作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

クラウディオ・アバドの98番、軍隊

2
0
仕事やら飲み会やらでちょっと間があいてしまいました。今日は大御所アバドのハイドンを久しぶりに聴き直しました。

Abbado98.jpg
HMV ONLINEicon / amazon

クラウディオ・アバド(Claudio Abbado)指揮のヨーロッパ室内管弦楽団の演奏で、ハイドンの「月の世界」序曲、交響曲98番、交響曲100番「軍隊」の3曲を収めたアルバム。収録は軍隊が1992年2月、序曲と98番が1993年6月、イタリア、フェラーラのテアトロ・コムナーレでの録音。序曲と98番はライヴです。

このアルバム、1枚ものとしてはずっと前に廃盤になっていましたが、何と来月、国内盤で再発売されるようです。HMV ONLINEのリンク先は再発売盤です。amazonの方は中古ですが、12万少しと恐ろしい値段がついています。CD1枚に出せる値段ではありませんね。今入手するなら、アバドのハイドンの交響曲の録音4枚をまとめたこちらでしょう。

Abbado.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

アバドのハイドンは今まで2度ほど取りあげています。

2012/04/30 : ハイドン–協奏曲 : アドルフ・ハーセス/アバド/シカゴ響のトランペット協奏曲
2010/02/11 : ハイドン–交響曲 : アバドの「奇跡」

交響曲についてはブログをはじめたばかりの頃に奇跡を中心に取りあげていますが、そのころは、かなり大雑把な取りあげ方だったので、そろそろ再度取りあげなくてはと思っていたところ。

アバドといえば大オーケストラを緻密に操り、もの凄い精度で大曲をコントロールしていく人。情に溺れず透明な音楽をつくっていき、イタリア人ならではメロディーラインの自然な美しさを描いていきます。そのぶん直接的な感情表出は抑え気味なので、カルロス・クライバーの燃えたぎる火の玉のような音楽のわかりやすさはありませんが、音楽の構造をくっきり浮かび上がらせ、感情ではなく理性に響くようなところがありますね。最近では神憑ったような恐ろしい精度の演奏も多く、私の好きな指揮者の一人です。

もちろんハイドンの録音は非常に少なく、これまで取りあげたものの他にはほとんどないと思います。最近はモーツァルトを結構取りあげており、もしかしたらハイドンも新録音が期待できるかもしれませんね。

最近のお気に入りはルツェルン祝祭管とのマーラーの交響曲でしょうか。とりわけ3番の映像がお気に入り。特に長大な1楽章のしなやかな構築感とイタリア人らしい伸び伸びとしたメロディーラインの表情から、マーラーの描いた巨大な交響曲が、大河の流れのような滔々とした音楽となり、緻密なのに恐ろしく自然な表情が続く見事な出来映え。極度の緊張感にホール中が静まり返る奇跡のコンサートの様子が楽しめます。あとはロッシーニの「ランスへの旅」。アバドにしては非常にノリのいいライブで、次から次へとアリアが襲ってくる、まさにアリアの洪水のような名演奏です。

さて、久々に聴くアバドのハイドン。

Hob.XXVIII:7 / "Il mondo della luna" 「月の世界」序曲 (1777)
歌劇「月の世界」は1777年、エステルハージ侯爵の次男、ニコラウス・エステルハージ二世とマリア・アンナ・フランツィスカ・フォン・ヴァイセンヴォルフ伯爵令嬢の結婚祝賀に上演されたもので、この序曲は交響曲63番「ラ・ロクスラーヌ」の1楽章に転用されました。ハイドンらしい晴朗快活なメロディーの序曲。アバドのハイドンは基本的に鮮やかなキレ重視。ヨーロッパ室内管はウィーンフィルのようなとろける響きではなく、ちょっと粗い響きで、ヴィブラートは控え目。アバドらしいあっさりとした透明感を帯びながら、各パートそれぞれのリズムがピタリと合って、キビキビとした雰囲気が良く出ています。曲自体が快活な雰囲気をもっているので、アバドも演奏を楽しんでいるような感じ。独特の透明感が演奏に気品を与えているよう。

