ブラハ室内管弦楽団の「驚愕」

プラハ室内管弦楽団(Prague Chamber Orchestra)の演奏によるハイドンのザロモン・セットの演奏を収めた5枚組のアルバム。収録は1982年6月、プラハのスプラフォン・スタジオでのセッション録音。レーベルはSUPRAPHONの日本コロムビアによる国内盤。オークションで見かけるまで存在も知らなかったアルバムです。
プラハ室内管弦楽団は1951年に設立されたチェコを代表する室内オーケストラ。
PKO - Prague Chamber Orchestra - Homepage
ホームページによれば、指揮者を置かないオーケストラというのがキャッチフレーズのようです。録音はかなりの数があり、手元のアルバムで印象的なものはチャールズ・マッケラスの指揮でTELARCレーベルにいれたモーツァルトの交響曲全集。マッケラスのタイトなコントロールに鮮烈に応える俊敏な演奏が印象的でした。
手に入れたアルバムを聴き始めたところ、CD1の2曲目の交響曲94番「驚愕」が尋常じゃないテンション。ということで今日は久しぶりに驚愕を取りあげます。
Hob.I:94 / Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlagk" 「驚愕」 [G] (1791)
流石に録音は1982年ということで、最新の録音とは差がつくところですが、若干古びて音が薄いくらい。艶やかな序奏につづいて主題にはいると古めの録音を吹き飛ばすテンションの高さ印象的。指揮者なしのオケとは思えない統率のとれたコントロール。マッケラスのモーツァルトが透明感を帯びた一貫したタイトさなのにくらべて、こちらのハイドンはかなり明確にメリハリをつけてフレーズごとに変化を巧みにつけながらザクザク刻んでいく多彩なタイトさ。とりわけ推進力が素晴らしく、弦楽器はインテンポで切り込みまくります。驚愕は2楽章が印象的な曲ですが、1楽章の緊密な構成が一番の聴き所。指揮者なしの演奏に聴かれる、個性や方向性の欠如感とは対極にある、一本筋の通った素晴らしいコントロール。これがプラハ室内管に宿る伝統の音楽でしょうか。1楽章の尋常ならざる迫力に早くも痺れます。
有名なビックリのアンダンテは、穏やかな入りですが、ビックリの部分は素晴らしいエネルギー。その後の変奏はまるで大オーケストラのような覇気溢れる演奏で、曲を盛り上げます。弦楽器の響きの美しさとデュナーミクの巧みなコントロールもかなりのもの。若干時代がかった印象はあるものの、この迫力は素晴らしい。
つづいてメヌエットですが、これまでの流れで悪かろうはずはありません。ときおり明確にアクセントをつけて曲のメリハリをクッキリと印象づけるあたりは、かなりハイドンの演奏をこなしていると想像させます。
フィナーレはエネルギー炸裂かと思いきや、意外と理性的な面もあり、コントロールの行き届いた中でのクライマックス。やはりハイドンの演奏を知り尽くしているのでしょう。ここまで素晴らしいとは思いませんでした。
プラハ室内管弦楽団のザロモンセットから名曲「驚愕」。指揮者なしの室内管ということからオーソドックスな小編成オーケストラにによる演奏と想像しましたが、さにあらず。実力派の指揮者に統率されたような、極めて精度の高い演奏で、ハイドンの演奏に必要とされる、機知とエネルギー感に溢れた演奏でした。全員の頭の中にある理想の演奏が明確にあるようで、この音楽こそ伝統のものかと想像しています。評価は[+++++]とします。残りのCDを聴くのが楽しみなボックスですね。


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tag : 驚愕
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No title
Re: No title
すっかり涼しくなってきましたね。プラハ室内管といえば、やはりマッケラスが一番に思い浮かびますが、彼らのサイトには”Prague Chamber Orchestra Without Conductor”と誇らしげに記載されているとおり、指揮者なしが彼らのスタイルなんですね。このアルバム、なかなか聴き応えがあり、他の曲もレビューしなくてはなりませんね。