ドーリック弦楽四重奏団のウィグモアホールライヴ(ハイドン)

実に久しぶりの弦楽四重奏曲。未聴盤ボックスからようやく脱出です。

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ドーリック弦楽四重奏団(Doric String Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲 Op.9のNo.4、Op.50のNo.2、Op.76のNo.1の3曲を収めたアルバム。収録は2009年1月15日、ロンドンのウィグモアホールにおけるライヴ。レーベルはWIGMORE HALL LIVE。

ドーリック弦楽四重奏団は1998年、イギリス、サフォークで開催されていた「若い音楽家のための夏期ミュージック・スクールの室内楽コース」をきっかけとして結成されました。2002年からパリでアルバン・ベルク四重奏団、アルテミス四重奏団、ハーゲン四重奏団、ラサール四重奏団のメンバー等によるプロ演奏家のためのトレーニングコースに参加して腕を磨きました。その後もハーゲン四重奏団のライナー・シュミットについてバーゼル音楽アカデミーで学びました。2000年に開催された、ブリストル・ミレニアム弦楽四重奏コンクールで第1位、2007年に開催されたメルボルン国際室内楽コンクール弦楽四重奏部門で入賞、2008年に大阪国際室内楽コンクールで1位、イタリアのパオロ・ボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクールで2位となるなど、現在のヨーロッパにおける実力派若手クァルテットのといったところでしょうか。現在のメンバーは次のとおり。

第1ヴァイオリン:アレックス・レディントン(Alex Redington)
第2ヴァイオリン:ジョナサン・ストーン(Jonathan Stone)
ヴィオラ:サイモン・タンドリー(Simon Tandree)
チェロ:ジョン・マイヤースコウ(John Myerscough)

このアルバム、ハイドンの弦楽四重奏曲の3曲を収めていますが、組み合わせはかなり珍しいもの。最初にOp.9からくるあたり、ちょっとこだわりを感じます。

Hob.III:22 / String Quartet Op.9 No.4 [d] (c.1769-70)
奏者の息づかいが鮮明に録られた雰囲気のあるライヴ。厳かにはじまり、丁寧すぎるくらいデュナーミクを積極的にコントロールして、フレーズごとに濃い表情をつけていきます。楽天的な印象はなく、かなりストイックな姿勢。第1ヴァイオリンは軽めの音色で、非常に軽やかに音階を刻んでいきます。重厚な伴奏に軽やかなヴァイオリンという構図。曲自体を研究し尽くしたような演奏。やはりコンサートの開始はこの曲でなくてはならないのでしょう。シュトルム・ウント・ドラング期のハイドンの特有のほの暗さをもった曲ですが、かなり磨き混んで深い陰影をつけていきます。
基本的にネクラな印象の演奏ですが、メヌエットは彫りがすこし浅くなり、明るい光がさっと刺したような輝きがあります。表情のちょっとした変化に敏感にさせられる演奏。やはり弱音部を丁寧に引き込んでいきます。
3楽章がアダージョ・カンタービレ。全奏者の演奏スタイルが良くそろっており、前楽章までの特徴を全員が共有しています。ヴィオラやチェロもヴァイオリンに負けず表情が豊かなので、アダージョは聴き応えがあります。クッキリと言う表現はちょっと違い、メロディーをじっくり料理していく感じです。この楽章の終盤の孤高の感じ、このクァルテットの音楽のポイントでしょう。
フィナーレは緩急の変化を変化をかなり鮮明につけた個性的な解釈。ここまで踏み込んだ表現は最近では珍しいですね。会場からは割れるような拍手で迎えられます。

