作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

アン・マッケイ/イギリスピアノ三重奏団のスコットランド歌曲集(ハイドン)

2
0
今日は久々の歌曲。

Mackay.jpg
amazon

アン・マッケイ(Ann Mackay)のソプラノ、イギリスピアノ三重奏団の演奏でハイドンのスコットランド歌曲集から11曲とイギリスピアノ三重奏団によるピアノ三重奏曲2曲(Hob.XV:19、XV:21)を収めたアルバム。収録はPマークが1991年、ロンドンのモッティンガムにあるエドワード懺悔王教会でのセッション録音。レーベルは英Meridian。

Meridianは素晴らしい録音が多いレーベル。これまで取りあげたアルバムは、どれも非常に味わい深い名演奏です。また、録音も非常に良いのもいいですね。

2011/09/04 : ハイドン–声楽曲 : キャサリーン・ボット/メルヴィン・タンの歌曲集
2011/04/24 : ハイドン–ピアノソナタ : 【新着】フー・ツォンのピアノ・ソナタ集-2 やはり絶品!
2011/04/23 : ハイドン–ピアノソナタ : 【新着】フー・ツォンのピアノ・ソナタ集 絶品!
2010/09/25 : ハイドン–ピアノソナタ : ジュリア・クロードのピアノソナタ集

今日取り上げるこのアルバムは「ロンドンのハイドン」というタイトルがつけられ、ロンドン滞在時にハイドンが作曲、編曲した曲を集めたアルバム。ライナーノーツからアルバムのコンセプトに触れる部分を訳して紹介しておきましょう。

ハイドンは1791年と1794年の2度にわたってロンドンを訪れています。当時ハイドンの名は広くヨーロッパ中に知られており、ロンドンでは彼の来訪に大きな感心が集まっていたとの事。ハイドンはロンドンでの圧倒的な人気を受け、王室や貴族にたびたび招待されました。イギリス滞在中は、ウィンザー、ハンプトン・コート、ポーツマス、ワイト島、バース、ブリストルなど巡り、オックスフォードでは1791年7月に音楽博士を授与されました。ロンドンでのハイドンの創作活動は非常に印象深く、ザロモンの主催するコンサートのための作曲は多忙を極め、加えて多くの室内楽曲を作曲しました。ハイドン自身が手紙の中で「作曲から解放される日は1日たりともなかった」と書いたほどでした。
ロンドン滞在に関連して9曲のピアノ三重奏曲が作曲され、このアルバムに収録された2曲のピアノ三重奏曲は1794年、95年にかけてロンドンで出版されたものです。

ハイドンは、スコットランド民謡の編曲のうち最初の100曲を、破産しかけの音楽家であり出版社を営んでいたウィリアム・ネイピア(William Napier)への支援として作曲しました。出版からしばらくでネイピアの経済状況は好転しました。ハイドンはまたスコットランドの芸術と工芸を振興する評議会の代表であるジョージ・トムソン(Georg Thomson)からも編曲を依頼されました。この依頼はスコットランド民謡の保存・保護を目的としたものでした。当時の慣例に従い、鍵盤楽器とヴァイオリン、チェロの伴奏がつけられました。
1795年8月15日、ハイドンはイギリスに別れを告げました。伝記作家のグリージンガーによれば、ハイドンはたびたび「イギリス訪問があったからこそドイツで有名になった」と語っていたとのこと。ハイドンはイギリスでの生活は人生で最も幸せであったと感じていました。


アン・マッケイはイギリスのソプラノ歌手。ギルドホール音楽演劇学校出身で、あのエリザベート・シュワルツコップに師事。イギリスを中心に活動している人のようです。

またイギリスピアノ三重奏団もロンドンを活動拠点としている団体。メンバーは以下のとおり。

ピアノ:ティモシー・ラヴェンスクロフト(Timothy Ravenscroft)
ヴァイオリン:ジェーン・フォークナー(Jane Faulkner)
チェロ:マーク・シェリンデン(Mark Sherinden)

今日は歌曲の方を取りあげましょう。ピアノ三重奏曲はまたの機会に。

このアルバムに収められた歌曲はウィリアム・ネイピアのための編曲ということで、ハイドンの1回目のロンドン旅行の際、1791年から92年にかけて手がけられたものです。歌詞はロバート・バーンズによるものがほとんど。ロバート・バーンズ(Robert Burns)は1759生まれのスコットランドの国民的詩人。スコットランド語を使った詩作で知られ、スコットランド民謡の収集、普及にもつとめた人。ハイドンの27歳年下ですがが亡くなったのは1796年で、ハイドンよりだいぶ早くになくなっています。

