ワルター・オルベルツのピアノソナタXVI:20

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ワルター・オルベルツ(Walter Olbertz)の演奏によるハイドンのピアノソナタ全集の第1巻(全3巻)から、今日はピアノソナタHob.XVI:20を取りあげます。リンク先はすべて9枚組の全集の現行盤。XVI:20の収録は1972年5月、ドレスデンのルカ教会でのセッション録音。レーベルは旧東独圏のBERLIN Classics。
オルベルツのハイドンのピアノソナタ全集は、まさにハイドンのピアノソナタ全集の決定盤というべきものです。交響曲全集におけるドラティ盤と同様、有無をも言わせぬ揺るぎない価値をもつもの。1曲1曲を聴くと、それぞれテクニックや響きの美しさでオルベルツ盤を上回る演奏はあるものの、全集としての一貫した姿勢と、今となってはすこし古さは感じさせながらもストイックなまでに古典的なカチッとした表情がハイドンのピアノソナタの魅力を不動のものにしていると言えばいいでしょうか。これまでオルベルツを取りあげてこなかったのは単なる巡り合わせ、というか数曲取りあげて評するにはあまりに大きな存在であるからに他なりません。
ただ、ブログをはじめて記事数が800を超えているにもかかわらず、スルーし続けるのは、現代日本におけるハイドンの羅針盤たらんとする当ブログの沽券にかかわりますゆえ、最近のこれまで取りあげてこなかった著名演奏家シリーズの機に乗じてようやく重い腰を上げたと言うのが正直なところ。今日は大好きなXVI:20をとりあげようと思います。
ワルター・オルベルツは1931年、ドイツのアーヘン(Aachen)に生まれたピアニスト。父はオペラ歌手のヨゼフ・オルベルツ(Joseph Olbertz)。ワイマールでピアノと作曲を学び、また指揮者のヘルマン・アーベントロートの指揮クラスに長年参加していたとの事。その後”ハンス・アイスラー”ベルリン音楽大学でピアノ教師となり、1981年に教授となりました。1964年ごろからはテノールのペーター・シュライアーとヨーロッパはもとよりアメリカ、日本を含むアジア、オセアニア諸国にコンサートツアーで訪れ、非常に高い評価を得ました。またヴァイオリンのカール・スズケとも同様です。
Hob.XVI:20 / Piano Sonata No.33 [c] (1771)
ピアノの音は鮮明かつ磨かれた響きですが、低音域の迫力や音の厚み、実体感については時代なりかもしれません。ただ、ハイドンの古典的な側面は上手く表現されており、鑑賞には全く問題ありません。ちょっと引っかかるようにはじまる入り。ただし音は磨き抜かれた美音。キラ星のように輝くピアノの音が、あっさりとしながらも、しっかりとした抑揚をともなって紡ぎ出されていきます。特に右手の奏でるメロディーラインの美しさはハイドンのこの曲に対して十分なレベル。途中極端にテンポを落として曲想の変化を明確に区切ります。ただ流れる部分のさらさらとした良さもあり、自在とまでは行かないまでも、固い感じは一切しません。やはり磨き抜かれた、オルベルツらしい独特の感興。1楽章は特に高音域のメロディーラインに研ぎすまされた感覚が集中しているようです。
聴き所の2楽章は、ことさら美しく聴かせようという視点ではなく、じっくり丁寧にフレーズを奏でていく事で浮かび上がる透徹した美しさをしっかり表現して行くことを狙っているよう。詩情溢れるメロディーに対して、じっくりと積み上げるような表現を重ねて美しさに至っているところがポイント。こうして浮かび上がる美しさは説得力が違います。オルベルツはあくまで平常心。
フィナーレも速めのテンポをとりながら、さらっとメロディーラインを奏でていきますが、このさらっとした感覚がオルベルツならでは。ハイドンのピアノソナタの一貫したテイストだと理解した上での解釈でしょう。この流れの良さは並のピアニストでは表現できないですね。実に自然で日常の延長にあるピアノの演奏。
ハイドンのピアノソナタのあるべき姿の一つと言っていいでしょう。ワルター・オルベルツの演奏は、さっぱりとさりげない中に、ハイドンの作曲による曲想の面白さや、メロディーラインの美しさ、曲調の変化の面白さ等を実にさりげなく織り交ぜ、こうでなくてはならないという演奏者の視点よりは、このさりげなさからこんなにもハイドンの素晴らしさが浮かび上がってくると実感できるような玄人好みの演奏。この演奏を好む人は、ハイドンの音楽の深遠なる魅力を解する人でしょう。素朴な演奏の中にハイドンの真髄が聴こえてくるわけですね。評価はもちろん[+++++]とします。
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