Hob.III:45 / String Quartet Op.50 No.2 [C] (1787)
続いて、だいぶ時代が下って、Op.50プロシア四重奏曲集からNo.2。やはりじっくり丁寧なアプローチ。この曲もだいぶ研究した上での演奏に聴こえます。ひとつひとつのメロディーをどのように演奏するかじっくり考えて、ユーモラスな曲を丁寧に描いていきます。ひとりひとりのデュナーミクの起伏が大きいのですが、良く歌うというより、他の奏者の音をよく聴いて、音を上手く重ねながら演奏している感じ。ヴァイオリンのみ鋭い音色を聴かせるのが特徴なんでしょう。
アダージョは細めのヴァイオリンの張りつめた凛とした美しさが印象的。ハイドンの美しい曲の儚さが強調されて、ガラス細工のような繊細な輝きをもった演奏。かなり自在なボウイングでじっくりと美しい旋律を描いていきます。
メヌエットは実にユニークな曲調。このクァルテットの選ぶ曲に共通する曲調がわかってきました。HMV ONLINEの解説を見ると、この曲をかなり得意としているよう。間を活かしたユーモラスさが彼らの演奏で強調され、ハイドンのアイデアが実によく引き立ちます。
フィナーレも同様、ハイドンの創意に満ちた曲の面白さが強調されます。絡み合う音階の綾と美しいメロディーの交錯。実に軽いタッチで千変万化する曲想をこなしていきます。最後はしっかり盛り上がりますが、すっと消え入るようなフィニッシュも見事。この曲の本質的な面白さをこの演奏に教えられました。

Hob.III:75 / String Quartet Op.76 No.1 [G] (1797)
最後は晩年の名曲。この夜の演奏会はハイドンの弦楽四重奏曲の成熟の歴史を体験するような流れ。前曲までの演奏からもう少し線が細い演奏を想像していましたが、かなりしっかりとした厚みのあるアンサンブル。演奏が進み温まったのか、曲事のアプローチの違いかは判然としませんが、アンサンブルの緊密度が高まったのは確か。聴き慣れたメロディーがいつもより陰影が濃くついて聴こえます。迫力や推進力で聴かせる演奏ではありませんが、ライヴらしい変化に富んだアンサンブルの面白さを聴く演奏でしょう。なぜか引き込まれる実に玄人好みの演奏。1楽章はぐっと集中度の高い演奏。
つづくアダージョ・ソステヌートはボウイングにかなり明解に隈取りをつけて、クッキリとメロディーラインを強調します。聴き慣れたメロディーですが、表情は驚くほど豊か。不思議とくどさはなく、芸術性の高さが印象に残ります。音や響きを合わせるのではなく、音楽が合っている感じ。実に複雑なアンサンブル。間と静寂も効果的。明らかに集中力が上がってきて、ビリビリきます。この緊張感、聴いていただきたいですね。
メヌエットに入ると、鬼気迫る迫力。俊敏さとエネルギーの噴出が素晴しい。それだけでなくリズムの跳躍、響き渡るピチカート、変化するテンポ。ホール内がドーリック弦楽四重奏団の演奏の迫力にのまれています。
フィナーレもエネルギーに満ちた演奏なんですが、逆に前楽章の緊張を鎮めるように流す感じもあります。起伏を前楽章より抑え気味にしているところはいいセンス。後半に入ると、やはりギアチェンジして、徐々にクライマックスに向けて力が漲ってきます。途中に水を打ったような静けさを挟むあたりも流石、ドーリック弦楽四重奏団の名演奏に会場は釘付け。これは事件のようなライヴです。ホールは拍手とブラヴォーと驚きのようなどよめきに包まれます。

Hob.III:44 / String Quartet Op.50 No.1 [B flat] (1787)
アンコールにOp.50のNo.1のフィナーレ。アンコールにいつも弾いているのでしょうか、安心して聴けるハイドンの機知に溢れた曲。ドーリック弦楽四重奏団の魅力が詰まった演奏。普通に終わったかのような大拍手を一旦受けますが、実は終わっていないというパフォーマンス付き。観客もドーリックに見事にやられ、会場からは笑いも溢れます。いやいや、実に素晴しいコンサートでした。

最初のOp.9を聴いたときには、ちょっと表情の濃い演奏をする人たちだとの印象でしたが、聴き進むうちに、ドーリック弦楽四重奏団のスゴさがわかってきました。ぐんぐん調子が上がり、ホールの観客を釘付けにする素晴しい緊張感。弦楽四重奏のコンサートでこれだけの極度の緊張感に溢れた演奏は聴いた事がありません。この日の聴衆は事件に出会ったような衝撃を受けたことでしょう。ハイドンの弦楽四重奏曲の真髄の髄をつく素晴しい演奏。弦楽四重奏好きの方、必聴です。評価は1曲目のOp.9は[++++]、残りはもちろんすべて[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.9 弦楽四重奏曲Op.50 弦楽四重奏曲Op.76 ライヴ録音 ハイドン入門者向け

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Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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(2019年12月31日)
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