作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

カルロス・クライバー/ケルン放送交響楽団の驚愕1972年ライヴ!

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久々に手に取ったクライバーのアルバム。たまには燃え上がるようなハイドンを。

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カルロス・クライバー(Carlos Kleiber)指揮のケルン放送交響楽団(Cologne Radio Symphony Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲94番「驚愕」とベートーヴェンの交響曲7番を収めたアルバム。収録はこのアルバムには記載がありませんが、ネット上のディスコグラフィーを参照すると1972年5月27日、ケルンの放送センターでのライヴ収録。レーベルはFIRST CLASSICS。

カルロス・クライバーの振ったハイドンの交響曲の録音は、この驚愕のみで、今日取り上げる1972年のケルン放送交響楽団とのライヴ、1982年のウィーンフィルとのライヴ、そして1983年のバイエルン州立管弦楽団のライヴの3種の録音が残されています。ウィーンフィルとのライヴはブログの初期に取りあげています。

2010/04/23 : ハイドン–交響曲 : 音魂、クライバーの驚愕

3種ともいろいろなレーベルからリリースされており、手元に3種ともありますが、1984年のバイエルン州立管弦楽団のライヴは録音のコンディションが今ひとつなため、クライバーの驚愕というと、今日のアルバムか、ウィーンフィル盤ということになりますでしょうか。

クライバーはご存知のとおり、極端にレパートリーが狭く、気に入った曲というか、自身が完全に掌握した曲しか振らない人ですが、振る曲は余人を寄せ付けない完成度で圧倒的な演奏を聴かせます。ベートーヴェンやオペラでの火の玉のように燃え上がる高揚感、モーツァルトやハイドンで聴かせる気品すら感じる彫刻的な音楽はクライバーならではのものであり、また華麗な指揮姿も人を惹き付けて止まないものがあります。かくゆう私もクライバーのアルバムやDVDはいろいろ持っていて、たまに一杯飲みながら楽しんでいます。

特に興味深いのは「こうもり」序曲と「魔弾の射手」序曲のリハーサルをおさめたDVDと、「薔薇の騎士」の旧盤のDVD。クライバーのタクトがオケを自在に操る様子があまりにも見事。「薔薇の騎士」はクライバーがピットに入り拍手が鳴り止むのもまたずに序曲を振りはじめ、一瞬にして場内を陶酔の渦に巻き込む様子は何度見ても圧巻です。

そのクライバーが唯一振ったハイドンの驚愕。いたずら心を忘れなかったクライバーが描いたハイドンは、まさに筋肉質のダイナミックなハイドンですが、異次元の気品を色濃く感じさせ、そしてどこか微笑みをともなうような優しさもある演奏です。ウィーンフィルとの演奏が拍手からはじまり、コンサート会場の熱気がつたわる録音だったのに対して、こちらはおそらく放送用の録音であるため、クライバーの驚愕では最も古い録音であるにも関わらず、録音は最も聴きやすいものです。

