゆったりと教会に響きわたります。モダン楽器でのこの曲の演奏の王道中の王道を行くような堂々と揺るぎない響き。
2楽章のアレグロ・ディ・モルトは、フランツ・リスト室内管のちょっとザラッとした弦楽器群が抜群のエネルギー感でグイグイ引っ張ります。メロディーの彫りは深く、覇気溢れる峻厳な音楽、室内管とはいっても迫力は十分。木管等に対して弦が圧倒的なプレゼンス。おそらく得意としている曲でしょう、説得力が違います。
メヌエットは意外としなやか。リズムよりもながれを強調した演奏。この郷愁溢れる名旋律をさらりとこなしていくあたりに弾き慣れた貫禄を感じますね。
フィナーレはここ一番の躍動感。慌てるそぶりはなく、じっくりとスピードに乗ってアンサンブルの精度も程々に、各奏者の力が漲ります。弦楽器陣による図太い主旋律が素晴しい迫力。転調や強弱の変化をじつにしっくり表現しながら進みますが、この曲のツボをきちんと押さえているので、アクセルワークが見事。これ以上の表現はないほど。
Hob.I:45 / Symphony No.45 "Farewell" 「告別」 [f sharp] (1772)
つづいて告別。聴き慣れた1楽章ですが、オケはキレまくり。いきなりフルスロットル、入魂の迫力。流石本場と唸らざるを得ません。怒濤の弦楽器群がほの暗さを明るさの綾を見事に描き上げていきます。冒頭から圧倒されっぱなしです。穏やか部分で一度力を抜いて、再びオケが怒濤の迫力へ。鬼気迫るとはこのこと。告別の1楽章が圧倒的な存在感で押し寄せます。これほどのエネルギーだったとは。
2楽章のアダージョはあらためて思いますが、ハイドンの創作意欲の結晶のような音楽。弱音器をつけたヴァイオリンが奏でる静かな音楽の精妙さに聴き入ります。どうしてこのようなメロディーが浮かんでくるのかと思わせる実に不思議で趣き深い、実に深い音楽。それを知ってかヤーノシュ・ローラは音楽を淡々とこなしていきます。ハイドンの創意とローラの実に懐の深い音楽に、ただただ浸るように聴きます。
受難のメヌエットとは異なり、こちらはかなりリズムの面白さを強調した演奏。一貫してゆったりしたテンポながら、時折明るさがパッとさすような変化をを強調して、曲に潜む魅力を実にうまく表現していきます。ホルンのとろけるような響きも最高。これまでホルンや木管は脇役に徹していましたので、音量のコントロールをかなり明確にしているようです。かなり大胆に音量の変化をつけた秀演。
そして、クライマックのフィナーレ。前半は予想通り、怒濤の迫力。弦楽器のエネルギーが素晴しい。これから起こるドラマを予感させるようなざわめきすら感じさせる、極度の緊張感。ほの暗い雰囲気。闇の深さを暗示させるような気配。後半は一人一人去っていく場面。一転して平穏な癒しに満ちた雰囲気に変わります。波のない湖にうつる満月を見るような心境。やはりこの曲、傑作ですね。ヤーノシュ・ローラとフランツ・リスト室内管の入魂の演奏で聴くと、まさにハイドンが描きたかった音楽そのものが存在するよう。深い深い感動。徐々に生気を失っていくように、命が途絶えていくように、音楽が消えていくように、一人一人奏者が去っていきます。音楽が魂になって昇華いくよう。最後に残った楽器も消え入るように音量を落としていきます。
絶品です。ハイドンの偉大さに直接触れるような名演奏。言葉になりません。
このアルバム、多くの人に聞いていただくべき名盤中の名盤ですね。評価は両曲とも[+++++]です。告別は決定盤と断じます。
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