【新着】ハイドン・トータル!

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東京藝術大学音楽学部室内楽科とウィーン音楽演劇大学ヨゼフ・ハイドン室内楽研究所による共同ブロジェクト"haydn total"。ハイドンの弦楽四重奏曲全68曲を収めた22枚組のCDBOX。演奏は両校の現役学生と卒業生によってこの企画のために編成されたクァルテットが中心で、1曲1曲異なるクァルテットによる演奏。有名なところでは、当ブログで取りあげたミネッティ四重奏団も加わっており、以前取りあげた演奏自体がこのアルバムに含まれています。前の記事を確認するとミネッティ四重奏団のメンバーもウィーン音楽演劇大学の出身でした。録音はハイドン没後200年となる2009年から2012年にかけて東京とウィーンで行われ、東京は東京藝術大学千住キャンパスのAスタジオ、ウィーンはウィーン音楽演劇大学ヨゼフ・ハイドン・ホールでのセッション録音。レーベルというより発売元は東京藝術大学出版会。一般のCDとは異なり商品番号やバーコード等もつけられていません。
簡易的なボックスセットかと想像して注文しましたが、届くとかなり丁寧につくりこまれたボックス。各辺10cm四方のボックスの中に10巻に別れた2〜3枚組のセットが入っており、解説も非常に手の込んだもの。このアルバムの企画意図、各演奏の情報、演奏を担当したクァルテットの成り立ちやメンバーの説明、収録情報などきちんとした内容です。作り手の情熱がプロダクションからひしひしと伝わります。
何枚かかいつまんで聴き始めましたが、学生も含むクァルテットの演奏というふれこみから想像した演奏の質よりもかなりいい出来です。もちろんミネッティ四重奏団のように一流どころの演奏も含まれているので、それほど悪かろうはずはありませんが、かなりいい線行ってます。1曲1曲異なる演奏者でハイドンの弦楽四重奏曲を聴くというのも、これまたいいものです。演奏者から演奏を想像するというような聴き方ではなく、それぞれどうアプローチしているかを確かめながら聴く楽しみがあります。
解説に、「録音指導と録音技師の養成もこの企画の重要な要素であった」と書かれているとおり、このアルバム、録音もなかなか良く、弦楽器の柔らかい音色が自然なプレゼンスで眼前に定位するものが多く、品質も非常に高いものです。
今日は、まず、お気に入りの曲を1曲とりあげましょう。
Hob.III:35 / String Quartet Op.20 No.5 [f] (1772)
演奏は4 for Haydnというクァルテットで、まさにこの企画のために結成されたグループ。メンバー及び出身などは以下のとおり。
第1ヴァイオリン:Michael Hsu(シュツットガルトのオーケストラのコンサートマスター)
第2ヴァイオリン:Rieko Aikawa(藍川理映子、リンツ・ブルックナー管メンバー)
ヴィオラ:Shang-Wu Wu
チェロ:Sarah Weilenmann(ウィーン・パシフィック四重奏団メンバー)
録音は2009年2月6日、ウィーンのウィーン音楽演劇大学ヨゼフ・ハイドン・ホールで。
非常に自然に空間に溶け込むような入り。一流どころと比べると一人一人の技量は差がつくところですが、逆に音楽に自然なぬくもりが感じられて悪くありません。しっとりとした表情を醸し出しながら、ゆったりとこの曲独特のほの暗いメロディーラインを奏でていきます。まるで友人が家にきて演奏してくれているようなリアリティ。各奏者が他の奏者の演奏に耳を傾け、リズムを確かめながら演奏していくよう。音楽が生み出されるその場に立ち会う喜びに溢れています。なぜか手作りの音楽が心に染み入ります。1楽章も後半に至って盛り上がりを見せる場面での力の入り方の変化も4人の息がピタリと合って、聴き応えがあります。
続くメヌエットでは、表現の幅が少し広がり、メリハリのはっきりした演奏に少し変化します。流麗さはほどほどながら、キレはそこそこあり、ざっくりしたアンサンブルでクッキリとしたメロディーを奏でていきます。
アダージョに至り、第1ヴァイオリンの図太い木質系の響きの美しさにハッとさせられます。録音がいいので非常に存在感のある音像が眼前にしっかり描かれます。奏者の息づかいまで鮮明に録られており、臨場感満点。ゆったりとした音楽が流れます。
最後のフーガも外連味なくじっくりと音を重ねていきます。朴訥さを感じさせるほどの生真面目な演奏ですが、それがいいと思わせる音楽性があります。非常にリアルな各楽器の音の重なり。弦楽四重奏の響きの魅力をあらためて確認できるいい演奏です。
研ぎすまされた一流奏者の演奏もいいものですが、このアルバムで聴く事ができる演奏は、まさに等身大の演奏。非常に自然かつ鮮明な録音もあって、まさに目の前にクァルテットがきて演奏しているようなリアリティがあります。音楽を演奏する喜びをともに味わえるような演奏ですね。これはこれで非常に楽しめますし、もしかしたらハイドンの弦楽四重奏曲の楽しみ方の本質はこのような聴き方にあるというような気にさせられる説得力もあります。冷静に評価をすると、演奏のキレ等もあり最高評価はつけられませんが、ここで聴かれる音楽の濃さを考えると低い評価をつけるべき演奏でもありません。トップバッターとして取りあげたこの演奏は[++++]としておきます。
このセット、ハイドンの弦楽四重奏曲が好きな方にはオススメです。音楽をつくっていこうとする息吹のようなものが感じられる、いいプロダクションです。全集としては求めやすいものですので、是非手に入れてこの息吹を感じてください。
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