作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ウェン=シン・ヤンのチェロ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲

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最近更新の間が空き気味でスミマセン。今日は好きなチェロ協奏曲のアルバム。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ウェン=シン・ヤン(Wen-Sinn Yang)のチェロ、ボルツァーノ弦楽アカデミー(Accademia d'Archi Bolzano)の演奏でハイドンのチェロ協奏曲1番、2番とヴァイオリン協奏曲(Hob.VIIa:4)を収めたアルバム。収録は2010年8月9日から13日まで、イタリア北部のオーストリア国境に近い、ボルツァーノからさらに山に入ったレンクムースのペーター・マイール・フェラインハウスでのセッション録音。レーベルはOEHMS CLASSICS。

気になるのはインパクトのあるジャケット。苦虫をかみつぶしたような表情のウェン=シン・ヤンのアップ。現代音楽のアルバムならば理解できないことはありませんが、晴朗な魅力をもつハイドンの協奏曲なのに、この表情とはどうゆう事でしょうか。どうにも気になります。

ウェン=シン・ヤンは1965年、スイスのベルンに生まれた台湾系のチェリスト。ヤーノシュ・シュタルケルやダーヴィド・ゲリンガスなどチェロの名手に師事し、1989年、24歳にして名門バイエルン放送交響楽団の首席チェロ奏者となりました。1991年にはジュネーブ国際音楽コンクールで優勝して国際的に活躍するようになりました。2004年からはミュンヘン音楽大学で教職にあるようです。いつものようにヤンのサイトを紹介しておきましょう。

Wen-Sinn Yang - Violincello

Hob.VIIb:1 / Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
スピーカーの奥に程よい距離感で定位するオーケストラ。緊張感とは逆に非常にリラックスした序奏から入ります。チェロは雄弁ですが、音を延ばさずさっぱり朗らかな演奏。ジャケット写真の苦虫をかみつぶしたような表情とは対極にあるようなじつに力の抜けた演奏。泰然とした姿勢がなかなか潔いです。虚心坦懐と言うことばが相応しいでしょう。精度が悪いという意味ではなく、細かいところに拘らず、わが道をいくという印象。非常にリラックスしながらも一貫した推進力に支えられ、不思議に引き込まれる演奏です。カデンツァでは間を効果的にとって、詩的な印象を残すあたり、音楽性については確かなものを感じます。
アダージョは朗らかさを残しながらも、爽やかな詩情に包まれます。さっぱりとしたチェロのフレージングはこれまでのチェリストの技巧を凝らしたもとは異なり、自然さと素朴な浸透力がポイント。早くもウェン=シン・ヤンの術中にハマった感じです。チェロの音色は柔らかな低音の響きが心地よいもの。明らかに他のチェリストよりも柔らかな音色。このアルバムのカデンツァはすべてウェン=シン・ヤン自身によるもの。表面的なフレージングよりも音楽の真髄へのこだわりを感じる自在さがあります。
フィナーレはどちらかと言うとじっくり入ります。オケの方もヤンのチェロに合わせてか、素朴なデュナーミクによるじつにじわりと来る演奏。鮮烈さではなく、器の大きさを誇示するように、平常心で進めます。初見でぐいぐい行くようなニュアンス。爽やかな風が吹き抜けるようなフィナーレでした。

Hob.VIIb:2 / Cello Concerto No.2 [D] (1783)
演奏のスタンスは一貫していてすっかりヤンのペース。2番ではさらに曲にマッチしています。オケとの息もぴったりで緊密というより阿吽のアンサンブル。慈しみ深い2番の1楽章を力みも、こだわりもなく硬軟織り交ぜて自在闊達に引っ張っていくようすは、淡々とセーブをこなす往時の巨人香取のよう。かなり腰の据わった神経の持ち主とみました。2番の1楽章のカデンツァはこれまでの表現の幅が異なり、低音から高音までの弦をフルに使った素晴らしいもの。
アダージョは意外にも淡々とするより、ようやく鳴きを聴かせるようになります。結果的に1番より2番の方が普通の演奏に近く聴こえます。ただチェロの独奏部分ではヤン特有のマイペースな孤高の表情が息を吹き返し、ヤンの演奏の特徴を思い起こさせます。
フィナーレはレガートを効かせながらしっかりとした足取りを残します。郷愁に満ちたメロディーラインを気づいてみれば引きずるように演奏しながら曲の終わりを目指します。至福の表情を聴かせながらフィニッシュ。ヤンの勢いに圧倒されます。

Hob.VIIa:4 / Violin Concerto [G] (c.1765/70)
ヴァイオリン協奏曲をチェロに合わせてウェン=シン・ヤンが編曲したもの。ハイドンの協奏曲が楽器の特性を的確にとらえた曲作りであることは、何度も取りあげてきていますが、この曲はアレンジが見事で、もとからチェロのために書かれたような自然な佇まい。やはりヤンの長所である泰然としたところが活きた演奏。1楽章はこれまでの2曲の中でも最も弾むような表情が良く出た演奏。おそらくこの曲がこのアルバム一番の聴き所でしょう。この曲のメロディの美しさを浮かび上がらせる素晴らしいチェロさばきです。カデンツァの詩情も、もはや予想通り展開。
アダージョは沸き上がる感興が印象的な楽章。デュナーミクのコントロールはここに来て、自然ながら緻密さを感じさせる領域にまで到達し、彼岸の景色のような枯淡の境地さえ感じさせます。チェロから流れ出す音楽の豊かさは本物です。ヤンのスタイルが高みに達した楽章。
そしてこのアルバム最後となるフィナーレ。ヤンのチェロとボルツァーノ弦楽アカデミーが軽々と掛け合う様子を眺めるような趣の曲。自然さとフレーズの軽さの極み。いやいや、ここまで素晴らしいとは思っていませんでした。

ウェン=シン・ヤンのチェロによるハイドンのチェロ協奏曲とヴァイオリン協奏曲を収めたアルバムですが、これまで聴いたタイプの演奏とはかなり異なるタイプの演奏。迸る情熱とか、チェロの美音、古典の均衡、古楽の繊細さなどとは異なり、まさに泰然とした演奏。2番でふれた往時の巨人の香取の投球の淡々と攻めていくようなというのが自分としてはしっくりする表現ですが、この感覚、伝わりますでしょうかね(笑)
評価としてはもちろん全曲[+++++]としますが、私としては最後のヴァイオリン協奏曲が興味深いですね。このアルバムの演奏の素晴らしさは、ハイドンのチェロ協奏曲をいろいろ聴き込んでいる方にこそおわかりいただけるものと思います。オススメです。

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