作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

デレク・ハン/ポール・フリーマン/イギリス室内管のピアノ協奏曲集

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しばらく交響曲のメジャー盤を取りあげていたので、その間にオークション等で手に入れていたマイナー盤がたまってきました。今日はその中からの1枚。

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amazon(mp3)

デレク・ハン(Derek Han)のピアノ、ポール・フリーマン(Paul Freeman)指揮のイギリス室内管弦楽団の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲3曲(Hob.XVIII:3、XVIII:4、XVIII:11)を収めたアルバム。収録年がアルバムに記載されていませんが、ネットなどを調べたところ1993年のようです。録音サイトはロンドンのヘンリー・ウッド・ホール。レーベルは米ジョージア州ロズウェルにあるFANFARE。

このアルバム、オークションで手頃な値段で未入手のハイドンのアルバムを捕獲するという私の日常的な活動で入手したもので、何気ないジャケットからちょっと怪しい妖気が感じられるもの。もしやと思ってCDプレーヤーにかけてみると、これがビックリの名演奏。恐ろしく鋭敏なリズム感をもつピアノときっちりしたオケの掛け合いの妙を楽しめる素晴しい演奏。また、素晴しいアルバムに出会いました。まだまだアンテナさびてませんね。

ピアニストのデレク・ハンは1957年、アメリカ、オハイオ州のコロンバス生まれの中国系アメリカ人ピアニスト。7歳からピアノをはじめ、10歳にはコロンバス交響楽団と早くも共演し、デビューしています。ジュリアード音楽院を卒業後、1977年アテネ国際ピアノコンクールで優勝し頭角を現しました。以後、モスクワフィル、セント・ぺテルスブルクフィル、フィルハーモニア管、このアルバムのイギリス室内管などと共演しています。1989年から1992年まで国立モスクワ交響楽団の芸術アドバイザーを務めました。

指揮のポール・フリーマンは1936年、アメリカ、ヴァージニア州リッチモンド生まれの指揮者。ニューヨーク州とチェスターにあるイーストマン音楽学校で博士課程まで学び、フルブライト奨学生の制度を利用してベルリン芸術大学へ2年間留学しました。帰国後アメリカン交響楽団でピエール・モントゥーについて指揮を学びました。その後ロチェスター歌劇場の音楽監督、ダラス交響楽団、デトロイト交響楽団の副指揮者、ヘルシンキフィルの客演指揮者等を経て、1979年から1989年までカナダのヴィクトリア交響楽団の音楽監督を務めました、1987年にはシカゴシンフォニエッタを設立し音楽監督となっています。最近では1997年からチェコ国立交響楽団の音楽監督及び首席指揮者の地位につくなど、叩き上げの実力者といったところでしょう。

このアルバムのジャケットには「デジタル・サラウンド・サウンド」との気になるコピーがつけられています。ライナーノーツにはスター・ウォーズなどの映画にも使われた音響処理との説明がありますが、これが録音上もちょっと変わったキャラクターとなっています。

Hob.XVIII:3 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
録音の良さをうたうだけあって、オケの響きが非常に生々しい、素晴しいプレゼンス。ヘンリー・ウッド・ホールの美しい響きが部屋の、しかも眼前のかなり近い位置に広がります。ちょっと違和感があるのは、オケとピアノの位置関係。双方ともかなり前に定位していますが、ピアノとオケが別の空間で録られて合成されたような、ちょっと不思議な感覚。良く聴くとホルンも鮮明に重なります。すべての楽器をワンポイントマイクで別々に録って合成したような濁りのない鮮明な定位感。録音は非常に優秀なものですが、定位感のみちょっと違和感を感じるもの。定位感を除けば超優秀Hi-Fi録音というところ。
長々と録音について触れましたが、演奏は冒頭に書いた通り、異次元の素晴しさ。フリーマンのコントロールするイギリス室内管は、まさに最上の伴奏。キリリと引き締まっていながら、味わい深い絶品の伴奏。そして驚くのがデレク・ハンのピアノの恐ろしく鋭敏なリズム感。鋭敏すぎて青い炎のような迫力をもつアムランを超えんばかりのキレ方。ピアノのタッチが恐ろしく正確で、マイクロ・セコンド単位で正確にハイドンの書いた音符を演奏していきます。機械的な演奏ではなく、醸し出される音楽は実に豊か。ピアノのタッチのキレの良さがあまりに素晴しく、メロディーがコロコロと転がっていくよう。これほど美しいソロは聴いたことがありません。絶品。
もう、ラルゴもフィナーレもキレっぱなし。あまりのピアノの素晴しさにのけぞります。指のフリクションがまったくなく、早いパッセージのキレ方は尋常ではありません。間違いなくこの曲のベスト。

