作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン/オランダ放送室内フィルのホルン信号など

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交響曲のメジャー盤を取りあげるというテーマですすめている5月。今日のアルバムはこれ。滅多に取りあげない国内盤です。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン(Jaap van Zweden)指揮のオランダ放送室内フィルハーモニー(Netherlands Radio Chamber Philharmonic)の演奏による、ハイドンの交響曲31番「ホルン信号」、交響曲72番、交響曲73番「狩」の3曲を収めたSACD。収録は2008年6月30日から7月3日にかけて、オランダ、ヒルヴェルサムのMCOスタジオでのセッション録音。レーベルは日本のEXTON。

ヤープ・ヴァン・ズヴェーデンは1960年、オランダ、アムステルダム生まれのヴァイオリニスト、指揮者。ニューヨークのジュリアード音楽院でヴァイオリンを学び、なんと19歳で名門アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートマスターに就任し、以来1995年までその地位にあった人。その後指揮者に転向し、欧米のメジャーオケとの共演を重ね、ネザーランド交響楽団の首席指揮者、ハーグ・レジデンティ管弦楽団音楽監督を経て現在はオランダ放送フィルハーモニーとこのアルバムのオケであるオランダ放送室内フィルハーモニーというオランダ放送音楽センター内に設置された2つのオケの首席指揮者を務めています。

日本のEXTONレーベルからブルックナーの交響曲や春の祭典などの録音をリリースしているのでおなじみの方も多いでしょう。今日取り上げるアルバムは録音が2008年ということで、2009年のハイドン没後200年にあわせてリリースしたものでしょう。

今日取り上げるアルバムは録音の良さを売り物にしているEXTONレーベルから、SACDマルチチャネル録音で、ハイドンの交響曲からとりわけホルンが活躍する曲3曲をピックアップしたという通好みの選曲。アムステルダム・コンセルトヘボウのコンサートマスター経験者ということで弦楽器の丁寧な扱いが期待されますね。私自身はズヴェーデンは初めて聴く人故先入観はまったくなし。こうゆうアルバムをはじめて聴くのは楽しみですね。

Hob.I:31 / Symphony No.31 "Hornsignal" 「ホルン信号」 [D] (1765)
透明な空間から沸き上がるキビキビと瑞々しいオケ。速めのテンポでスタイリッシュな演奏。ズヴェーデンの経歴からはもうすこし柔らかめでじっくりくると想像しましたが、ヴィブラートも適度な範囲の現代的な演奏です。SACDの特徴である広い音場にオケがクッキリ浮かび上がり、解像度は高いですが厚みや迫力はほどほどの録音。良く聴くとホルンもいいのですが、とりわけ弦楽セクションのキレのある音がなかなかの存在感。ズヴェーデンのコントロールは癖もなくオーソドックスなもの。ハイドンの交響曲の溌剌とした魅力を上手く描いていきます。
1楽章よりも2楽章のアダージョの落ち着いた表情にこの人の特徴があるように感じます。楽器が減ってソロ主体の部分の穏やかな表情が印象的。ピアニッシモはかなり音量を落として静寂感を印象づけます。濃い表情ではなく薄化粧の美学を解する意外に日本的な感性のある人と見受けました。
メヌエットも同様、そよ風のような爽やかさを感じる演奏。オランダに多い古楽器系の演奏ともまたちがい、現代楽器を非常に素直に演奏した生成りの布の表情のような素朴さがあります。
フィナーレは10分を超える長い楽章ですが、ズヴェーデンは次々と展開する変奏をひとつひとつ着実にこなしながら生まれてくる音楽の織りなす表情の多彩さを淡々と描いていき、そこここでひとつひとつの楽器を美しく響かせることで、素材の生地そのもの美しさにスポットライトを当ていくよう。ちょうどリステンパルトの演奏を現代的にしたような魅力があります。意外に音楽の構造や迫力ではなくメロディーそのものを淡々と描く人でした。終盤のヴァイオリンとホルンの聴かせどころもビシッと締めて流石の出来。

Hob.I:72 / Symphony No.72 [D] (before 1781)
またまた、意外や意外、この初期の交響曲ではホルン信号では淡々とすすめていたのとは逆に、冒頭から豊かな表情で曲の穏やかなリズムの面白さをかなり上手く表現しています。こだまするホルンの美しい響きも絶品。録音はホルン信号より明らかに豊かなオケの響きをとらえています。ティンパニの胴鳴りが実に美しい。これはいい。
2楽章のアンダンテもハイドンの書いたシンプルな曲に仕組まれた微笑ましい表情を実にさりげなく演奏しています。このへんの力の抜きかたは絶妙。
メヌエットに入ってもズヴェーデンのタクトはオケを煽ることはなく、最小限の力で非常に豊かな音楽を奏でていきます。奏者も完璧にリラックスして演奏を楽しんでいるよう。
そしてフィナーレは各楽器に変奏をリレーしていきますがフルート、チェロ、ヴァイオリン、コントラバスなどとつなぎ最後は全奏になり、リラックスムードからオケが吹き上がり終了。ハイドンの創意を楽しみながら演奏しているような余裕があり、この曲はズヴェーデンの狙いがピタリとハマりました。

Hob.I:73 / Symphony No.73 "La Chasse" 「狩」 [D] (before 1782)
そして終楽章の痛快な吹き上がりが印象的な73番。この曲も前曲同様素晴しい出来なので簡単に。快活な1楽章を余裕たっぷりに、軽々と表情豊かにこなし、アンダンテは愉悦感に溢れた演奏。不思議と音量を落として迫力よりも静かに創意を楽しむ聴き方にも向いています。メヌエットもハイドンの音楽が湧き出てくるようなズヴェーデンの巧みなコントロール。そして「報いられた誠意」の第3幕の前奏曲を転用した終楽章は、ハイドンの交響曲の面白さのエッセンスの詰まった曲。ズヴェーデンはこれまでのおだやかな表情から祝祭感溢れるこの楽章に入ってギアチェンジ。こう言ったところでもまったく力まず、見通しよく盛り上がるのが流石です。

やはりアムステルダム・コンセルトヘボウのコンサートマスターを長年つとめた経歴は伊達ではありませんでした。一つ前に取りあげたアダム・フィッシャーの最近の録音が、ハイドンのリズムとフレーズのキレを鮮明に浮かび上がらせ、唸るような迫力をもって聴かせる熱演だったのに対し、ズヴェーデンのハイドンは抑えた部分の音楽性の高さと異次元のリラックスから浮かび上がるハイドンのメロディの美しさ、面白さ、創意と言った面にスポットライトを当てた、こちらも名演でした。特に72番の素朴な美しさは絶品。地味な曲ではありますが、その地味な曲をこれだけ聴き応えある演奏に仕上げてくるあたり、やはり只者ではありませんね。評価はもちろん全曲[+++++]とします。

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