【更新再開】イーヴォ・ポゴレリチのソナタ集
今日は、整理途上のラックの取り出しやすいところにあったアルバム。有名盤ですがまだ、取りあげていませんでした。

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イーヴォ・ポゴレリチ(Ivo Pogorelić)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ2曲(Hob.XVI:46、XVI:19)を収めたアルバム。収録は1991年7月、8月にハノーヴァーのベートーヴェン・ホールでのセッション録音。レーベルはご存知Deutsche Grammophon。
ポゴレリチは1958年、ユーゴスラビア(現セルビア)の首都ベオグラード生まれのピアニスト。ご存知の通り1980年のショパンコンクールで本選前に落選させたことにマルタ・アルゲリッチが異を唱えたことによって一躍有名になった人。デビュー当時はイケメンであることもあってかなり話題になりましたが、最近の写真を見ると、坊主頭のおじさんという風体。時は流れるという事でしょう。
ちゃんとした履歴を知らなかったので、少し紹介しておきましょう。
7歳の頃から音楽をはじめ、12歳からモスクワ中央音学院、17歳からチャイコフスキー音楽院で学び、18歳の頃からグルジア人ピアニストのアリス・ケゼラーゼに師事しました。旧ユーゴスラヴィア国内の開催された数々のコンクール、1978年のイタリアで開催されたのカサグランデ国際コンクール、1980年のモントリオール国際コンクールなどで優勝するなど、ショパン・コンクールまでのキャリアも相当なものでした。1980年に21歳年上だった師であるケゼラーゼと結婚するなど、話題に事欠きませんでした。ケゼラーゼは1996年亡くなったとのことです。1980年のショパンコンクールでの一件以降は一躍音楽会のスターダムにのし上がり、1981年のカーネギーホールでのリサイタル以降、世界中でコンサートを開くようになりました。録音では名門Deutsche Grammophonから矢継ぎ早にアルバムをリリースするなど、当時かなり話題になった事を思い出します。
このハイドンのソナタ集は1980年に有名になってからほぼ10年後の録音。ポゴレリチと言えば奇抜な演奏と思いきや、このハイドンは磨き抜かれた美音による鮮度の高い秀演です。
Hob.XVI:46 / Piano Sonata No.31 [A flat] (1767/70)
鮮やかなタッチの音階が自由闊達に上下する、この曲ならではの面白さを存分に感じさせる入り。鍵盤上の指の移動を楽しむがごとき余裕を感じます。指のキレは十分で、倍速く弾けと言われても対応できそうな余裕があります。ただテクニックが素晴らしいだけではなく、紡ぎ出される音楽には詩情がのって、実に趣ある音楽になっています。特に高音の音階のキレは孤高の響き。他のピアニストとは違う閃きを持った人だとすぐにわかります。プレトニョフがよりコンセプチュアルなのに対し、ポゴレリチの音楽は純音楽的。
2楽章のアダージョは予想通り、磨き込まれた美音とポゴレリチ流の詩情が相俟って素晴らしい感興。ことさら左手の低音のアクセントを強打することがないので、旋律の美しさがが際立ちます。表情もクリアな響きにもかかわらず彫り込みが深く表現の幅も大きい名演。曲が進むにつれ音楽が深く沈み込み、孤高の響きが際立ちます。
フィナーレは流すように表現の幅を少し抑えて入りますが、半ばの盛り上がりはしっかり描いてメリハリをつけます。才気あふれるポゴレリチがハイドンのマナーを踏まえて軽々とこなしたような演奏です。
Hob.XVI:19 / Piano Sonata No.30 [D] (1767)
番号はだいぶ違いますが、前曲とほぼ同じ頃の作品。1767年と言えばまさにシュトルム・ウント・ドラング期の真っ最中。ハイドンの才気にポゴレリチが上手く乗ったような演奏。前曲同様八分の力に抑えて、軽々と弾いていき、ここぞというところでキリッと引き締めるところは流石。指の動きに全くストレスはなくテクニックは万全。キーとなる音型を象徴的に響かせて、それを自身で追いかけるような劇性もあります。良く聴くとキーとなる音とそれ以外の音のコントラストをかなり明確につけることでクッキリと旋律を描いている事がわかります。久しぶりにポゴレリチのハイドンに聴き惚れます。
続くアンダンテは、このアルバムの白眉。自在なタッチによって浮かび上がるハイドンの美しいメロディーライン。中音域主体のメロディーに時折現れる高音のメロディーの美しさは筆舌に尽くし難いもの。山頂で眺める漆黒の空にきらめく無数の星のごとき凛とした美しさ。情に流されない素晴らしい音楽がここにあります。グールドとは異なるものの音楽の根底には迸る才気を感じます。
フィナーレはヴェーベルンかと思うような前衛的な響きを感じさせる入り。ポゴレリチが数多のハイドンのソナタからこの曲を選んだ理由がわかるような気がします。めくるめく音階とそれをつんざく強音、変化するリズム。1767年当時のハイドンがこの曲に込めた機知が今に伝わります。
話題の人、だったポゴレリチのハイドンのソナタ2曲ですが、久々に取り出して聴いてみると、ポゴレリチの創意と才気が迸りながらも、ハイドンの曲の演奏の範囲を踏み出さず、また力任せなところも一切ない、真の天才による演奏だと再認識しました。もちろん両曲ともに[+++++]とします。以前より評価をアップしました。
おそらくこのアルバム以外にハイドンの録音は残していないと思いますが、他の曲の演奏も是非聴いてみたくなりました。ただ、冒頭に書いた通り、この演奏当時の若さは失われ、坊主頭のおじさんとなってしまったポゴレリチがハイドンをこのアルバムと同じスタンスで弾くとは限りません。時は流れ、人は変わり、音楽も変わっていくものでしょう。
言い忘れましたが、このアルバム、ピアノと言う楽器の美しい響きを堪能できる素晴らしい録音です。
追伸)湖国JHさん、もうちょっとお待ちください!
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