【新着】エンデリオン弦楽四重奏団の弦楽四重奏曲集

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エンデリオン弦楽四重奏団(Endellion String Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲4曲(Op.76 No.1、Op.20のNo.4、Op.64のNo.5「ひばり」、Op.103)を収めたアルバム。収録は2012年7月19日から22日にかけて、英ブリストル北方のモンマス(Monmouth)にあるウィアストン・コンサート・ホール(Wyastone Concert Hall)でのセッション録音。レーベルはWarner Classics。
エンデリオン弦楽四重奏団にはハイドンの弦楽四重奏曲Op.54とOp.74のアルバムがVirgin Classicsからリリースされていて、手元にもあるのですが、特別な印象はもっていませんでした。今回手に入れたアルバムも未入手のアルバムということで、最近聴いてよかったエルサレム四重奏団の未入手アルバムを頼むついでに注文していたもので、何気なく手に入れたというのが正直なところ。
ところがどっこい、これが予期せぬ素晴らしい演奏で、メガネが崑ちゃんのごとく鼻まで落ちました(古いか、、)
エンデリオン弦楽四重奏団は1979に創設されたクァルテット。名前の由来はイギリス南西端に突き出す半島にある聖エンデリオン教会からとったものとのこと。1992年からはケンブリッジ大学の招聘クァルテットとなっています。2008年にはベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集をこのアルバムと同じWarrer Classicsからリリースしていますので、世間的にはメジャーな存在なのでしょうか。メンバーは創設当初から変わらないということで下記のとおり。
第1ヴァイオリン:アンドリュー・ワトキンソン(Andrew Watkinson)
第2ヴァイオリン:ラルフ・デ・ソウザ(Ralph de Souza)
ヴィオラ:ガーフィールド・ジャクソン(Garfield Jacson)
チェロ:デイヴィット・ウォータマン(David Waterman)
探したところエンデリオン弦楽四重奏団のウェブサイトがありましたが、かなりポップでカジュアルな感じ。なかなか面白い構成ですね。
the Endellion String Quartet
Hob.III:75 / String Quartet Op.76 No.1 [G] (1797)
かなり残響が豊かな録音ですが、音像は鮮明なため問題ありません。冒頭から一人一人の音色がはっきり異なり、それぞれ独立して響くのですが、一人一人が他者の音をよく聴いて音をそっと乗せている感じがあり、アンサンブルの面白さが際立ちます。まさに弦楽四重奏の真髄にいきなり触れる感じです。4人の織りなす自在で柔らかな響きに引き込まれます。4人とも絶妙のリズム感とテクニックの持ち主と聴きましたが、牙は剥かずにハイドンの曲の演奏を心からリラックスして楽しんでいるような演奏。まさに楽しげなようすが録音からもじわりと伝わってきます。メロディーの受け渡しも絶妙。流石34年目のクァルテットの至芸。最初のトラックから絶妙の演奏です。
アダージョは予想通り、じつに慈しみ深い演奏。ゆったりと深い呼吸の演奏ですが、聴覚が鋭敏に冴え渡ります。アンドリュー・ワトキンソンのヴァイオリンは線は細めで響きは繊細ですが、ここぞという時の高音の素晴らしい伸びは絶品。この楽章では4人がピタリとそろって弾くメロディーの一体感が素晴らしいです。チェロのデイヴィット・ウォータマンもユーモラスな弓さばきを見せて音楽を豊かにしています。
メヌエットはテンポの自在に変化させ、ピチカートを美しく響かせるところが聴き所。速いパッセージでようやくスロットルを開いて9分の力まで出します。