Hob.XVIII:4 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
フリーマンのコントロールするイギリス室内管も素晴しい独奏者を得て、ノリにノッています。活き活きとした序奏から、ハンのピアノが入ると素晴しい感興が広がります。特に右手のキレ方が尋常じゃないです。メロディーラインのゾクゾクするような輝き。オケも完璧なサポート。前曲で感極まりましたが、この曲も最高。曲による演奏のばらつきはなく、集中力という言葉を通り越して、音楽自体と一体化した神憑った演奏。レビューする意味を見いだせなくなります、、、
この曲も間違いなくベストの演奏。これほどの演奏があり得たとは。

Hob.XVIII:11 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
そして、最後の名曲XVIII:11も素晴しい演奏。このアルバム、演奏のムラは全くなく、全曲、一点の曇りもない完璧な演奏。カデンツァは宇宙の幽玄さを感じさせるほどのもの。恐ろしく鋭敏な感覚をもって録音に望んでいるのでしょう。正確に弾こうとするあまりに音楽から生気が失われることもあるものですが、ピアノは全曲冴え渡り、圧倒的な輝きを放ち続けていきます。名演奏揃いのこの曲ですが、この曲でもベスト盤としていいでしょう。レビューを書くという思考回路にはもどれず、スリリングな演奏に打たれ続けてしまいました。

このアルバムの素晴しさを、多くのハイドンファンに伝えたいのですが、残念ながらCDとしては入手は難しそうです。amazonのmp3は入手可能ですが、この定位感に若干の違和感はあるものの素晴しい輝きのある録音がmp3でも聴けるかどうかはわかりません。このアルバムの衝撃はシュミット・ゲルテンバッハの「悲しみ」を聴いた時以上のもの。この素晴しさをハイドン自身に聴かせてあげたいですね。評価は全曲[+++++]としますが、これは世界遺産クラスの名演盤です。この演奏を埋もれさせておく訳にはいきませんね。

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4 Comments

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小鳥遊

またマニアックなものを(笑)

ご無沙汰です。

早速、探して注文しました。

コンチェルト全集を目指していた様で、第2集もありましたが、こちらは高価で断念。

Daisy

Re: タイトルなし

小鳥遊さん、コメントありがとうございます。
確かにマニアックなアルバムですね。聴いたことのないアルバムを聴くのはこれだからやめられないわけです(笑) 世の中には埋れたいい演奏が沢山ありますね。こうして反応いただけるわけですから、掘り起こし甲斐があります。

  • 2013/06/03 (Mon) 21:29
  • REPLY

小鳥遊

聴きました

今日、届いたので早速聴きました。

なんか凄い演奏ですね。

聴いていて、楽譜が透けて見えて来そうなくらい明晰な演奏で。

それが如何にも正攻法の様でいて、逆にユニークでどこかしらコミカルな印象さえ受けました。

個人的にはニコラーエワの録音が好きですが、こちらも文句なしの名演奏ですね。

Daisy

Re: 聴きました

小鳥遊さん、コメントありがとうございます。
楽譜が透けて見えるとは、その通りですね。これだけ明晰なタッチで演奏できる人はそういないでしょうね。もっと知られていい人だと思います。
ニコラーエワ未聴ですので探してみたいと思います。

  • 2013/06/21 (Fri) 07:21
  • REPLY