ヨアヒム四重奏団の「ひばり」「皇帝」
今日は先日ディスクユニオンで発見したお宝盤。

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(MP3)
ヨアヒム四重奏団(Joachim Quartett)の演奏でハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、Op.76のNo.3「皇帝」の2曲を収めたアルバム。収録は1986年秋、収録場所は記載されていませんが、このアルバムのレーベルであるTHOROFONとブレーメン放送の共同制作とのことですのでブレーメン放送のスタジオでの収録でしょうか。
ヨアヒム四重奏団はドイツのハノーファーを拠点とする四重奏団。名称はもちろん有名なヴァイオリニスト、作曲家、指揮者だったヨーゼフ・ヨアヒム(1831-1907)からとったもの。ヨアヒムはブラームスらと同世代の人。偶然にもアイゼンシュタットの近くに生まれ、ハノーファーにも長年にわたって住み続けハノーファー王家の音楽家として雇われていた事もあるそう。ヨアヒム自身も1869年、ヨアヒム弦楽四重奏団を結成し、当時世界屈指の弦楽四重奏団との名声を得ています。このアルバムのヨアヒム四重奏団は、もちろん全く新たな四重奏団でこの録音当時は若手のクァルテットでした。設立間もなくボンで開催されたドイツのコンクールで優勝すると、ヨーロッパで有名になり、ドイツ各地でコンサートを開くようになりました。ベルリンにあるドイツ連邦大統領宮殿であるベルヴュー宮殿で大統領を前に演奏した事もあるそうです。第1ヴァイオリンのフォルカー・ヴォルリッツシェが使っているのはヨアヒムのコレクションだった「グランチーノ」という楽器ということです。メンバーは下記のとおりです。
第1ヴァイオリン:フォルカー・ヴォルリッツシェ(Volker Worlitzsch)
第2ヴァイオリン:フリーデマン・コベル(Friedemann Kober)
ヴィオラ:モニカ・ヒュールス(Monika Hüls)
チェロ:ステファン・ハーク(Stephan Haack)
ヨアヒム四重奏団の名前でリリースされているアルバムはごくわずかであり、私も名前も演奏も聴いた事のない団体でしたが、なんとなくTHOROFONのアルバムにはいい演奏が多いので手に入れたもの。以前デートレフ・クラウスの老練なピアノソナタが印象に残っています。早速聴いてみると予感ズバリ的中で、このアルバム、最初の一音からただならぬ緊張感を帯びています。
Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
これまた非常にいい録音。鮮明な定位感でアンサンブルが目の前に浮かび上がります。ひばりの入りは羽毛でなでるような軽さがポイントですが、ヨアヒム四重奏団の演奏はまさにその通りの演奏。糸を引くように伸びるヴァイオリンの音色も存在感たっぷり。特にいいのがヴィオラとチェロの低音域の豊かな表情。音楽が踊るには低音弦の機敏な演奏が効きます。演奏スタイルは古風といっていいくらいオーソドックスですが、完成度は非常に高く、ダイナミクスの幅もきっちりとれて、フレーズごとの明確な表情付けもしっかり。少し前の時代の理想的な演奏といったらわかりますでしょうか。
アダージョ・カンタービレはかなり抑えた伴奏に乗って、ヴァイオリンも抑え気味の表情。ヴィブラートが心地良く感じられるのが嬉しいですね。
メヌエットまできて気がつくのが、楽章間のつながりの良さ。楽章間の対比もついているのですが、楽章の終わりから次の楽章への入りかたが、実に自然で、音楽的なつながりも再確認できるように演奏しています。音量とリズムのつながりがいいので、非常に滑らかに楽章がつながります。
フィナーレはヴァイオリンの名人芸。抑えながらも速い音階をさらりとこなしていき、次々の楽器をリレーしていく様は、まさに音楽の真髄を伝えるもの。等身大の大きさの身近な演奏という感じですが、演奏のキレのよさと録音の良さが相俟って、非常に素晴らしい印象を残しました。
Hob.III:77 / String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
つづいて、こちらも名曲です。ヨアヒム四重奏団もこの演奏を聴く限り、非常に安定感の高い演奏が特徴。前曲同様の演奏をいともサラッとこなしていきます。ちょっと懐かしくなるような郷愁を感じさせるような雰囲気もあって、テクニックばかりを聴かせる演奏ではありません。
