カール・リヒター/ベルリンフィルの驚愕、時計(ハイドン)

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カール・リヒター(Karl Richter)指揮のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏でハイドンの交響曲94番「驚愕」、101番「時計」の2曲を収めたアルバム。収録は1961年3月、ベルリンでのセッション録音。録音サイトの記載はありませんが、ドイツ表現主義の鬼才ハンス・シャロウン設計の現ベルリンフィルハーモニーは1963年竣工ですのでフィルハーモニーでの録音ではありません。レーベルはARCHIVの日本盤(ポリドール)。
カール・リヒターと言えばバッハの大家。というよりマタイなどは神格化された演奏。昔某雑誌で無人島にもっていくアルバムのような特集がありましたが、たしかリヒターのマタイが選ばれていたような気がします。もちろん手元にもありますが、実はちょっと苦手にしております。切々と迫ってくる響きに打たれ続ける修行のような演奏ゆえ、重荷に感じてしまうようなところがあります。バッハではやはりロ短調ミサ、それもコルボのような透明感とソノリティの美しさを極めた演奏を好みます。まあ、こちらの器が問われているというのが正直なところでしょう。
そのバッハの大家のリヒターがハイドンの驚愕と時計を、なんとベルリンフィルを振って録音しているということで気になっていたアルバムですが、今回取りあげている一連ののアルバム同様、レビューを書くようなしっかりとした聴き方で聴いていないため、なんとなく特徴をつかみかねているというところです。今日はリヒターのハイドンに迫りたいと思います。
カール・リヒターは1926年、ドイツのプラウエン生まれの指揮者。牧師の子として生まれ、ドレスデン聖十字架教会聖歌隊に入り音楽教育を受け始めました。1946年ライプツィヒに移りライプツィヒ音楽大学に入学、聖トーマス教会のカントルであったカール・シュトラウベらに師事。1949年には教会音楽の国家試験に合格して、聖トーマス教会のオルガニストに就任しました。1951年にはミュンヘンに移り聖マルコ教会のオルガニストに就任。バッハ・コンクールでの良い演奏がきっかけとなってミュンヘン国立音楽大学のオルガンとルター派教会音楽の講師なりました。1951年にはまた、ハインリヒ・シュッツ合唱団の指揮者となり、主にバッハのカンタータを演奏していき、名称をミュンヘン・バッハ合唱団に改称しました。追って1953年にはミュンヘン・バッハ管弦楽団を設立。そして有名なマタイ受難曲を1958年にARCHIVレーベルに録音し、以降一連のバッハの録音をARCHIVに残す事となります。日本へは1969年にはミュンヘン・バッハ管弦楽団、合唱団と、1979年には単身来日しているとのこと。1981年に心臓麻痺で亡くなっています。
Hob.I:94 / Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)
録音は1961年にしては鮮明。近めに定位する直接音重視の録音。ベルリンフィルが非常に穏やかに響き渡る序奏、かと思いきや、すぐに馬力を発揮。やはりベルリンフィルの弦楽器群は抜群のエネルギー感。リヒターの指揮は実にバランスの良い正統的なもの。ハイドンの生気を十分に生かした表現。この力感はやはりオケがベルリンフィルであることが大きいでしょう。弦楽器の奏でるメロディは良く彫り込まれた立体感あるもの。先日のムラヴィンスキーのハイドンはボディービルダーのように筋肉を浮かび上がらせるほどの力感だったのに対し、リヒターの力感は体操選手のようなバランスと端正さの伴ったもの。良く聴くとインテンポでタイトに引き締まった素晴らしい演奏。記憶の中の演奏よりだいぶ鮮明。
2楽章のビックリアンダンテはドイツ的均衡を感じさせるもの。じっくり磨き上げたフレーズを重ね、此処ぞ爆発というところも鋭いアタック。やはりベルリンフィルならではの先鋭なアタック。教科書的名演と言っていいでしょう。正確きわまりないフレージングでどこにも隙がなく張りつめた緊張感を感じます。弦楽器の鋭く分厚い響きは流石ベルリンフィル。
予想通りメヌエットも骨格のしっかりした演奏。墨をたっぷりと含んだ太い筆で書いた楷書のよう。筆の運びのリズムが良く、また力を抜いた部分は流れるようで風格すらあります。
フィナーレをことさら強調しないのはリヒターの見識でしょうか。これまでの楽章と同様ベルリンフィルの素晴らしい弦楽セクションが少しずつ力感を増しながらメロディーをこなしていきます。ただし平常心はたもちながら、淡々とすらした風情。最後の場面はベルリンフィルの低音弦セクションの迫力を聴かせて終わります。やはり楷書の名筆のような整然とした印象を残します。
Hob.I:101 / Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
続く時計は前曲以上にベルリンフィルの素晴らしい弦楽セクションが威力炸裂。時計の最も充実している1楽章の畳み掛ける迫力が素晴らしいです。冷静なリヒターも最初からオケを煽っている感じ。前曲の均整のとれた美しさとは異なり、ここはいきなり気合い漲る感じです。
そしてゆったりとした時計のリズム。アンダンテは予想通り、美しい時の流れをきざむ時計。徐々に盛り上がる部分でベルリンフィルのざっくりとした迫力が味わえます。均整のとれたなかから沸き上がるエネルギー。ティンパニも鋭いリズムでサポート。
この曲でもメヌエットは盤石。端正な指揮ながらベルリンフィルの筋肉質の響きが垣間見え、オーケストラの充実した響きを純粋に楽しめます。
そしてフィナーレはそよ風のようなかなり抑えた入りから、ベルリンフィルの輝かしい音色の全奏に移り、それでもどこか冷静にテンポをコントロールする視点のもと、力感と抑制を交錯させながらクライマックスへと音楽を導いていきます。良く聴くと素晴らしいヴァイオリンの音階のキレ。フィナーレをかなり盛り上げる演奏も多い中、時計の聴かせどころを1楽章だと設定して、盛り上げながらも流すように進めるところが秀逸です。
バッハの大家、カール・リヒターとベルリンフィルによるハイドンの「驚愕」と「時計」を収めたアルバム。ベルリンフィルという強力なオケを得て、リヒターの規律でしっかり隈取りされたベルリンフィルの迫力ある演奏が聴き所でしょう。やはりハイドンの交響曲をきっちり正統的に演奏している感じ。古典派交響曲の理想的教科書的演奏というところでしょう。ハイドンらしい機知やユーモアのある雰囲気はあまり感じられませんが、これは指揮者の誠実さと生真面目さの現れだと思います。響きの向こうにバッハと相通じる精神性のようなものもイメージできるところは流石リヒターと言うべきでしょう。演奏の質から言っても、この時代としては悪くない録音という意味でも最高評価で良いのですが、ハイドンらしさ、あるいはハイドンの交響曲の解釈としてという視点で言うと、生真面目すぎるように感じられなくもなく、評価は両曲とも[++++]としておきます。この演奏を[+++++]としても全く違和感ありませんが、これは好みの範囲かもしれません。皆さんはどう聴かれますでしょうか。
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