作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ハンガリー弦楽四重奏団のOp.77のNo.2、「ひばり」

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久々にヒストリカルもの。ちょっと前にディスクユニオンで仕入れたもの。

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ハンガリー弦楽四重奏団(Hungarian String Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.2とOp.64のNo.5「ひばり」の2曲を収めたアルバム。収録は1957年とだけ記載されています。レーベルはスイスのTUXEDO MUSIC。

ハンガリー弦楽四重奏団はブダペスト・アカデミーで、ゾルタン・コダーイやイェネー・フバイに学んでいたメンバーであるシャーンドル・ヴェーグ(Sándor Végh)らによって、1934年に設立されたクァルテット。1935年にはデビューし、1938年にはヨーロッパの主要都市で知らぬもののいない存在となりました。バルトークを得意としているようで、バルトークの弦楽四重奏曲第5番を作曲家の指導のもとハンガリーで初演しました。ただしヴェーグは1940年にヴェーグ四重奏団を設立するために退団し、今日取り上げるアルバムを録音した頃にはメンバーではありません。このアルバムの録音当時のメンバーはアルバムには記載されていませんが、WIkipediaなどの情報を調べると次のようになります。

第1ヴァイオリン:ゾルターン・セーケイ(Zoltán Székely)
第2ヴァイオリン:アレキサンドレ・モゾコフスキ(Alexandre Moszkowsky)
ヴィオラ:デネーシュ・コロムサイ(Denes Koromzay)
チェロ:ガブリエル・マジャル(Gabor (Gabriel) Magyar)

コダーイやバルトークの薫陶を受けたという伝統のクァルテット故、ハイドンの演奏にも険しさを期待してしまいます。1957年の響きはどのようなものでしょうか。

Hob.III:82 / String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
なんとステレオ録音です。冒頭から鋼のような険しい弦のタイトなアンサンブル。なるほどバルトークを得意としていることが頷けます。ハイドンの最後の創作期の作品なのに、もの凄いテンションでザクザク切り込みますが、不思議と踏み外したような印象はなく、古典の枠の中でのタイトさということでしょう。録音はハイテンションで切れ味抜群のヴァイオリンパートを中心にオンマイクで鮮明な響きをとらえています。おそらくLP音源ではたまげるようなリアリティを味わえるのではと想像しています。
2楽章のメヌエットの入り方に集中しますが、コミカルな印象もあるはずなのに、やはり荒々しさも感じさせる険しい入りで、メンバーにも緊張感が張りつめています。まるでバルトークのような険しさ。一貫して少し速めのテンポによって、楽章の行く末が俯瞰できるような気分に。
弦の音色はそのままに、一瞬にして音楽が一変。3楽章のアンダンテは諦観すら感じられる枯れた音楽。乾いた弦の音色とあっさりとしたフレージングが一層音楽の核に集中させます。この楽章の景色はハンガリー弦楽四重奏団のエッセンスを感じさせるもの。変奏が進んでも一貫して変わらぬ冷めた情感と、そこから沸き上がる音楽は、このアルバムが今も現役盤たる所以でしょう。ハイドンの最晩年にたどり着いた無垢な境地をここまで鬼気迫る演奏で聴かせるとは。
この曲の本質には楽章間のつながり等意図しなかったとも思わせる、かなり思い切った楽章間の変化。前の楽章の余韻を完全に断ち切るような鮮やかな変化。ここまではっきりと変化する演奏は滅多にありません。曲を完全に読み込んだ上での確信犯的解釈でしょう。険しい音色での演奏には神々しさすら感じさせるオーラが出ています。音楽の表情はこれ以上の険しさはないと思われるほどの青白く光る鋼のような鋭さ。

Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
旋律はおおらかなのに、変わらず鋭いボウイングでグイグイ迫ってくるタイトなメロディーライン。鋼のひばりです。往時のボロディン四重奏団を彷彿とさせる険しい音楽。ボロディンが鍛え抜かれた鋼だとすると、こちらは同じ鋼でも反射する光にほのかに色彩が映るようなニュアンスがあり、音楽がすこし膨らみます。聴き慣れたひばりの1楽章はやはり険しいばかりではなくほのかな色彩感も感じさせ、ハイドンの豊かな音楽が垣間見えます。
予想通り2楽章のアダージョ・カンタービレはこのアルバムでも最も歌った楽章。険しさばかりではないハンガリー弦楽四重奏団の器の大きさが伝わります。休符を長くとって音楽を印象的に。一人一人の演奏が実に呼吸が深く、4人のアンサンブルもピタリとそろいます。これほどの高みには容易には到達できません。
メヌエットは前楽章の覚醒を和らげるように、このアルバムでも最も楽天的な演奏。リズムに乗ってリラックスして音楽を楽しむようです。ただ音色は抽象芸術のようなミニマルな響きもあり、一筋縄では理解できない深さもあるのが流石。
フィナーレはそっと弦に触れるような、さざめくような軽さが印象的。メロディーが次々と受け継がれていくうちに混沌とした響きに昇華するような演奏。

1957年と今から56年も前の演奏ですが、音楽に古さは全く感じる事はありません。コダーイやバルトークを生んだハンガリーの伝統を感じる、タイトなのに色彩感もあり、古典的でありながら現代的でもある素晴らしい演奏。バルトークを得意としたハンガリー弦楽四重奏団の演奏ですが、弦楽四重奏の父ハイドンの曲も、孤高の高みを感じさせる素晴らしいものでした。演奏者によって光の当て方は様々。古楽器による演奏が多くなってきた現代におおいても、この演奏のもつ輝きは変わりません。いまだに現役盤である理由がよくわかりました。もちろん評価は両曲とも[+++++]とします。

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