おなじみのドイツ国歌のメロディーを奏でる2楽章は、流れの良さよりも、コンパクトにまとまった箱庭的な美しさを意図しているように聴こえます。もちろんテクニックは万全ですが、あえてスケール感を狙わず、旋律の美しさを手の届く範囲で表現してみているようですね。ここでもチェロ、ヴィオラの奏でる音の美しい音色がポイント。非常に親しみやすい演奏。最後は徐々にテンポを落として、とぼとぼとさまよい歩くようなテンションになり、抜け殻のようになるまで音を削いで、表現を極めます。いい演奏。
前曲同様、メヌエットへの自然な入りが絶妙ですね。こういった聴かせ所のセンスは抜群。楽章間の対比という視点ではなく、曲の流れの良さを保ちながら、さりげない曲調の変化を気づかせるというような意図があるのでしょう。メヌエット自体、オーソドックスな演奏ながら非常に豊かな音楽を聴かせる、実に奥行きの深い演奏。
激しい曲調のフィナーレも九分の力で余裕をもった演奏。常にハイドンの意図を踏まえて、踏み込みすぎず、それでいてキレに欠けることもない、素晴らしいコントロール。冷めているというのではなく、すべてが意図通りにいくように常に監視の行き届いた演奏という感じ。もちろん音楽の楽しさとユーモアを理解する心がともなったもの。
このところいろいろな奏者で弦楽四重奏曲を聴いてきましたが、同じ曲でも聴かせどころがかなり異なり、表現できる音楽の幅もずいぶんと違うものです。ソロはテクニックとインパクトに耳がいきますが、室内楽は奏者同士の一体感や対比、そして、各奏者の音楽性が絡まり合って一つの音楽をつくっていく面白さがあり、古来より数多の団体に演奏され続けてきたハイドンの曲でさえ今もって新鮮な感動を味わえます。今日取りあげたヨアヒム四重奏団の演奏もハイドンの演奏史に残すべき素晴らしい演奏です。聴き終わって、ハイドンとはこのように演奏するものだと教わったような気持ちになる、これぞハイドンのクァルテットというイメージがぴったりの演奏。大げさでなく、粋な感じも、音楽の深さも、アンサンブルの面白さも感じさせ、決して古さを感じさせない演奏と言えばいいでしょうか。評価は連日ですがやはり[+++++]以外をつける訳にはまいりませんね。
残念ながら、このアルバムはamazonのMP3版くらいしか入手できないようですが、聴く価値のある演奏です。ハイドンの弦楽四重奏曲を愛する皆さん、是非聴いてみてください。

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ヨアヒム四重奏団(Joachim Quartett)の演奏でハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、Op.76のNo.3「皇帝」の2曲を収めたアルバム。収録は1986年秋、収録場所は記載されていませんが、このアルバムのレーベルであるTHOROFONとブレーメン放送の共同制作とのことですのでブレーメン放送のスタジオでの収録でしょうか。
ヨアヒム四重奏団はドイツのハノーファーを拠点とする四重奏団。名称はもちろん有名なヴァイオリニスト、作曲家、指揮者だったヨーゼフ・ヨアヒム(1831-1907)からとったもの。ヨアヒムはブラームスらと同世代の人。偶然にもアイゼンシュタットの近くに生まれ、ハノーファーにも長年にわたって住み続けハノーファー王家の音楽家として雇われていた事もあるそう。ヨアヒム自身も1869年、ヨアヒム弦楽四重奏団を結成し、当時世界屈指の弦楽四重奏団との名声を得ています。このアルバムのヨアヒム四重奏団は、もちろん全く新たな四重奏団でこの録音当時は若手のクァルテットでした。設立間もなくボンで開催されたドイツのコンクールで優勝すると、ヨーロッパで有名になり、ドイツ各地でコンサートを開くようになりました。ベルリンにあるドイツ連邦大統領宮殿であるベルヴュー宮殿で大統領を前に演奏した事もあるそうです。第1ヴァイオリンのフォルカー・ヴォルリッツシェが使っているのはヨアヒムのコレクションだった「グランチーノ」という楽器ということです。メンバーは下記のとおりです。
第1ヴァイオリン:フォルカー・ヴォルリッツシェ(Volker Worlitzsch)
第2ヴァイオリン:フリーデマン・コベル(Friedemann Kober)
ヴィオラ:モニカ・ヒュールス(Monika Hüls)
チェロ:ステファン・ハーク(Stephan Haack)
ヨアヒム四重奏団の名前でリリースされているアルバムはごくわずかであり、私も名前も演奏も聴いた事のない団体でしたが、なんとなくTHOROFONのアルバムにはいい演奏が多いので手に入れたもの。以前デートレフ・クラウスの老練なピアノソナタが印象に残っています。早速聴いてみると予感ズバリ的中で、このアルバム、最初の一音からただならぬ緊張感を帯びています。
Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
これまた非常にいい録音。鮮明な定位感でアンサンブルが目の前に浮かび上がります。ひばりの入りは羽毛でなでるような軽さがポイントですが、ヨアヒム四重奏団の演奏はまさにその通りの演奏。糸を引くように伸びるヴァイオリンの音色も存在感たっぷり。特にいいのがヴィオラとチェロの低音域の豊かな表情。音楽が踊るには低音弦の機敏な演奏が効きます。演奏スタイルは古風といっていいくらいオーソドックスですが、完成度は非常に高く、ダイナミクスの幅もきっちりとれて、フレーズごとの明確な表情付けもしっかり。少し前の時代の理想的な演奏といったらわかりますでしょうか。
アダージョ・カンタービレはかなり抑えた伴奏に乗って、ヴァイオリンも抑え気味の表情。ヴィブラートが心地良く感じられるのが嬉しいですね。
メヌエットまできて気がつくのが、楽章間のつながりの良さ。楽章間の対比もついているのですが、楽章の終わりから次の楽章への入りかたが、実に自然で、音楽的なつながりも再確認できるように演奏しています。音量とリズムのつながりがいいので、非常に滑らかに楽章がつながります。
フィナーレはヴァイオリンの名人芸。抑えながらも速い音階をさらりとこなしていき、次々の楽器をリレーしていく様は、まさに音楽の真髄を伝えるもの。等身大の大きさの身近な演奏という感じですが、演奏のキレのよさと録音の良さが相俟って、非常に素晴らしい印象を残しました。
Hob.III:77 / String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
つづいて、こちらも名曲です。ヨアヒム四重奏団もこの演奏を聴く限り、非常に安定感の高い演奏が特徴。前曲同様の演奏をいともサラッとこなしていきます。ちょっと懐かしくなるような郷愁を感じさせるような雰囲気もあって、テクニックばかりを聴かせる演奏ではありません。
おなじみのドイツ国歌のメロディーを奏でる2楽章は、流れの良さよりも、コンパクトにまとまった箱庭的な美しさを意図しているように聴こえます。もちろんテクニックは万全ですが、あえてスケール感を狙わず、旋律の美しさを手の届く範囲で表現してみているようですね。ここでもチェロ、ヴィオラの奏でる音の美しい音色がポイント。非常に親しみやすい演奏。最後は徐々にテンポを落として、とぼとぼとさまよい歩くようなテンションになり、抜け殻のようになるまで音を削いで、表現を極めます。いい演奏。
前曲同様、メヌエットへの自然な入りが絶妙ですね。こういった聴かせ所のセンスは抜群。楽章間の対比という視点ではなく、曲の流れの良さを保ちながら、さりげない曲調の変化を気づかせるというような意図があるのでしょう。メヌエット自体、オーソドックスな演奏ながら非常に豊かな音楽を聴かせる、実に奥行きの深い演奏。
激しい曲調のフィナーレも九分の力で余裕をもった演奏。常にハイドンの意図を踏まえて、踏み込みすぎず、それでいてキレに欠けることもない、素晴らしいコントロール。冷めているというのではなく、すべてが意図通りにいくように常に監視の行き届いた演奏という感じ。もちろん音楽の楽しさとユーモアを理解する心がともなったもの。
このところいろいろな奏者で弦楽四重奏曲を聴いてきましたが、同じ曲でも聴かせどころがかなり異なり、表現できる音楽の幅もずいぶんと違うものです。ソロはテクニックとインパクトに耳がいきますが、室内楽は奏者同士の一体感や対比、そして、各奏者の音楽性が絡まり合って一つの音楽をつくっていく面白さがあり、古来より数多の団体に演奏され続けてきたハイドンの曲でさえ今もって新鮮な感動を味わえます。今日取りあげたヨアヒム四重奏団の演奏もハイドンの演奏史に残すべき素晴らしい演奏です。聴き終わって、ハイドンとはこのように演奏するものだと教わったような気持ちになる、これぞハイドンのクァルテットというイメージがぴったりの演奏。大げさでなく、粋な感じも、音楽の深さも、アンサンブルの面白さも感じさせ、決して古さを感じさせない演奏と言えばいいでしょうか。評価は連日ですがやはり[+++++]以外をつける訳にはまいりませんね。
残念ながら、このアルバムはamazonのMP3版くらいしか入手できないようですが、聴く価値のある演奏です。ハイドンの弦楽四重奏曲を愛する皆さん、是非聴いてみてください。
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