アベッグ・トリオ20年ぶりのピアノ三重奏曲集(ハイドン)

今日は久しぶりのピアノトリオ。

AbeggTrio18.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

アベッグ・トリオ(Abegg Trio)の演奏による、ハイドンのピアノ三重奏曲3曲(Hob.XV:18、XV:23、XV:28)とチェンバロ五重奏曲(XIV:1)、ホルン三重奏曲(IV:5)の5曲を収めたアルバム。ナチュラルホルンはウィルヘルム・ブルンス(Wilhelm Bruns)とティルマン・シャーフ(Tilman Schaerf)。収録は2010年、ドイツ、ヴァイマル(ワイマール)のヴァイマル宮殿内の白いホール(Weißen Saal)でのセッション録音。レーベルは優秀録音で知られる独TACET。

以前聴いたピアノ・トリオのアルバムの出来が素晴らしかったのですが、ハイドンの録音はそのほかにないと思っていました。先日タワーレコード新宿店の店頭にてこのアルバムを見かけ、迷わずゲットした次第です。以前取りあげたアルバムの記事はこちら。

2011/06/03 : ハイドン–室内楽曲 : アベッグ・トリオのピアノ三重奏曲集

以前の録音は1991年の録音ですから、今回の録音の20年前のもの。20年の時が演奏をどう変えたかが聴き所でしょうか。アベッグ・トリオの情報は前記事をご参照ください。メンバーは以下のとおり。

ヴァイオリン:ウルリッヒ・ビーツ(Ulrich Beets)
チェロ:ビルギット・エリクソン(Birgit Erichson)
ハープシコード:ゲリット・ジッターバルト(Gerrit Zitterbart)

今日取り上げるアルバムにはピアノ三重奏曲に加えて、ホルンが活躍する曲が2曲。しかもナチュラルホルンでの演奏ということで、コントロールの難しい楽器からどのような音が聴こえてくるかも注目でしょう。ホルンの演奏者についても触れておきましょう。

ホルンが登場する2曲でナチュラルホルンを吹いている、ヴィルヘルム・ブルンズは1963年、ドイツのオランダ国境に近いグレーヴェン(Greven)生まれのホルン奏者。エッセンのフォルクヴァンク音楽大学でヘルマン・バウマンなどに学び、主にナチュラルホルン奏者として、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス、カペラ・コロニエンシス、アムステルダム・バロック・ソロイスツなどで活躍。現在はマンハイム国立劇場のホルン奏者であるとともにマンハイム音楽大学で教職にあるとのことです。当ブログでも以前に取りあげたトーマス・ファイのアルバムでホルンのソロを担当しており、安定したテクニックを披露しています。

2010/12/26 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】トーマス・ファイのホルン協奏曲、ホルン信号

また、ホルン五重奏曲のみ登場するティルマン・シャーフは、ヘルマン・バウマンとヴィルヘルム・ブルンズに学んだ人とのこと。彼もムジカ・アンティクァ・ケルン、コンチェルト・ケルン、カペラ・コロニエンシスなどの古楽器オケでホルン奏者を努めていた人。現在はヴィルヘルム・ブルンズらとドイツ・ナチュラル・ホルン・ソロイスツという団体での活動がメインとのことです。

Hob.XV:18 / Piano Trio (Nr.32/op.70-1) [A] (before 1794)
まずはピアノ・トリオから。この曲ではフォルテピアノを弾いていますが、楽器は1808年製のJohn Broadwood & Son。残響が程よく乗りながら、鮮明さを失わない録音。流石TACETというところでしょう。いきなり鮮度十分、アクセントがかなりはっきりとした火を噴くようなアンサンブル。クレーメルとアルゲリッチの掛け合いを彷彿とさせるようなもの凄い緊張感。古楽器での演奏でのこれほどのせめぎ合いはなかなか聴かれません。古楽器のダイナミックレンジの枠を超えんばかりのアタックが痛快です。リズムのキレは最高。やはりアベッグ・トリオのキレは健在でした。キレばかりでなく、抑えたところの情感も素晴らしいので、一層キレが引き立ちます。2楽章のアンダンテの深く静かな表情は鳥肌が立たんばかりの美しさ。実に活き活きとゆったりした楽章を演奏していきます。フィナーレでは適度に楽天的な表情を垣間見せ、楽章ごとに鮮明に表情を変えていきますが、それが曲自体の音楽の面白さを鮮明に表しているようなすばらしい説得力。1曲目から素晴らしい完成度に驚きます。ハイドンのピアノトリオの面白さ炸裂の名演奏です。