フィナーレもリズムの自在な変化の上にアクセントがきっちりついて、曲の最後を引き締めます。険しい表情で畳み掛けてくる演奏が多い中、エンデリオン弦楽四重奏団は手作りの音楽であるの誇示するように、あくまで一人一人の自在な変化の上で、個性をぶつけ合いながら、合わせるところはきっちり合わせており、画一的な音楽ではなく実に豊かな緊張感ある音楽を作っています。いきなりハイドンの真髄に触れる素晴らしい演奏。
Hob.III:34 / String Quartet Op.20 No.4 [D] (1772)
2曲目以降は簡単に。ゾクゾクするような緊張感溢れる入り。微妙に音色や響きにズレもありますが、テンポだけはピタリと合っていて、肝心なところでは響きもピタリと合って完璧なアンサンブルを聴かせます。それが4人の個性を生かしたアンサンブルであることを物語っています。いたずらをするように跳ね入るメロディーのユーモラスな感じも完璧。
2楽章は前曲同様、非常に慈しみ深い演奏。一人一人の奏者がゆったり奏でるメロディーが絡まりながら豊穣な音楽を創っていきます。とくにチェロの表情の豊かさが際立ちます。終盤は変奏が拡大して峻厳な雰囲気になり神々しさも感じさせます。
短くユーモラスなメヌエットを経て流麗なフィナーレに。フィナーレの弓をザクザクと刻むような激しいアンサンブルにこの曲のクライマックスがありました。激しい部分でも不思議と音楽を楽しむ余裕を感じさせるのがこのクァルテットの真髄でしょう。アドレナリン噴出の素晴らしいキレ。
Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
そして名曲ひばり。まさに期待通りの演奏。このクァルテットの特徴が良く出ています。美しい旋律が活き活きとした表情で描かれ、ハイドンの仕込んだユーモラスな雰囲気、純粋に音楽と演奏を楽しむ素材としての完璧です。むしろ完璧すぎる完成度の曲を、リラックスして楽しむ事に集中した方がいいと忠告しているような演奏。書の達人は手本通りではなく、あちこち崩しながらも味わいの深さにおいては他を寄せ付けない深みを持つのににた、解脱の境地でしょうか。フィナーレまでエンデリオンの至芸に打たれっぱなし。
Hob.III:83 / String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
最後はハイドン最後の弦楽四重奏曲、というより最後の作品。創作を極めたハイドンが最後にたどり着いた境地をまさにそのまま音にしたような演奏。力は抜けて、美しいメロディーが純粋に響きます。演奏も無欲に弓を動かしながら、音符をおいていくよう。最後の最後に書いたメヌエットは非常に意欲的なものでしたが、これを最後に筆を置き2楽章までの未完の作品となり、後年未完のまま出版されたというのは良く知られた話ですね。エンデリオン弦楽四重奏団の演奏は、この曲がハイドン最後の曲ということを暗示させるような諦観すら漂う名演でした。
このアルバムの最後にはこのOp.103出版されるときにハイドン自身によってつけられた12の音符によるヴァイオリンのメロディーの演奏も最後に収められています。これも心を打つもの。ハイドン自身が創作を終えたことを現す歌詞もつけられています。
「わが力すでに萎えたり。齢をかさね、力、衰えぬ。」(大宮真琴「新版ハイドン」より)
エンデリオン弦楽四重奏団の弦楽四重奏曲集は、ちょっと予想外の素晴らしい演奏でした。普段、レビューするアルバムについて、あまり人の書いた物は読まないようにしていますが、それは先入観をもって聴くよりも、純粋に演奏を聴いた時の印象を大事にしたいからに他なりません。このアルバムも届いてすぐに、何も調べずに聴きましたが、最初の一音からただならぬ演奏だとすぐにわかる独特の響きが聴かれました。聴きすすむうちに、これぞ弦楽四重奏の真髄と感じ入った次第。ライナーノーツの表紙の裏側には笑顔で微笑む4人のとてもいい写真がつけられています。このアルバム、選曲、演奏、プロダクションともに非常に良く出来た名盤だと思います。もちろん評価は全曲[+++++]とします。エンデリオン弦楽四重奏団が1980年代に入れたもう一枚のアルバムも聴き直さねばなりませんね。
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