作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【追悼】ジャン=フランソワ・パイヤール/イギリス室内管の驚愕、軍隊

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メジャーな演奏者によるハイドンの交響曲の録音を取りあげている5月ですが、今日は先月亡くなったパイヤールのアルバムを取りあげます。

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ジャン=フランソワ・パイヤール(Jean-François Paillard)指揮のイギリス室内管弦楽団の演奏で、ハイドンの交響曲94番「驚愕」と100番「軍隊」、そしてウィーン弦楽四重奏団の演奏による弦楽四重奏曲Op.76のNo.3「皇帝」の3曲を収めたアルバム。今日は交響曲の方を取りあげますが、収録は1980年とだけ記載されています。レーベルはRCA。

ハイドンの演奏でパイヤールといえば、モーリス・アンドレとのトランペット協奏曲の演奏がありますが、その他はあまり印象がありませんでした。このアルバムかなり前から手元にあったのですが、他のアルバムにまぎれて行方不明になっていたのがようやく見つかりました。先月パイヤールの訃報に接した時に取りあげようとしたのですが、アルバムが見つからす見送っていたものです。

2012/02/28 : ハイドン–協奏曲 : 【追悼】モーリス・アンドレ/パイヤールのトランペット協奏曲

モーリス・アンドレが亡くなったのが2012年の2月。そしてパイヤールも先月、4月15日に亡くなっています。昔親しんだ演奏家が次々と亡くなっていくのは、仕方のない事とはいえ、ちょっと寂しいものがありますね。パイヤールといえば何といってもモーツァルトのフルートとハープのための協奏曲でしょう。我々の世代にとっては定番のアルバムですね。モーツァルトの協奏曲では最も華麗な曲想のこの曲を、リリー・ラスキーヌの上品なハープと、ランパルの豊穣なフルート、そしてパイヤールのキリッと上品にエッジを立てた華麗なオーケストラコントロールで描いた名演奏。このあと数多くリリースされる古楽器による素晴しい演奏と聴き比べても、パイヤール盤の華麗な演奏は耳に焼き付いています。やはりフランスらしい華麗なオーケストラコントロールの印象が強い人です。

そのパイヤールが、イギリス室内管を振ったハイドンの交響曲。このアルバムの他にも時計、ロンドンの録音があるようなので、手に入れなければなりませんね。

Hob.I:94 / Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)
小規模オケ、しかも現代楽器のオケらしい、クッキリとした響きの序奏から入ります。主題に入るとヴァイオリンによる高音の隈取りがクッキリついて華麗な響き。テンポはオーソドックスなものですが、キビキビした足取りで推進力は十分。安心して身を任せられる演奏です。演奏によってはインテンポで畳み掛ける迫力を味わえる1楽章ですが、パイヤールのコントロールは華麗な響きでハイドンの曲のメロディーラインと構成の美しさを表現する事に主眼を置いたもの。ここぞという踏み込みはないものの、この規律こそハイドンの本質と言わんばかりに、演奏をすすめていきます。旋律をこれだけクッキリと歌わせながら、類いまれな安定感。こうゆう演奏ももはや貴重なものですね。演奏スタイルは異なるものの、同じフランスのリステンパルトの演奏にも漂う安定感。
2楽章のアンダンテはまさに完璧な古典的演奏。音楽の授業で聴いたのはパイヤール盤だったのでしょうか。この曲のオーソドックスな演奏の見本のような響き。意外に彫りが深く、表情も立体的で迫力も十分。これだけ完成度が高い演奏だったとは。
メヌエットに入っても、完璧なプロポーションと流れの良さは健在。ウィーンらしいというより、やはりフランス風の軽やかさがあり、メヌエットはまさに舞曲らしくメロディーが弾むよう。ここまで活き活きとしたメヌエットはそうありません。
この曲の聴き所でもあるフィナーレ。入りから非常に表情豊か。音量ではなくフレージングでこの曲のフィナーレ独特の沸き上がる感じを上手く表現しています。音量でも迫力でもなく、磨き抜かれたオーケストラコントロールでこの曲の素晴しい盛り上がりを表現。見事。これほどの演奏だったとは。

Hob.I:100 / Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
入りから癒しエネルギーが満ちてます。これから展開する曲の面白さを予感させる、豊かな表情の序奏。現代の演奏が忘れてしまった、メロディーの華麗な展開と素朴な美しさに満ちあふれています。とりわけクッキリしたヴァイオリンと色彩感たっぷりの木管楽器の織りなす表情の美しさは素晴しいもの。実に美しい軍隊。これだけ華麗な軍隊の1楽章は聴いた事がありません。曲がすすむにつれて沸き上がる素晴しい興奮。音楽が生き物のように躍動しています。
軍隊の聴き所の2楽章。もちろん迫力もあるのですが、パイヤールのコントロールは一貫してメロディーの豊かな表現にあります。打楽器が炸裂するところもそこそこいいのですが、全体を見据えて盛り上げていくまでのコントロールと、抑えた部分の美しいメロディーは只者ではありません。そして全般に力みがまったくなく、純粋に演奏を楽しんでいるようなリラックスした雰囲気が素晴しいですね。
そしてこの曲でもメヌエットは弾みまくり。メヌエットとはこう演奏するものだと教わっているような気分。音符がすべて意味があり、リズムの刻みも完全にパイヤールのリズムになっています。オケ全員にパイヤールの音楽が浸透しているのですね。
期待のフィナーレ。少し抑え気味に入りますが、パイヤール流の流麗、華麗なフレージングは健在で、曲が進むにつれてだんだん表情が豊かになってきました。ただ弱音は意識的かなり落として、またテンポもすこし抑え気味。終結部にクライマックスをもってくる演奏も多いなか、パイヤールはフィナーレは実に慎み深く、抑え気味ですすめ、打楽器もそこそこの音量。もちろんクライマックスには違いありませんが、メロディーと曲の美しさこそこのフィナーレの聴き所とばかりに、バランスを重視した演奏でした。パイヤールの意図がぴしゃりと決まって、高貴華麗な軍隊となりました。

もちろん何度か聴いた事のある演奏でしたが、パイヤールのハイドンの交響曲がここまで素晴しいのかと再認識した次第。私たちがハイドンの交響曲、とくに晩年のザロモンセットの演奏の理想的な姿として想像していた通りの演奏がここにありました。非常に慎み深く、音楽は非常に豊かで、まさにハイドンとはこう演奏すべしとの啓示のような演奏です。ヴァイオリンをはじめとした弦楽器のコントロールも秀逸。録音も解像度は最新盤とは差がつきますが、十分聴きやすいものです。以前つけていた評価をあらため、両曲とも[+++++]とします。心を洗われるようなハイドンです。現役盤ではないようですが、amazonなどでまだ手に入りそうですね。

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