作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【新着】トーマス・ファイ/ハイデルベルク交響楽団の交響曲1番他、爆速!

0
1
最近の古楽器による定番はファイ。リリースはされていましたが、先週手に入れたばかりのアルバム。

Fey14510.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ご存知トーマス・ファイ(Thomas Fey)指揮のハイデルベルク交響楽団(Heidelberger Sinfoniker)のハイドンの交響曲1番、4番、5番、10番とハイドンの交響曲の最初期の作品。収録は2011年7月7日、13日から16日、ハイデルベルク近郊のヒルシュベルク=ロイタースハウゼンにあるユダヤ教旧会堂でのセッション録音。レーベルはもちろんhänssler CLASSIC。

このアルバムはファイによるハイドンの交響曲全集の第17巻。そろそろ終わりが見えてきましたでしょうか。最初は違和感もあったファイのかなり踏み込んだ表現も、最近は慣れたというより、すっかりハマり気味。これほど自在なコントロールは他に類を見ません。最近とりあげたものは、おしなべて良い評価をつけています。

2012/07/08 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイ/ハイデルベルク交響楽団の90番、オックスフォード
2012/06/11 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイ/ハイデルベルグ交響楽団のマリア・テレジア、56番
2012/05/03 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイ/シュリアバッハ室内管の「時の移ろい」「告別」
2011/07/06 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイの「帝国」、54番
2010/12/26 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】トーマス・ファイのホルン協奏曲、ホルン信号
2010/08/01 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイの69番、86番、87番

Hob.I:1 / Symphony No.1 [D] (before 1759)
いやいや、あんまり速いテンポでびっくらこきました。ハイドンが本来どのように演奏してほしいと思ったかとは無縁の解釈でしょう。最初期の交響曲をどう料理しようかという解釈側の視点の強い演奏です。あまりの速さに面食らったものの、聴き進めるうちに面白く聴こえてくるから不思議なものです。これをライヴできいたらのけぞる事請け合いでしょう。1楽章は暴風のように吹き抜けます。
2楽章のアンダンテは一転普通のテンポと、ファイ特有の時折変化や修飾を利かせたフレージングに戻ります。音楽自体はシンプルなものですが、そこここに遊びを入れて曲を面白く聴かせようというファイの面目躍如。
フィナーレも速いですが、普通の速さの範囲。自在に炸裂する各楽器の中でホルンの裏返るような音がアクセントになっています。まさに疾風のように過ぎ去っていきました。アル・ディ・メオラの速弾きギターを彷彿させる面白さがあります。

Hob.I:4 / Symphony No.4 [D] (before 1762)
このアルバムは耳にも心にも刺激になります。この曲も速い(笑) ただし急激なテンポダウンというアクセントつき。聴き手の器を探るようなファイのいたずらに、勝負に応じてやろうという邪心が芽生えます。まさに音楽自体が演奏者の器を示しているような風情。これは痛快。刺激的な演奏に対しては、ハイドンに敬意を表して一貫して冷静な立場をとってきましたが、これは面白い。ファイのハイドンの交響曲集でもっとも刺激に富んだアルバムと言っていいでしょう。
アンダンテは暗闇のなかに微妙な陰影を表現したような曲。さらりとした表現の奥に、微妙に浮き上がる艶かしい立体感。ぞくっとするような洗練された解釈。この曲からこれほどの刺激を引き出すとは。
一転して晴朗なメヌエット。一音一音が生き物のように振る舞うまさに活きた音楽。落ち着いたメヌエットの表現も秀逸。意図的なリズムの重さな何とも心地よいではありませんか。これだけ自在に音楽を操るとは、やはりファイ、只者ではありません。

Hob.I:5 / Symphony No.5 [A] (before 1762)
またまた一転してテンポをかなり落とし、音楽の織り目をじっくり強調してデフォルメしたようなアダージョの入り。名場面をスローモーションで見るがごとき曲の構造を素っ裸にするような分析的演奏。ホルンの抜けるような音色とチェンバロの繊細な響き。古びたフレスコ画のような色の滲みが醸し出す極度にアーティスティックな時間。変幻自在とはこの事でしょう。
続くアレグロはファイだからこそできる、絶妙なアクセントのかかったメロディーラインが暴れまくり、額縁を飛び出さんばかりの筆の勢いを誰も止める事は出来ません。奏者もこれだけのメリハリをつけた演奏の痛快さに酔いしれるよう。途中にリズムの混濁を現すような場面がありますが、逆手にとって混濁を楽しむよう。この曲がこれほど刺激的だったとは。
メヌエットは、穏やかな表情に戻りますが、あまりに刺激的な楽章の箸休めのように聴こえてしまいます。
フィナーレは最盛期のザロモンセットのフィナーレにも劣らない素晴らしい興奮。まさに爆風が吹き抜けるような素晴らしい演奏。脳内のアドレナリンが全噴出!

Hob.I:10 / Symphony No.10 [D] (before 1762)
アドレナリン、まだ噴出を続けます。このアルバムの最後の曲ですが、入りからフルスロットル、超ハイテンション、オケ全開です。ホルン奏者のつばが飛んできそうなリアリティ。すでにファイの術中にはまり、金縛りにあったようになってます。
このアルバム唯一の癒し楽章。10分近い長い楽章ですが、レガートをきかせて穏やかに淡々と語っていく語り口は、前楽章からは想像できないほどの穏やかさ。この表現のコントラストこそファイの真骨頂の一つでしょう。安心して身を委ねられますが、このまま済むとは思えません。フィナーレの前の静けさといったところでしょうか。
そして爆発というより、冴え渡る覚醒のようなフィナーレ。異常に冴え渡る感覚。さっと風が吹き抜けるような楽章。脳内の感覚がこれまでの変化に鋭敏に反応してどうくるかと待ち構えるなか、やはり想像とは異なる角度で攻めて来ました。あっぱれ。

トーマス・ファイによるハイドンの最初期の交響曲集。刺激的な演奏であろうことは想像してはいましたが、その想像を遥かに超える、むせ返るような知的刺激に満ちた演奏。この演奏、ハイドン自身に聴かせたいと久々に思ったものです。ファイのアプローチにはもちろん慣れてはいますが、正直に言って、これまでのファイの演奏中、最高の出来と言っていいでしょう。素材としての最初期の交響曲をファイ流に再構成して、速度やアクセントの変化と装飾をちりばめ、しかもそれを実に面白く聴かせるという離れ業。有名曲ではありませんが、これもハイドンの真髄を突く演奏と言っていいでしょう。いや、脱帽です。素晴らしい。もちろん評価は前曲[+++++]です。

にほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ
関連記事

0 Comments

There are no comments yet.