作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

グラン・カナリア・フィルのトランペット協奏曲、2つのホルンのための協奏曲

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今日は湖国JHさんに貸していただいたアルバム。

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HMV ONLINEicon / amazon

グラン・カナリア・フィルハーモニー管弦楽団(Orquesta Filharmónica de Gran Canaria)のハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの作品を収めたアルバム。ハイドンはトランペット協奏曲、ハイドンの作とされる2つのホルンのための協奏曲、モーツァルトのホルン協奏曲3番、ベートーヴェンのピアノ三重奏曲Op.11が収録されています。ハイドンの演奏者はトランペット協奏曲はトランペットがダヴィット・ラクルズ(David Lacruz)、アントニ・ロス=マルバ(Antoni Ros-Marba)指揮、2つのホルンのための協奏曲はホセ・ザルゾ(Jose Zarzo)とエリサ・ヴェルデ(Elisa Verde)のホルンにホセ・ルイス・ガルシア・アセンシオ(Jose Luis Garcia Asensio)指揮です。収録年は残念ながら表記がありませんが、アルバムのリリースが2010年ですのでそれほど古くありません。協奏曲3曲は最後に拍手が収められていますのでライヴでしょう。

このアルバムはHMV ONLINEのお気に入りリストに長らく登録していたのですが、何となく安っぽい廉価盤然としたジャケットからか、注文せずにおいたもの。ところがところが、良くメールをいただく湖国JHさんの好きな2つのホルンのための協奏曲の名演奏とのことで、貸していただいたもの。荷物がついて開けてみると見覚えのあるジャケット。アルバムの善し悪しは聴いてみなければわからない訳です。いつもはジャケットからにじみだす妖気に敏感に反応して、名演奏を嗅ぎ分けてきたわけですが、今回は勘が冴えていなかったということです(笑)

アルバムタイトルは"Vienna Classics in Gran Canaria"と題されたもの。カナリア諸島はスペイン領でヨーロッパの遥か南、アフリカのモロッコ、西サハラ沖に浮かぶ諸島で、中心となる島がグラン・カナリア島。ラテン語で「犬の島」を意味するそう。鳥のカナリアではないのですね。カナリア諸島の情報をまとめたサイトを紹介しておきましょう。

スペイン政府観光局オフィシャルサイト カナリア諸島

グラン・カナリア・フィルハーモニー管弦楽団は当地のオーケストラでしょう。ヨーロッパを中心に年間1000万人もの観光客が押し寄せる(Wikipedia)とのことで、このオケのコンサートを楽しみに観光に訪れる人も多いのではないでしょうか。

Orquesta Filarmónica de Gran Canaria OFGC

オーケストラのサイトを見てみると、歴史は古く設立は1845年に遡るそう。ヨーロッパのセレブが避暑に訪れるためか、共演した指揮者は一流どころがずらりとならんでいます。ロストロポーヴィチ、ルドルフ・バルシャイ、レイモン・レッパード、クリストファー・ホグウッド、フランス・ブリュッヘン、ギュンター・ヘルヴィッヒ、このアルバムでも指揮しているアントニ・ロス=マルバなどなど。現在はペドロ・ハルフター(Pedro Halffter)が音楽監督を務め、首席客演指揮者はギュンター・ヘルヴィッヒとのこと。いままであまり知りませんでしたが、伝統あるオケですね。録音も多く、Arte Novaからマーラーやドヴォルザーク、シベリウス!の交響曲等がリリースされています。南国のオケで聴くシベリウスは如何なる響きか、ちょっと聴いてみたくなります。

トランペット協奏曲を振っているアントニ・ロス=マルバは以前にも古い録音を取りあげています。

2011/01/22 : ハイドン–管弦楽曲 : ロス=マルバ/カタルーニャ室内管弦楽団の十字架上のキリストの最後の七つの言葉

経歴などはこちらをご覧ください。

また2つのホルンのための協奏曲を振っているホセ・ルイス・ガルシア・アセンシオは、ヴァイオリニストでもあり、史上最年少でロンドンの王立音楽大学の教授となった人。20年以上にわたりイギリス室内管弦楽団のコンサートマスター指揮者として活躍してきた人とのこと。1992年からはマドリードのライナ・ソフィア音楽学校で教えているそうです。弦楽器の扱いに注目でしょうか。

