超名演盤発見! マルク・デストリュベ/パシフィック・バロック管弦楽団のヴァイオリン協奏曲集

マルク・デストリュベ(Marc Destrubé)のヴァイオリン、パシフィック・バロック管弦楽団(Pacific Baroque Orchestra)の演奏で、ハイドンのヴァイオリン協奏曲3曲(Hob.VIIa:4、VIIa:1、VIIa:3)を収めたアルバム。収録は2001年11月26日から28日、カナダのバンクーバーの聖フィリップ英国国教会でのセッション録音。レーベルは加ATMA classique。
久々に所有欲を満たす、いいジャケット。ヴァイオリニストのマルク・デストリュベが気さくにふだん着で微笑む姿の写真をあしらった、実にカジュアルな作り。なぜか海辺の岩の前で写っているように見えますが、こればバンクーバーの風景でしょうか。こうゆう何気ないジャケットのアルバムに名演が多いんですね。本当です。
演奏者のマルク・デストリュベもパシフィック・バロック管弦楽団も全くはじめて聴く人。一度も鞘から出したことのない刀の鞘を抜く時のような緊張感が漲ります(笑)
いつものように演奏者の情報を調べておきましょう。彼のサイトがありました。
Marc Destrubé - violinist
マルク・デストリュベはカナダのヴァイオリニスト。ソリストや室内楽奏者、オケのコンサートマスター、指導者でもあります。調べてわかったんですが、古楽器演奏の花形として活躍してきた人。生年は記載されていませんが師事したのはシャーンドル・ヴェーグやアマデウス弦楽四重奏団の第1ヴァイオリンのノーバード・ブレイニンら。現代楽器による演奏も、古楽器による演奏もこなします。特に古楽器の分野では有名どころにいろいろかかわっています。カナダのラルキブデッリにヴァイオリニストとして録音に参加しているのをはじめとして、ヨス・ファン・インマゼール率いるベルギーのアニマ・エテルナのモーツァルトのピアノ協奏曲全集へ参加、またフランス・ブリュッヘン率いる18世紀オーケストラの副コンサートマスターと名の知れた古楽器オケにずいぶんと参加している人でした。腕は確かなのでしょう。このアルバムのオケであるパシフィック・バロック管弦楽団は彼が設立したオケで、カナダのバンクーバーを拠点にしています。
このアルバム、いろいろ調べながら聴き始めましたが、聴きすすむうちにただならぬ演奏であることがわかりました。
Hob.VIIa:4 / Violin Concerto [G] (c.1765/70)
冒頭から華やかな古楽器オケの音色が部屋に満ちあふれます。様々な一流古楽器オケに参加してきたデストリュベが自ら設立したオケだけに、その音色はどの古楽器オケよりも素晴らしいものに聴こえます。18世紀オーケストラの迫力とアニマ・エテルナの瑞々しさ、ラルキブデッリのソロの見事さを併せ持って、なおかつそれに色彩感を加えたよう見事な音色。録音は教会での録音らしく残響は豊かですが、直接音重視なため鮮明さは十分です。デストリュベのコントロールはハイドンのヴァイオリン協奏曲の華やかさを生かしながらも自然なソノリティを生かしたもの。ヴァイオリンの音色は古楽器独特の高音域の美しさと木質系の柔らかな中音域に特徴がある落ち着いたもの。カデンツァはデストリュベ自らのもの。派手さはありませんが、ヴァイオリンの音色の美しさを知り尽くした人のもの。
1楽章からアダージョに移ると、テンポの自然さを聴いて、やはり指揮者というよりヴァイオリニストがコントロールしているのだとわかる、音楽を豊かに聴かせようと言う視点の演奏だとわかります。弦楽器の表情、色彩感はは非常に豊かで、ヴァイオリニストならでは。古楽器の美しい音色を最大限に発揮させようとしているのがよくわかります。起伏も非常に大きく、またオケのそれぞれの奏者の息も完璧に合って、見事なもの。カデンツァの美しさは鳥肌が立たんばかり。特にアメリカ系のオケに聴かれるテクニック重視のキリッとした演奏とはことなり、ヨーロッパ系のしっかりとした情感が伴います。