Hob.XIV:1 / Quintett [E flat] (c.1760)
曲が変わって、今度はチェンバロ、ナチュラル・ホルン、ヴァイオリン、チェロの五重奏曲。チェンバロの繊細な響きとナチュラル・ホルンの織りなす実に趣き深い響き。ブルンズとシャーフは絶妙のコントロール。コントロールの難しいナチュラルホルンを完全に制御。ホルンの響きの美しさと、キッという古楽器独特の音を巧く使ってシンプルな音楽に奥行きを与えています。このアルバムに収められた曲の中では作曲年代が若い頃の作品であり、曲の造りはやはりピアノトリオの成熟した筆致とは差がつきますが、演奏自体も、それを意識してか、素朴な曲の魅力に光を当てるような余裕があります。特にフィナーレの不思議なリズム感が面白い曲です。狩りの音楽でしょうか。ハイドンの実験精神がよくわかる曲ですね。

Hob.XV:23 / Piano Trio (Nr.37/op.71-3) [d] (before 1795)
変わって短調のピアノ三重奏曲。1曲目とは異なり、じっくりと落ち着いた入り。まさに曲調によって表現の方向性をきちんと使い分けているところが見事。だんだん音楽に立体感が出てきて、激しい掛け合いに変化していく予感がします。この期待感はなんでしょうか。音楽の表現の幅が大きいので、情感の微妙な変化をダイナミックに楽しめます。落ち着いた音楽なのに手に汗握る面白さ。まさに室内楽を聴く悦びに満ちた演奏。終盤の深い呼吸と最後の凛々しい盛り上がり。1楽章から神々しささえ漂います。実に深い音楽。
2楽章のアダージョの朗らかなのに耽美的な音楽。ハイドンにはモーツァルトほどの閃きはありませんが、モーツァルトにはこの朗らかな美しさはありません。安心して身を委ねられる響き。この曲のアダージョがこれほど心に刺さる音楽だったとは今まで気づきませんでした。気づけばヴァイオリンもチェロもフォルテピアノも極上のビロードのようなきめ細かい響きになっていました。
フィナーレは夢から覚まされるようにキリッとした音楽に変わります。演奏は寝起きに刺激が強すぎないように、適度な力感で流すようにはじまり、徐々にテンションを上げていきます。音楽のツボを完全に掌握していますね。

Hob.IV:5 Divertimento à tre [flat] (1767)
ホルンとヴァイオリン、チェロの三重奏。このホルンパートは難しそうですね。ここでもブルンズは安定した素晴らしいテクニックで、ナチュラル・ホルンの魅力的な響きを聴かせています。というか、超絶テクニックかもしれません。ホルンを吹けるわけではないので、この曲の難しさはわかりませんが、良く聴くと超絶的な音階をこともなげに吹いていきます。三重奏と声部の少ない音楽ですが、フレーズ一つ一つをクッキリと浮かび上がらせて、曲の面白さを十分に表現しています。

Hob.XV:28 / Piano Trio (Nr.44/op.75-2) [E] (1796)
最後のピアノ三重奏曲。いきなりフォルテピアノの澄みきった境地の演奏。ヴァイオリンの抜けるような高音に、チェロの実に柔らかい表情のサポート。フレーズごとに微妙に変化する多様な表情。ハイドン晩年の作の演奏は、このアルバムで一番無欲の演奏に聴こえます。ただただ音楽自体に語らせるように、デリケートに表情をつけていきます。1楽章は最後をキリッと引き締めるのみ。
2楽章のアレグレットはフォルテピアノの左手のおおらかな表情付けと右手のメロディーの弾き分けが見事。グールドばりのテクニック。中盤からヴァイオリンとチェロが重なっていきますが、張りつめた音楽の切々とした感じが迫ってきます。ふとテンションを下げてさっと終わる変化が素晴らしい。
フィナーレはこの曲でもハイドンの実験精神炸裂。面白いモチーフを発展させながら曲を作っていきますが、その変化の多様性と展開の豊穣さがやはり晩年の円熟を物語っています。やはり後半、すっと力を抜く部分で音楽の深みを感じさせるあたりの演出はアベッグ・トリオならでは。自然に音楽が深まり、味わいも深くなります。

3曲のピアノ三重奏曲の演奏は見事の一言。古楽器、現代楽器を問わず、ピアノ三重奏曲の演奏の理想的なものの一つに数えられるでしょう。間に挟まれたホルンが主役の2曲も見事。ナチュラル・ホルンの美しい音色を存分に楽しめます。もちろん評価は全曲[+++++]です。

当ブログの購読者のコアなハイドンファンの皆様。このアルバムをお持ちでなかったら買うべきです。ハイドンの音楽のすばらしさに溢れた絶対のオススメ盤です。

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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : ピアノ三重奏曲 古楽器 ハイドン入門者向け

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「コアなハイドンファンの皆様」

って、そこまで言われたら、ええ、いまアマゾンに寄ってきたところです。

Re: 「コアなハイドンファンの皆様」

maro_chroniconさん、おはようございます。
刺さってしまいましたか(笑) これはは本当にいいアルバムですので、敢えてダイレクトに申し上げました。是非お楽しみください。ピアノトリオが如何に豊かな音楽かよくわかる演奏です。
プロフィール

Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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