Hob.I:94 / Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)
序奏の一音からなんと官能的な響き。クライバーならではの色っぽい筋肉質の演奏。最初からクライバーが完全にオケを掌握して、流れるようなのに起伏がしっかりというかしっとりとついた序奏。いきなりゾクゾクするような緊張感。さっと主題に入るとテンポをすっと上げてオケに力が漲ります。ヴァイオリンにレガートをかけてまさに音楽が流れだしてくるような演奏。要所でアクセントをつけながらも、音楽の流れのスムーズさは驚くほど。驚愕の1楽章の構成の魅力を余すところなくつたえます。流麗さ、ダイナミックさ、音楽が沸き上がるような感興、どれをとってもクライバーにしかできない芸当。弦楽器の奏でるメロディーはビロードのようなきめ細かさ。独特のゴリッとした音塊も感じさせます。
ビックリのアンダンテは、ビックリのポイントまでの比較的速めのテンポと、上品な表情付けに聴き惚れるほど。もちろんビックリの迫力はクライバーの一振りで腹にくる迫力。それ以降の変奏は、いろいろなところにスポットライトを移しながら、ハイドンが書き込めた機知の解説のようにわかりやすく次々と聴かせていきます。フレーズごとの変化を非常にクッキリと描いていきますが、一貫して流麗な音楽。オケも非常に上手く、クライバーの指示に従って見事な演奏。特に木管楽器の美しい響きが華を添えています。終盤に入ると優美さと迫力が相俟って素晴らしい音楽に。
もっとも期待するメヌエット。クライバーのめくるめくリズムの変化でこの曲の真髄にせまります。良く聴くとメロディーの一音一音のアクセントをかなりくっきりと変化させているのがわかります。音楽が生き物のように躍動していくのが鮮明に聴き取れます。メヌエットとはこのように演奏するものでしょう。ヴァイオリンのキレを鮮明にするところ、低音弦が唸るところ、リズムを溜めるところ、すべてクライバーの指揮棒の先端が紡ぎ出しているのでしょう。
そして、フィナーレ。まだエンジン全開ではないのに手に汗握るのは、クライバー効果でしょうか。もちろん、すぐにフルスロットルに。目が回るようなテンポに変わり、沸き上がるエネルギー、オケはフル回転でクライバーの恐ろしいまでの煽りに応えます。クライバーが腕をグルグルまわす姿が想像できます。最後は期待通り恐ろしいまでの興奮、陶酔、爆発。ハイドンの書いた楽譜からここまでの音楽を引き出すとは。単なるオーケストラの爆発ではなく、爆風にうたれ髪の毛が逆立つ観客の姿が想像されるような素晴らしいフィニッシュです。この日の観客はこの奇跡のような演奏に卒倒した事でしょう。

カルロス・クライバーの1972年のケルンでの驚愕のライブ。何度聴いてもこの演奏は衝撃的といえるすばらしさ。音楽がもつ力に陶酔します。これはハイドン演奏史に残るべき記念碑的な演奏でしょう。録音のコンディションも悪くなく、響きの豊かなホールに響き渡るオーケストラの爆発が見事に録られています。ハイドンの素晴らしい演奏の数々のなかでも、この演奏はやはり別格。まさに血湧き肉踊る演奏とはこの演奏のことでしょう。評価はもちろん[+++++]です。

久々に聴いたクライバーのハイドン。録音を通してさえも脳内にアドレナリン噴出です。はぁ。

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4 Comments

There are no comments yet.

トトラ(ブログ:寝ても寝ても本の虫)

No title

クライバーにハイドンの録音があったとは!
これは聴かねばならないですね。
音質もいいみたいで楽しみです。
映像でハイドンを華麗に振ってるのをぜひ見たかった
ですねー。

  • 2013/02/12 (Tue) 01:44
  • REPLY

Daisy

Re: No title

トトラさん、おはようございます。
いつもコメントありがとうございます。この録音いろいろリリースされていますので、中古もふくめてみつかるのではないでしょうか。リンク先のカルロス・クライバーのディスコグラフィーで確認してみてください。これまでリリースされたアルバムが一覧できます。

http://www.thrsw.com/ckdisc/haydn_franz_josef_1732_1809_/

  • 2013/02/12 (Tue) 06:19
  • REPLY

トトラ(ブログ:寝ても寝ても本の虫)

No title

Daisyさん、早速入手しましたよ!

すごかった!ベト7も白熱ですが、
驚愕は初めて聴いたレパートリーなので、
クライバーのハイドンてこんなに華麗なのかと
びっくりでした。

音質もいいし、名盤ですよね(*^^*)

  • 2013/03/02 (Sat) 13:57
  • REPLY

Daisy

Re: No title

ととらさん、こんばんは。

やはりクライバーはクライバーなんですね。ベートーヴェンなどとは異なり、ハイドンはクライバーの十八番ではないのかもしれませんが、この驚愕の演奏を聴けばわかるとおり、ハイドンの演奏史に輝く名演でしょう。ご指摘の通り音質も十分です。クライバーの真髄に触れる演奏と言っていいでしょう。

  • 2013/03/02 (Sat) 22:03
  • REPLY