作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

シネ・ノミネ四重奏団の弦楽四重奏曲集

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先日、ディスクユニオンで発見したアルバム。マイナー盤がつづきます。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

シネ・ノミネ四重奏団(Quatuor Sine Nomine)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.17のNo.4、Op.20のNo.4、Op.54のNo.2の3曲を収めたアルバム。収録は1992年5月、スイス、ローザンヌのギィ・ファロ・スタジオでのセッション録音。レーベルはスイスのCASCAVELLE。

まったく未知の四重奏団。調べてみるとシューベルトやブラームスの録音がある他、ハイドンもこの他に「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」があるようです。

シネ・ノミネとはラテン語で「名前のない」という意とのこと。ということで、「名も無き四重奏団」といったところでしょうか。彼らのウェブサイトがありましたので、紹介しておきましょう。

Quatuor Sine Nomine

本拠地はローザンヌのようで、ライナーノーツに記載されたこの演奏当時のメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:パトリック・ジュネ(Patrick Genet)
第2ヴァイオリン:フランソワ・ゴトロー(François Gottraux)
ヴィオラ:ニコラシュ・バシュ(Nicholas Pache)
チェロ:マルク・ジェルマン(Marc Jaermann)

ウェブサイトに記載されたメンバーはヴィオラが変わっていますが、3人はそのままです。ウェブサイトなどの情報によれば、設立は1982年で、間もなく1985年のエヴィアン国際コンクールと、1987年イタリアのレッジョ・エミリアのパオロ・ボルチャーニ国際コンクールでの優勝によって、国際的に知られるようになり、ロンドンのウィグモア・ホール、アムステルダムコンセルトヘボウ、ニューヨークのカーネギーホールなどでコンサートを開く一流アーティストの仲間入りを果たしました。その後、メロス四重奏団への師事やアンリ・ディティユーの作品のレコーディングの経験が彼らの演奏に大きな影響を与えたとの事です。レパートリーはハイドンから現代音楽までと幅広く、現代の作曲家の作品の初演も多く手がけています。
 
Hob.III:28 / String Quartet Op.17 No.4 [c] (1771)
独特の燻したような木質系の弦の音色がユニーク。ヴァイオリンは伸び伸びとした演奏で、ハイドンの初期の弦楽四重奏曲を溌剌とした音楽に仕立て上げています。若さ溢れるのびのびとしたハイドン。延ばす音の張りのあるフレージングとリズムの鮮度が良いので、素朴な造りの曲と演奏スタイルがマッチして、これはこれで完成度の高さを感じます。録音は奥行き感が少し浅めで、狭い部屋での録音のように聴こえます。鮮明さは十分。
2楽章がメヌエットになりますが、後年の迫力はまだ感じられず、曲調はシンプル。それだけに鮮度のよい表現が功を奏して、楽しい曲調が素直に表せています。つづくアダージョ・カンタービレではくだけた表現が加わり、表現の幅が広がります。それぞれのパートの演奏を奏者自身が楽しんでいる笑顔が見えてくるような演奏。初期の弦楽四重奏曲の特徴であるじわりとくる朗らかさが上手く表現できています。各パートが本当に良く歌っています。ここに来て表現に深みが加わり、シネ・ノミネ四重奏団の音楽が少し見えてきました。
フィナーレは畳み掛けるようなアンサンブルの面白さがよくわかる演奏。各パートのフレージングが手に取るように独立してわかる演奏ゆえ、音の重なりの面白さはかなりのもの。1曲目からいいところを狙ってます。

Hob.III:34 / String Quartet Op.20 No.4 [D] (1772)
おなじみ太陽四重奏曲集から。独特の燻したような音色が、前曲よりもさらに曲想に合って実にいい雰囲気。聴き進むと前曲では素朴さが曲調に合っていましたが、曲の構えが大きくなると、表現の幅がもう少し大きければと感じるようになります。音色も演奏もかなりいい線言っているのですが、もう一段の構えの大きさや個性が欲しくなってしまうところ。おそらく独特の音色の響きや、フレーズ単位の磨き上げに感心が集中しているからでしょう。
2楽章も同様ですが、短調による寂しげなメロディーが繰り返すところの切々とした感じは逆に上手く表現できています。途中からのチェロがメロディーを担当する部分では、意外に雄弁なチェロのボウイングがかなりのインパクト。ちょっと彼らの表現のツボがわかってきました。音数が少ないフレーズでもしっかりとメロディーラインを紡いでいくところが上手いですね。
3楽章のメヌエットを聴き進むと、すこしリズムの重さを感じるようになり、それが少々単調さをはらむようになります。
フィナーレは第1、第2ヴァイオリンのキレの良い掛け合いが見事な演奏。全体にいい演奏だと思いますが、独特の音色と少々空間の狭さを感じる録音で、すこしスケール感がスポイルされている印象があります。

Hob.III:57 / String Quartet Op.54 No.2 [C] (1788)
前2曲に比べて音楽の表現の多彩さが印象に残ります。ハイドンの音楽の進化を感じます。音楽の構成の面白さが大きく進歩します。この曲はこのアルバムでも聴き所でしょう。シネ・ノミネ四重奏団の表現スタイルと曲が一番マッチした演奏に聴こえます。続く2楽章は非常に変わった曲。引きずるようなヴァイオリンのメロディーラインが古典派の枠を超えていくよう。そして鮮やかなスタイルチェンジで、3楽章の軽妙なメヌエットへ入ります。ハイドンの実験心を覗き見るような微笑ましい曲。こういった素朴な表現は独特の音色もあって、なかなか効果的です。そしてフィナーレは荘重なアダージョから入る、かなり変則的なもの。ユーモラスさと優雅さの相俟った不思議な曲ですが、その辺の面白さの表現は秀逸。存在感のある音色と、落ち着き払った演奏が曲の面白さをクッキリと浮かび上がらせます。最後は鼠が走り回るようなプレストを挟んで、再び荘重なアダージョになります。

名も無き四重奏団と呼ばれるシネ・ノミネ四重奏団によるハイドンの弦楽四重奏曲集。ハイドンの四重奏曲を録音する時に最初に選ぶ曲ではない、珍しい3曲を選んで録音しているところからも、このクァルテットのユニークさが伝わります。燻したような独特の音色と、時には伸びがある演奏、時にはユーモア溢れる演奏と、多様な側面を聴かせてくれる、何か気になる可能性を感じさせてくれるクァルテットです。このアルバムでは最後のOp.54のNo.2が聴き所でしょう。この曲が[+++++]、他2曲は[++++]とします。

今週は月曜から急遽福岡日帰り出張。火曜以降も仕事が忙しく3日がかりでようやく記事を1本書きあげました。なかなか思うように運びませんね。

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