ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルの88番、ロンドン

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エフゲニー・ムラヴィンスキー(Evgeni Mravinsky)指揮のレニングラード・フィルハーモニー管弦楽団(Leningrad Philharmonic Orchestra)の演奏による、ハイドンの交響曲88番、104番「ロンドン」、リヒャルト・シュトラウスのホルン協奏曲1番の3曲を収めたアルバム。収録は88番が1964年4月20日、ロンドンが1965年10月3日、何れもレニングラード(現サンクト・ペテルスブルク)のフィルハーモニー大ホールでのライヴ。レーベルはRussian DISCというアメリカかカナダのレーベル(CDはアメリカ、ライナーノーツはカナダの印刷とのこと)。
ムラヴィンスキーはチャイコフスキーやショスタコーヴィチなどの演奏では有名なことは知ってはいますが、いまひとつちゃんと聴いた事がない人。ハイドンの録音も少しありますが、あまり印象に残る演奏ではありませんでした。食わず嫌いはいけないとのことで、実に久々にCDラックから取り出したアルバム。
ムラヴィンスキーの略歴を紹介しておきましょう。1903年、レニングラード生まれの指揮者。父は貴族、母は歌手と言う家柄。6歳からピアノを習い始めたが当初はペテログラード大学で生物を専攻。その後1924年 にレニングラード音楽院に入り直し、作曲と指揮を学びました。1931年にレニングラード音楽院を卒業後マリインスキー劇場(当時の名称はレニングラード・バレエ・アカデミー・オペラ劇場)で指揮者デビューを果たし、以後1938年まで務めました。ムラヴィンスキーの手兵となるレニングラード・フィルハーモニー管弦楽団には1931年から客演をはじめ、1938年に全ソ指揮者コンクールに優勝したのを機にレニングラード・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者となり、以後、亡くなる1988年まで50年にわたりこのオケの常任指揮者であったとのこと。日本には1973年、75年、77年、79年と4回来日しています。
普段からロシアものなどには縁遠い存在のため、私自身はムラヴィンスキーの偉大さを身を以て知っているというわけではありません。もちろん、ムラヴィンスキーのハイドンとはかなり特殊なレパートリーであったことと想像される訳ですが、ハイドンの多様な演奏を通してその真髄に迫ろうという当ブログが避けて通ることができない存在であるのは確かなところ。もう一枚、時計のライヴも手元にあるのですが、どちらかと言うと今日取り上げるアルバムの方が聴きやすいため、このアルバムを選びました。
Hob.I:88 / Symphony No.88 "Letter V" 「V字」 [G] (1787?)
ちょっと遠めに定位するざらついた響きのオケ。録音のせいか響きが枯れていて、あまり潤いのある音ではありません。標準的なテンポでメロディーラインを整理しながらわかりやすく、クッキリとしたメロディーラインを描いていきます。派手な訳ではありませんが、ちょっとしたアクセントのキレがよく、ちょっと迫力がある演奏。爆発するのでしょうか。まさに冷静にクッキリとした表情付けをしている感じ。牙をいつ剥くのかちょっとそわそわします。スリムなのに筋骨隆々なハイドン。爆発には至らず、筋肉美をみせるだけ。
ラルゴも標準的なテンポ。なにげに彫りが深く、メロディーもクッキリ浮かび上がります。この楽章をきっちり彫り上げることでアーティスティックな魅力を引き出します。録音がもう少し良ければもう少し魅力的になりますね。
期待通りメヌエットも引き締まった演奏。もうすこし激しい演奏を想像していましたが、非常に冷静な正統的演奏。良くキレる鉈の切れ味。ムラヴィンスキーの鋭い眼差しが見えるよう。終盤、力感の漲りが素晴らしいです。
フィナーレこそ爆発するでしょうか。徐々にテンポを上げ、力感も増してきます。最後にいたる盛り上がりは流石ムラヴィンスキー、ウサイン・ボルトのスタートダッシュのような引き締まった美しさと瞬発力を一瞬垣間見せますが、さっと力をぬいて終了。ムラヴィンスキー流のハイドンの機知の表現でしょう。最後は拍手も録られています。
Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
そして期待のロンドン。こちらは音質はすこし粗いながら、迫力は上。冒頭の序奏の力感はなみなみならぬもの。曲の違いからか最初からかなりの力感。まさに筋肉美を誇る演奏。黒光りするボディービルダーの体を連想させる力感。力感一方ではなく、抜くところのセンスもいいため、非常にメリハリがついています。霧のロンドンなどハイドンが経験したロンドンの面影を感じさせるというよりは、木炭でデフォルメしてデッサンを書いたお手本のような演奏。ビシッと決まった陰影と太い隈取り。なぜか禁欲的なまでにアーティスティックな雰囲気が濃い演奏。
アンダンテはレガートをきかせて、筋肉をすこし目立たせなくしています。意図して流れをよくしようということでしょうか。あいかわらず気高さを感じさせるムラヴィンスキーのコントロールですが、手綱を少し緩めてほっとさせてくれます。
メヌエットも手綱は引き締めません。前曲のメヌエットとは異なり、流れを重視した演奏。後半に入ると、やはり徐々に鋭さを増して、きりりと引き締まった響きを聴かせます。
そして、聴かせどころのフィナーレ。速いです。ここにきて一気に集中力が上がります。これまで溜めていたエネルギーを一気に噴出させようということでしょうか。ヴァイオリンパートは粗いながらもかなりのキレ。速い音階をザクザク刻んでいきます。終盤に入るといよいよ来ました。往時のトスカニーニを思わせる素晴らしい力感。全曲のなかでもここに明確な頂点をもってきて、別格の高みを表現するところは常人ばなれしたものです。やはりクライマックスの禁欲的なまでの引き締まった盛り上がりは見事なものでした。
エフゲニー・ムラヴィンスキーと手兵レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団によるハイドンの88番とロンドンは、流石ムラヴィンスキーと言える、正統派の筋骨隆々とした演奏でした。もちろんハイドンの交響曲の演奏としては王道を行くものではありませんが、トスカニーニやセル、ライナーなどが目指した引き締まったハイドンの交響曲演奏の流れに近いもので、ムラヴィンスキーならではのポイントは厳格な禁欲性というか非常にストイックな雰囲気があることでしょう。この演奏、もうすこし録音に潤いがあれば一層魅力的なんでしょう。それほど悪い録音ではありませんが、この迫力をよりリアルな音で聴いてみたいと思うのは私だけでしょうか。評価は録音の分を少し差し引いて両曲とも[++++]とします。
このシリーズ、続けましょうか(笑)、乞うご期待。
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