フィナーレはデストリュベのヴァイオリンの自然さが際立ちます。フレーズのキレは抜群にいいのですが、キレの良さを強調する演奏ではなくそれを超えた自然さ。オケも同様で腕利き揃いであることがわかります。1曲目からあまりの素晴らしさにノックアウト。
Hob.VIIb:1 / Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
1曲目と同様、演奏の精度、表現の幅、音色の美しさがいきなり際立ち、やはり部屋中に華やかな響きが満ちあふれます。モーツァルトのヴァイオリン協奏曲に対して今一マイナーな存在のハイドンのヴァイオリン協奏曲ですが、この演奏を聴くととモーツァルトに勝るとも劣らない作品であることがよくわかります。また、有名なチェロ協奏曲がチェロという楽器の響きの真髄をふまえたつくりになっているのと同様、この曲がヴァイオリンの華やかかな響きを如何に生かした曲である事もよくわかります。ハイドンのヴァイオリン協奏曲の演奏の新次元を切り開くような、素晴らしい表現力。曲ごとに演奏にムラがあるようなことはなく、抜群の安定感。特にデストリュベのテクニックと存在感は見事。
圧巻はピチカートに乗ったヴァイオリンの名旋律が有名なアダージョの美しさ。デストリュベのヴァイオリンは非常にデリケートなニュアンスを余すところなくつたえ、この曲の美しさの極北を示すよう。教会に響き渡るヴァイオリンの凛とした音色。控えめながら起伏に富んだオケのピチカート。この演奏を聴くとデストリュベがソリストとしてもっと活躍していてもおかしくないと思わせます。磨き抜かれた純粋無垢な音楽に酔いしれます。
フィナーレはこちらの目を覚ますように、再びキレのいい華やかな響きが戻ります。デストリュベのヴァイオリンとオケのヴァイオリンパートが拮抗するような展開。ソロが浮かび上がるところもあれば、飲み込まれそうなほどオケが踏み出すところもあり、協奏曲の多様な面白さが味わえます。
Hob.VIIa:3 / Violin Concerto "Merker Konzert" 「メルク協奏曲」 [A] (c.1765/70)
アルバムを聴いているのに最後の曲ということで、名残惜しい気持ちに。ハイドンのヴァイオリン協奏曲をこれほどの聴き応えある演奏で聴く充実感。以前とりあげたカルミニョーラ盤はカルミニョーラの斬新なセンスが光る名盤でしたが、この演奏はより曲自体に近い視点で自然な演奏というタイプの極上のもの。ハイドンのヴァイオリン協奏曲の古楽器による定番としても良いと思います。曲ごとの出来を問うような演奏ではなく、デストリュベがハイドンの曲に込められた素晴らしさをを我々に伝えてくれているような演奏。この曲はソロの部分が比較的多く、デストリュベの語るような素晴らしいヴァイオリンの響きをより深く味わえます。
アダージョもさらさらと流れるフレーズを素晴らしい色彩感としっとりとしたフレージングで磨き上げていきます。フィナーレまで含めて、デストリュベによってハイドンの書いた音楽自体が蘇るよう。演奏者の個性や狙いではなく、ハイドンによって書かれた音楽自体が流れるようなすばらしい演奏でした。
オークションの写真をみて、このアルバムは手に入れるべきと即断しただけのことはありました。ジャケットで微笑むデストリュベ、ここにこそハイドンの音楽があるのだという自信からでた、本当の微笑みでした。様々な一流オケで活躍してきたデストリュベが作り上げたオケとの素晴らしいアルバム。ハイドンのヴァイオリン協奏曲の決定盤と断じます。最初の一音をならしたときの驚きは、以前取りあげた、シュミット=ゲルテンバッハ/ワルシャワ・シンフォニアの悲しみの時と同様の衝撃に近い驚きでした。なぜかジャケットの佇まいも似ています。そう、知る人ぞ知る素晴らしいアルバムのジャケットはさりげないのです。おそらく、真の実力者はこのさりげなさを愛する謙虚な人なのだろうと勝手に想像しています。評価はもちろん全曲[+++++]です。皆さん、是非手に入れてください。あいにく取り扱いはTOWER RECORDSのみですが、、、
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