Hob.VIIe:1 / Concerto per il clarino [E flat] (1796)
なぜかしっとりと心に染み入る柔らかい響き。残響の多いホールでゆったりと鳴らされたオーケストラの響きが非常に豊か。テンポは中庸ですが、極度にリラックスしている演奏。トランペットのソロを担当するダヴィット・ラクルスはグラン・カナリア・フィルハーモニー管弦楽団の首席トランペット奏者。先日取りあげたモーリス・アンドレのインパクトにはもちろん比べるべくもありませんが、オケの伴奏に乗っておおらかにトランペットを吹いていきます。これはこれで十分なパフォーマンス。時折り高音をキリッと鳴らして変化をつけていくところ等ツボを押さえた演奏。ライヴですが、ノイズは皆無で、しかも音響処理をしたような不自然さはなく、録音は非常に自然です。ハイドンの書いたおおらかな音楽を、おおらかに演奏した、実に素朴でいい演奏。カデンツァを聴く限りテクニックも自然で音も非常に美しく、素晴らしい演奏。南国のオケの奏でる音楽は、小細工など考えもせず、おおらかさ一本の演奏です。
アンダンテも同様。ホールに響く美しいメロディーに癒されるよう。オケも過度に叙情的にならず、ラクルスはハイドンの書いたメロディーを淡々と演奏していくことで、素朴なメロディーの美しさが引き立ちます。
フィナーレもしっとりとした柔らかい響きを保ち、小気味好いテンポなんですが実に味わい深い演奏。トランペットの速いパッセージも難なくこなし、高音のもしっかり美しく輝くトランペットの美音を聴かせます。なんでしょう、ライヴなのにこの非常にリラックスした音楽は。緊張感張りつめるとは大曲にある穏やかな音楽。テクニックとは自然に振る舞うためにあると言わんばかりの演奏。遠くヨーロッパから来た観客に極上のもてなしを供するような音楽です。会場から自然に沸き上がる暖かい拍手が心を打ちます。

Hob.VIId:2 / Concerto per 2 cors et Orchestre [E flat] (1762) (Composed by Antonio Rosetti/Michael Haydn?)
そして2つのホルンのための協奏曲。ソロは前グラン・カナリア・フィル首席ホルン奏者のホセ・ザルゾと現首席奏者のエリサ・ヴェルデの二人。録音は少しハイ落ちで低音の定位感がちょっとぼやけ気味になりますが、前曲同様ホールの柔らかい響きをつたえる穏やかな録音。またもや朗らかなオーケストラの響きの魅力に溢れた演奏。この曲は先日ティルシャル兄弟の名演盤をレビューしましたが、この演奏のホルン奏者、ティルシャル兄弟に負けていません。ホルン2本が醸し出すえも言われぬ響きの重なり。ホルンが吹き上がるところの豪快な迫力も満点。素朴な造りの曲の魅力をつたえるオケ。いやいやこれは名演奏。グラン・カナリア・フィル、侮れません。指揮のホセ・ルイス・ガルシア・アセンシオはトランペット協奏曲のロス=マルバ同様、自然な表情を大切にするひとのよう。やはりイギリス室内管のコンサートマスターを長年務めただけに、弦楽器の表情付けは素晴らしいものがあります。音楽を楽しむ純粋無垢な心情をそのまま表現することだけをしっかりやっているよう。えも言われぬ幸福感で1楽章を終わります。
2本のホルンが大活躍の2楽章のロマンツァ。二人のホルンの息はぴったり。朗々と吹くホルンの音色の存在感も際立ち、オケの伴奏もしっとりと沈み込むロマンティックなもの。さざめくようにホルンを支えるデリカシーに富んだオケのコントロールは秀逸。深く深く沈み込む情感。2楽章、美しすぎます。
フィナーレは再びしっかりと独特のリズムを刻み、ホルンとオケが渾然一体となって振りまいた情感を拾い集めていくよう。ゆったりと広がるオーケストラをバックに2本のホルンが互いホルンの音に自身の音を乗せて響きをつくっていく様子がよくわかります。最後もオケのしっとりした情感が心にしみます。やはり会場から沸き上がる暖かい拍手とブラヴォーの声が印象的。いやいや、素晴らしい演奏でした。

このあとのモーツァルトのホルン協奏曲も名演。モーツァルトの閃きがしっとりと表された、これも特別な名演。特に1楽章のカデンツァは驚きのテクニック。何という奏法だかわかりませんが、素晴らしい効果。絶品です。正直ブレイン/カラヤン盤よりいいかもしれません。

南海に浮かぶカナリア諸島のオケゆえ、自身でも注文を躊躇していたアルバムですが、これは目から鱗の素晴らしい演奏。かつてカルロス・クライバーもカナリア諸島で演奏していますで、音楽的には非常に成熟したところなんでしょう。南国らしくおおらかな演奏なんですが、その音楽には心に刺さる深い感動がありました。音楽を純粋に演奏する喜び、純粋に聴く悦びに溢れた演奏といえばいいでしょうか。音楽に対する虚心坦懐な姿勢の大切さを教えられた気がします。これはすべての人におすすめの名盤です。評価はもちろん両曲とも[+++++]とします。

湖国JHさん、ありがとうございました!

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