フェステティチ四重奏団のOp.77、Op.103旧盤

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フェステティチ四重奏団(Quatuor Festetics)の演奏によるハイドン最晩年の弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2、Op.103の3曲を収めたアルバム。収録は1990年9月、ブダペストのユニテリアン教会でのセッション録音。ARCANAの現役盤ではなくharmonia mundi FRANCEによる旧録音です。
当ブログの読者の方ならご存知のことと思いますが、フェステティチ四重奏団の現在リリースされているARCANA盤はデッドな録音と力の入った演奏により、私は何となくしっくり来ていません。フェステティチ四重奏団にはARCANA盤以前にHUNGAROTONやharmonia mundi FRANCEからいくつかのアルバムがリリースされており、なんとなくこれらの旧盤の方を好んできました。そのへんの状況は過去のレビューをご覧ください。
2011/11/14 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : フェステティチ四重奏団のOp.9のNo.4新旧比較
2011/05/01 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : フェステティチ四重奏団のOp.33(旧録音)
このアルバムは、そうしたなか、たまたまオークションで見かけたもの。フェステティチの旧盤ということで、狙いをつけて落札しました。
このOp.77とOp.103はARCANA盤も持っているので、レビューの前にちょっと聴いてみたところ、やはりOp.9の記事で書いたのと同様、鮮明ながらちょっと大上段にダイナミックな演奏で、ハイドンの演奏に必要な力の抜けた感じがもう少し欲しいと思わせるものと感じました。
さて、この旧盤、ハイドンの最晩年の成熟した音楽をどう聴かせてくれるでしょうか。好きなアーティストの好きなアルバムに針をおとす(本当はCDプレイヤーにかけるだけですが、、、)ドキドキ感がたまりません。
Hob.III:81 / String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
直前に聴いたARCANA盤がオンマイク、デッドで鮮明な録音だったのと比べると、豊かな残響と、少し遠くに定位するクァルテット、そして若干ハイ落ちの少し古びた録音という一聴してわかる違いがあります。ただ、音楽は瑞々しさと、いい意味で楽天的な優雅な響きがあり、ハイドンの晩年の傑作を力を抜いて演奏を楽しむような余裕があります。この瑞々しさがフェステティチの旧盤の特徴。まさに期待していた通りの弾む音楽。フェステティチ独特の燻製にしたような渋い響きの弦楽器の魅力が溢れています。やはりハイドンの演奏はこのくらいの余裕ある演奏がなじみ、安心して音楽に浸れます。所々のアクセントがびしっと決まり、やはり月並みな演奏とは異なる淀みないながらもキリッと引き締まった演奏です。
2楽章のアダージョはフェステティチの燻らしたような響きの魅力がさらに活きた演奏。この独特な音色は他のクァルテットとは明らかに違います。精妙というよりは、木が響き合うという言葉がふさわしい演奏。絶え間なく流れるのに、旋律のつなぎ目の部分にハッとするような間が入ったりして楽しませてくれます。
そしてメヌエットはまさに4台の楽器が素晴らしい一体感で攻めて来るような演奏。スピーディーな演奏なんですが、非常に自然な印象を残し、全員の息がピタリとあっていることがよくわかります。後半は素晴らしい推進力。
フィナーレは抜群のテクニックで、キレというよりは吹き上がるエネルギーを感じさせる演奏。まさに4人のアンサンブルは完璧に一体化して、掛け合いというよりアンサンブルから吹き出す音楽が跳ね回るよう。ハイドンのクァルテットの最高の一つであることは確かです。
Hob.III:82 / String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
前曲に続き、フェステティチサウンド炸裂です。図太いチェロの響き(録音によるところが大きいでしょう)をふくめて、すばらしいエネルギーの充実。古楽器は雅で精妙な響きという先入観を打ち砕く、力感溢れ、推進力抜群の演奏。まるで最上のライヴを聴くような緊張感。おそらく一発録りではないかと思います。この演奏のエネルギーと緊張感はセッション録音のものとは思えません。ハイドンの曲なのに演奏は燃え上がってます。奏者全員がノリに乗っている感じがつたわって来ます。1楽章は嵐のような素晴らしさ。
この曲は2楽章がメヌエット。1楽章の余韻さめやらぬ中、響きに宿るエネルギーはそのままに、曲想にあわせて、すこし演奏の熱を冷ますような間を入れて、秩序を保ちます。1楽章での白熱した演奏が良い方向に働いて、メヌエットも力を適度に抜いているのに、類いまれなライヴ感が音楽を豊かにしています。もはや完全に空間を音楽で支配しているよう。
アンダンテは異次元の洗練。もともとハイドンの素晴らしさが良くでた曲なんですが、この演奏は神憑っています。さりげないメロディーから音楽の悦びがじわりとにじみ出てくるもの。脳内にアドレナリン噴出です。あまりの素晴らしさにじんと来ます。至福のひと時。はじめてシスティーナ礼拝堂を訪れたときの息を飲む感じが蘇ります。
フィナーレはもう解説の必要はないでしょう。完璧な音楽の流れ。完璧なテクニック。そして音楽が心にしみ込みます。この完成度で7年後に最録音が必要なんでしょうか。
Hob.III:83 / String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
ハイドンが1803年、2楽章までを書き終えたところで「わが力すでに萎えたり。齢をかさね、力、衰えぬ」と書き加えて出版されたハイドンが最後に書いた曲。フェステティチの演奏からは、前曲の素晴らしいエネルギーは影をひそめ、枯れた心境を表すように淡々とした音楽が聴こえてきます。このへんの演奏スタンスは見事の一言。この曲間の対比はまさに音楽の真髄を知ったものの仕業にちがいありません。淡々としたというには緻密なテクニックと音楽性があってはじめてできる、研ぎすまされた淡々さがあるようです。メヌエットは最後の力を振り絞ったハイドンに対する畏敬ともいえる迫真の緊張感で曲を締めくくります。
やはり、期待通り、フェステティチ四重奏団の旧盤は図抜けた迫力とハイドンの曲の深い理解にもとづく素晴らしい演奏が聴かれました。上でも書きましたが、この演奏の録音を残して、新盤を録音するということはどうゆうことでしょう。新盤との比較でも、私は間違いなく旧盤を推します。評価はもちろん、3曲とも[+++++]です。ハイドンの弦楽四重奏が好きな方は是非探し出して手に入れるべき至宝と断言します。
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