Hob.XXXIa:45 - JHW XXXII/1 No.45 / "The gard'ner wi' his paidle" (Robert Burns)
アン・マッケイはイギリス人らしい透明感ある英語の発音と素直に響く伸びのいい高音をもつソプラノ。このスコットランド曲集にぴったりの声。歌は癖のない美しい声で、特に高い音の透き通るような魅力で聴かせるもの。イギリスピアノ三重奏団はピアノのラヴェンスクロフトの落ち着いた美しい響きによる伴奏が秀逸。ヴァイオリンとチェロは自己主張せず、寄り添うような演奏。Meridianらしく録音は非常に自然で我が家に奏者がやってきたようなプレゼンス。流石Meridianと思わせるまとまりですね。1曲目からスコットランドへの郷愁をかき立てる曲調にうっとり。

Hob.XXXIa:33 - JHW XXXII/1 No.33 / "Pentland Hills"
2曲目はエジンバラ近郊のペントランド丘陵のことを歌った曲。素朴なメロディーを几帳面に歌うアン・マッケイ。本格的な歌曲とは異なり、この素朴さが魅力でしょう。安定した歌と演奏故、あとは曲目と曲の特徴を紹介しておきましょう。

Hob.XXXIa:81 - JHW XXXII/1 No.81 / "Raving winds" (Robert Burns)
「荒れ狂う風」とか「嵐」とでも訳すのでしょうか。ただ曲はそのような言葉が似つかわしくない、しっとりとしたもの。

Hob.XXXIa:57 - JHW XXXII/1 No.57 / "The banks of Spey" (Robert Burns with Mrs McLehose)
シングル・モルトのスペイサイドで有名なスペイ川の「スペイ河岸」と題された恋の歌。ゆったりした伴奏に陰りのある美しいメロディーが朗々と歌われる曲。マッケイのソプラノが沁みます。

Hob.XXXIa:28 - JHW XXXII/1 No.28 / "Up in the morning early" (Robert Burns)
雪に覆われた冬の朝早くの空気を歌った曲。なんとなく寒い朝の空気を感じさせるリリカルな曲。

Hob.XXXIa:87 - JHW XXXII/1 No.87 / "I dream'd I lay" (Robert Burns)
花畑に横たわり夢を見る、、という歌詞からはじまるしっとりした曲。

Hob.XXXIa:30 - JHW XXXII/1 No.30 / "I'm o'er young to marry yet" (Robert Burns)
一転コミカルなメロディーの曲。

Hob.XXXIa:2 - JHW XXXII/1 No.2 / "John Anderson" (Robert Burns)
ジョン・アンダーソンという人への恋歌。ピアノの微妙な響きの変化と歌のえも言われぬアンサンブル。

Hob.XXXIa:48 - JHW XXXII/1 No.48 / "O can you sew cushions" 「クッションを作れるか」
短い曲ですが、なぜか非常に郷愁をそそる特徴的な曲。特に後半の”Hee o, wee o, what would I do wi' you?”というところの独特の響きが耳に残ります。

Hob.XXXIa:91 - JHW XXXII/1 No.91 / "Jockie and Sandy" (Robert Burns)
明るさの中に陰り、快活さの中に静けさのある不思議な曲。ソプラノの透明な響きが映えます。

Hob.XXXIa:22 - JHW XXXII/1 No.22 / "The white cockade" (Robert Burns)
しっとりした曲が続いた後で、このアルバム最後の曲は、快活な調子の曲。「白い帽子飾り」。ヴァイオリンの特徴的な伴奏が独特の雰囲気を醸し出しています。アルバムの最後にこの曲を持ってきた意図はなんでしょうか。

アン・マッケイのソプラノとイギリスピアノ三重奏団によるスコットランド歌曲集から11曲などを収めたアルバム。Meridianのプロダクションは、イギリスっぽさというかスコットランドぽさ満点で、純粋にスコットランドの民謡をくつろいで楽しめる素晴らしいもの。イギリスピアノ三重奏団の演奏は非常に自然で豊かな音楽。そしてソプラノのアン・マッケイはほんの少し単調さを感じさせなくもありませんが、その歌は民謡の真髄をとらえた非常に素朴でピュアな高音の魅力に溢れたもの。アルバムとしては必要十分というか、かなり完成度の高い企画でしょう。歌曲が好きな方にはおすすめのアルバムです。評価は歌曲は全曲[++++]としておきます。歌曲に挟まれたピアノ三重奏曲2曲もかなりいい演奏なので、あらためてまた取りあげようと思います。

にほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ
関連記事

2 Comments

There are no comments yet.

小鳥遊

ご無沙汰です

古い記事ですが、このアルバム聴いてみました。

歌曲があまり好かないので、後回しになっていたのですが、好いアルバムですね。

でも、やっぱりピアノ・トリオの方により関心が...

このピアニスト、私のツボみたいです(笑)

Daisy

Re: ご無沙汰です

小鳥遊さん、こちらこそご無沙汰しています。
このアルバムのピアノトリオも取り上げる予定と言ったままになっていましたね。レビューした時は鮮明な印象も残っているんですが、しばらく経つとよほど印象的なもの以外はだんだん印象も薄れて来てしまいます。コメントを読んで、再び取り上げなくてはと思っております。

  • 2014/08/14 (Thu) 07:27
  • REPLY