Hob.I:98 / Symphony No.98 [B flat] (1792)
98番は間の取り方が印象的な入り。ハイドンではあっても弱音の緻密なコントロールとほんのりと明るさを帯びたメロディーラインの表現にアバドらしさを感じます。低音弦のキレのいい存在感をベースに、コミカルな98番の1楽章の語り口の面白さを上手く表現していきます。97番、98番あたりのこうした面白さはハイドンの音楽の聴き所の一つです。
秀逸なのが2楽章のアダージョ・カンタービレ。アバドの緻密なコントロールでハイドンの美しいメロディーがクッキリと浮かび上がります。磨き抜かれたメロディーのコントロールはハイドンなのにマーラーの演奏のようなしっとりとした透明感溢れる美しさを帯びていきます。やはり弦のコントロールは素晴しいですね。
そしてメヌエットは弦の反応の良さを楽しむような素晴しいキレ味を聴かせます。中間部の愉悦感も余裕たっぷりで、キレのいい弦楽器と木管楽器のしっとりとした響きの対比が見事。さっぱりとした余韻にアバドらしさが良く出ています。
フィナーレはアクセントをカッチリつけて、キレのいいオケの響きがさらにクッキリとします。軽やかなメロディとオケの鋭いアタックが織りなす感興。音量ではなくキレで聴かせる迫力。恐ろしく俊敏なオケ。最後のハープシコードのソロのキレも見事でした。ライヴですが拍手は収録されていません。

Hob.I:100 / Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
序奏のあっさりと媚びないフレージングがアバドならでは。オーケストラの迫力で聴かせる演奏が多い中、前曲同様、抜群のオケのキレと透明感で聴かせるアバドならではのアプローチ。軍隊のメロディーがこれほど透明にクッキリと浮かび上がるとは。重厚感は一切感じさせず、むしろ軽やかに聴こえるのが不思議なほど。良く聴くと弦楽器のメロディーラインはかなりはっきりとアクセントがつけられ、また低音弦やティンパニは明らかに抑え気味で、意図して軽やかにしてるのがわかります。軍隊という曲から、迫力ではなく緻密な構成とメロディーの美しさにスポットライトを当てた演奏。
2楽章も同様に重厚な音楽をあっさりさっぱり仕上げようというアバドの意図が感じられます。有名な打楽器炸裂の部分もグランカッサも抑えて鳴らされるなど、鳴りものも抑え気味で、曲をクッキリ描こうとしているのがわかります。この辺は迫力を期待して聴くと肩すかしを食うほどの抑え方。
メヌエットは98番ほど対比を印象づけず、流れの良いもの。やはり2楽章と終楽章が聴き所との判断から流しているように聴こえます。
フィナーレはやはりオケの俊敏な反応が見事。鮮やかなオケの反応が痛快。あまりにキレが良すぎて重厚感は一切なく最後の一音は風圧がすっとふきぬけるよう。さっぱりとした余韻の残る軽やかな軍隊でした。

久しぶりに取り出して聴いたアバドのハイドン、やはりアバドのハイドンの交響曲を鮮やかに料理する手腕は見事でした。他の指揮者とはアプローチが異なります。ハイドンの交響曲を俊敏なオケで軽やかに仕上げたキレ味鋭い剃刀のような演奏。今回98番の素晴しさにあらためて気づかされました。軍隊もアバドならではの素晴しい演奏ですが、曲中に書いたように、聴き方によっては肩すかしをくらうような演奏でもあります。評価はあらためて前曲[+++++]とします。

今回記事を書くのに調べていたら、アバドとルツェルン祝祭管のマーラーの1番から7番のBlu-rayがまとめて非常に安い値段で出ていますね。(HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS) ん~、どうしよう(笑)

にほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ
関連記事

2 Comments

There are no comments yet.

sifare

ロッシーニと言えば

いつも楽しく拝見しております。アバドは私も大好きな指揮者ですが、そういえばアバドのハイドンを持っていないことに気付きました(笑)次回入手したいと思います。

私はロッシーニと言えば「ランスへの旅」なのです(^^)もう何回聴いても惹きこまれますw

Daisy

Re: ロッシーニと言えば

sifareさん、なんか返事が漏れてました。スミマセン。
「ランスへの旅」が愛聴盤なんですね。わかります。あの沸き上がるような陶酔。アリアの嵐。なぜか似た興奮がドラティの「トビアの帰還」でも味わえるのですよ。こちらも素晴しい歌が次から次へと襲ってきます。是非お聴きください。レビューもしています。

  • 2013/05/20 (Mon) 22:46
  • REPLY