マーティン・ハーゼルベック/ディヴェルティメント・ザルツブルクのオルガン協奏曲集

前記事でとりあげたウーベ・クリスチャン・ハラーの大小オルガンミサで抜群のオルガンを聴かせていたマーティン・ハーゼルベックですが、彼のオルガンをもう少し聴きたくなって取りあげたアルバム。

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マーティン・ハーゼルベック(Martin Haselböck)のオルガン、ディヴェルティメント・ザルツブルク(Divertimento Salzburg)の演奏による、ハイドンのオルガン協奏曲3曲(Hob.XVIII:2、XVIII:7、XVIII:8)を収めたアルバム。収録は1982年6月11日から14日、XVIII:2とXVIII:8がオーストリアのアイゼンシュタットの聖マーティン教会、XVIII:7がすぐ近くのシュッツェン・アム・ゲビルゲの教会でのセッション録音。レーベルは名門ORFEO。

マーティン・ハーゼルベックは1954年ウィーンに生まれたオルガン奏者、指揮者、作曲家。指揮者としてハイドンの交響曲の録音も何枚かあります。ウィーンやパリで音楽を学んだ後、最初はオルガンのソリストとして国際コンクールで頭角を現し、アバドやムーティ、マゼール等との共演を通して世界的に有名になりました。オルガンソロでリリースされたアルバムは50枚以上とのこと。ウィーンでは宮廷オルガニストとして教会音楽を極めながら、その後指揮もこなすようになり、1985年には自ら古楽器オーケストラのウィーン・アカデミーを創設。ムジーク・フェラインでの通年コンサートサイクルを開催したり、ウィーン交響楽団をはじめに世界各地のオーケストラに客演し、多くのアルバムをリリースするなど多岐にわたって活躍しています。

このアルバムの録音はウィーン・アカデミーの創設前であり、オケはディヴェルティメント・ザルツブルクとなっていますが、このオケ、ライナーノーツにもネットにもほとんど情報はなく、このオケが参加しているアルバムはちらほらあるのみ。おそらく録音用のオケなのではないかと想像しています。指揮はヴァイオリンの アングレット・ディードリヒセン(Annegret Diedrichsen)が担当しています。

Hob.XVIII:2 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [D] (before 1767)
オケは古楽器の音色ですが、奏法は古楽器らしいものと言うよりは現代楽器に近い印象。小編成オケの小気味好いキレを感じさせる序奏から入ります。オルガンは前記事のオルガンミサでのソロと近く、特に音階についてはオルガンをかなりテンポ良くコントロールして、独特の恍惚感を表現するハーゼルベックならではのフレージングを聴かせます。この曲はアイゼンシュタットの聖マーティン教会のオルガン。特に気張ったところはなく淡々と恍惚感を深めていくような演奏。音階が繰り返されるうちに独特の奮起になります。ハーゼルベックのオルガンソロのキレが聴き所でしょう。
続く2楽章のアダージョ・モルトも淡々。オルガンソロのキレの良さが浮かび上がり、オケは完全に伴奏に徹していますが、よけいな事をしない分、ヴァイオリンをはじめとする各楽器の淀みない演奏と響きの美しさに集中できる感じ。途中オルガンのメロディーラインがぐっと低域に沈み込む場面の自然な流れは、作為のなさが美しさを際立たせている感じ。
薄化粧の美人を見るようなフィナーレ。素材としての曲の美しさを包み隠さずそのまま表現したような感じ。テンポやアクセントでは踏み込まず、落ち着き払って曲自体の美しさを楽しむ余裕が感じられます。オルガンのこの曲独特の陶酔感はなかなかのもの。踏み込んだ個性がある訳ではありませんが、最初の曲から程よく力が抜けていい感じ。

Hob.XVIII:7 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (before 1766,1760?)
録音会場が変わってシュッツェン・アム・ゲビルゲの教会になります。オルガンの音色も変わって、より素朴な響きに。オケは弦楽器のみ。演奏も前曲のオルガンがグイグイ引っ張る演奏から、非常に大人しく穏やかな音楽に変わります。曲調は練習曲のような雰囲気も感じさせる素直なもの。曲調を考えて録音会場とオルガンを選んでいるものと推察されます。短調の短い印象的なアダージョを挟んでフィナーレへ。この曲では不思議とオルガンのスタンスが前曲と異なってソロとして牽引する役割からオケの一部分のような役割。もちろん音量的には主役ですが、オケに溶け込もうとしているように聴こえます。曲によってこれだけ演奏スタンスが変わるのは珍しいですね。オルガン協奏曲というよりオルガンつきのディヴェルティメントといった風情。

Hob.XVIII:8 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [C] (before 1766)
再びアイゼンシュタットでの録音。管楽器が最初から加わる事で前曲とは響きの豪華さが異なります。1曲目と同様オルガンが存在感を発揮。ハーゼルベック独特の高揚感のあるオルガンが戻ってきました。オケも前曲とはノリが違います。適度にキレとノリを感じる活き活きとした響きが痛快。音楽のつくりが大きくなり、曲の立体感が素晴らしいですね。このアルバムでも一番いい演奏。心なしかオケの響きの美しさも上がっています。
2楽章のアダージョはオルガンとオケの掛け合いの間の妙が楽しめます。火花飛ぶというわけではなく、落ち着いた中にも実に慈しみ深い掛け合い。ハーゼルベックもオケのディヴェルティメント・ザルツブルクも演奏を楽しんでいる様子が手に取るようにわかります。古楽器なのに古楽器を意識させない自然なソノリティが美しさのポイントでしょうか。
フィナーレはオルガンの壮麗さが一層輝かしくなり、教会中に美しい響きが満ちる感じ。オルガン音楽を聴く楽しみに溢れた演奏とはこのことというような演奏。

マーティン・ハーゼルベックとディヴェルティメント・ザルツブルクによるオルガン協奏曲集。やはりハーゼルベックのオルガンは前記事の大小オルガンミサを聴いて気になった通り、独特の高揚感を感じさせるキレのいい演奏であり、オルガンの腕は確かなものでした。プロダクションとしてはハイドンゆかりのアイゼンシュタット近郊で、曲想にあわせて2つの会場とオルガンを使い分けた録音で、なかなか工夫したものに仕上がっていますが、個人的には3曲ともアイゼンシュタットで録ってもよかったのではと思いました。2曲目については、両端の曲とは明らかに演奏スタンスを変えていますが、結果的に両端の曲の面白さが浮かび上がったような形になっています。評価は1曲目のXVIII:2が[++++]、2曲目のXVIII:7が[+++]、3曲目のXVIII:8は[+++++]とします。久々に評価が曲ごとに割れましたね。やはり3曲目の仕上がりは素晴らしく、ハイドンのオルガン協奏曲の面白さをうまく表現できていると思います。

数日前のニュースで知りましたが、インドのシタール奏者、ラヴィ・シャンカールが92歳で亡くなったとのこと。シャンカールのシタール協奏曲は思い出深いLPなので、たまに取り出して聴いています。訃報ではじめて知ったのですがシャンカールの娘さんはノラ・ジョーンズなんですね。これは知りませんでした。全く違う音楽でも才能は受け継がれているということでしょう。ご冥福をお祈りします。

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tag : オルガン協奏曲 古楽器

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ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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(2019年12月31日)
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