マンフレッド四重奏団のOp.76のNo.1、皇帝、日の出

マンフレッド四重奏団の演奏でハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.1、No.3「皇帝」、No.4「日の出」の3曲を収めたアルバム。収録は1993年5月3日から5日までですが収録場所はわかりません。レーベルははじめて手に入れる仏disques PIERRE VERANY。
このアルバム、以前ディスクユニオンで手に入れましたが、今回HMV ONLINEにも、amazon、TOWER RECORDSでも取扱いがないようです。このアルバムが気になったのはジャケット裏面に20bits NAGRA DIGITAL RECORDINGSとの記載。あの精緻なNAGRAのシステムでの録音だと思いますが、この手のアルバムには録音に使用した機器が掲載されているものと思ってライナーノーツを見ても、記載がありません。一聴してハイクォリティな録音ですので演奏の出来に期待したいところ。
マンフレッド四重奏団は1986年に設立されたクァルテット。メンバーはストラスブール音楽院、ジュリアード音楽院、ジュネーブ音楽院、リヨン音楽院などの出身者。3年にわたってアマデウス四重奏団、メロス四重奏団、ファイン・アーツ四重奏団などの有名なクァルテットの指導を受けました。1989年にはカナダ、バンフで開催された国際弦楽四重奏コンクールやフランスのエヴィアンでのコンクールで1等を取り有名に。アルバムはいろいろリリースされているのでご存知の方はいるでしょう。
メンバーは以下のとおり。ライナーノーツの写真をみると、録音当時のメンバーは学生上がりの若々しい姿。
第1ヴァイオリン:マリー・ビュロー(Marie Bereau)
第2ヴァイオリン:ルイジ・ヴェッキオーニ(Luigi Vecchioni)
ヴィオラ:アラン・ペリッシャー(Alain Pelissier)
チェロ:クリスチャン・フォルフ(Christian Wolff)
マンフレッド四重奏団のエルデーディ四重奏曲は如何なる出来でしょう。
Hob.III:75 / String Quartet Op.76 No.1 [G] (1797)
広い空間に浮かびあがる渾身の響き。インパクトがあるのに弦自体の響きは柔かさを保った素晴らしい録音。もう少しシャープで高音域のクッキリ感を意図した録音が多い中、しっとりとした中音域の美しさが印象的な録音。さすがNAGRAと言うべきでしょう。演奏の方はオーソドックスなものですが、非常に有機的に音がつながり、音楽の流れが一貫したこれはこれで素晴らしい演奏。Op.76のNo.1の緊密な構成の1楽章のカッチリとした構成感を見事に表現しています。
絶品なのが2楽章のアダージョ。このアルバムの特徴である柔らかな音色の弦楽器でしっとり、じっくり、しかも淡々と演奏されるアダージョ。過度な表情付けはないかわりに、本当に淡々と音楽を奏でていく事で情感がにじみ出てくる感じ。チェロの音色は透明さすら感じさせる生々しさ。4本の弦楽器の織りなす実に柔らかな表情。音楽のラインではなく、コアが表現されている感じ。後半ヴァイオリンの高音の素晴らしい伸びも聴かせますが、驚くほどの自然さ。自然さに鳥肌が立つよう。
複雑に各楽器が鬩ぎあうメヌエットですが、空間に綺麗に定位して、生で聴くような雰囲気。弾むピチカートの余韻の美しさは言うに及ばず、また弦楽器のピーク成分も混濁感はまったくありません。
フィナーレはかなり鋭角的にエッジを強調した演奏ながら、クリアに分離して聴こえます。ヴァイオリンの音階のキレ、良く聴くとチェロまで素晴らしい音階のキレを聴かせて、このクァルテットがかなりのテクニックの持ち主である事がわかります。複雑に絡まりあうメロディが楽器の音色の違いをこれだけ鮮明に聴かせながら進むあたりは、録音がよいことによってはじめて気づくところ。各楽器それぞれが素晴らしい立体感で鬩ぎあう、恐ろしくリアルな音場。昔の名演は音色やデュナーミクなどある程度の解像度のなかで表現されてきたのに対し、この録音はハイヴィジョンの解像度とその解像度ではじめてわかる多彩な表情の魅力によって成り立つ良さのよう。もちろん最近の多くの録音も物理的な解像度は十分なんでしょうが、音響として聴くアーティスティックな面も含めた部分は1993年のこの録音にも敵わない印象。1曲目から録音の良さとそれを生かした演奏の良さにノックアウトです。
Hob.III:77 / String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
つづいて名曲「皇帝」。素晴らしい音響はそのままに、皇帝の聴き慣れた1楽章に入ります。各楽器の音色の特徴がだんだん把握できてきました。チェロがやはり図太く柔らかい音色で、ヴァイオリンは逆にクッキリと浮かび上がる空気感をともなった線の明確さが特徴。前曲では謙虚に淡々とした演奏が特徴でしたが、この曲では印象が変わり、フレーズごとにメリハリをはっきりつけていくことに力点をおいているよう。前曲のようなアプローチの方が印象がいいですね。微妙な違いですが前曲のほうが音楽の流れがいい感じです。
有名なドイツ国家の2楽章のポコ・アダージョに入ると、淡々とした表情が戻ってきました。むしろ過度に淡々とした感じにさえ聴こえます。主題から変奏にはいると枯れた表情も見せ始めます。ヴィオラの響きもチェロ同様柔らかな美しさがあります。楽器の音色の美しさを主体としてそれぞれが絡み合う展開。最後の弱音も印象的。
メヌエットは前曲に一番近い感じ。こうゆう淡々とした演奏が一番しっくり来ます。メヌエットの流れに従って各楽器が次々とメロディーを演奏していきますが、その音色の微妙な違いと、精妙な構成感が聴き所でしょう。
そして鮮烈なフィナーレ。やはり素晴らしいテクニックで攻め込みます。強奏のエネルギーは相当なものですが、音楽が若干硬直化しそうな印象も含みます。後半の展開部での息を飲むようなせめぎ合いは素晴らしいものがあります。まさにライヴのような迫真の演奏。
Hob.III:78 / String Quartet Op.76 No.4 "Sonnenaufgang" 「日の出」 [B flat] (1797)
最後の日の出は簡単に。前の皇帝が名曲故かちょっと固かったのに対し、この曲では1曲目のNo.1と同様素晴らしい出来。音楽の流れも良く各楽章の構成も自然なもの。ちょっと変わっているのがフィナーレで、溜めたような独特のフレージングが印象的でが、狙いは説得力のあるもの。この楽章独特のメロディーのキャラクターを鮮明に描こうという事でしょう。日の出は安心して美音に身を任せられる演奏でした。
マンフレッド四重奏団というはじめて聴くクァルテットでしたが、NAGRAの機器を使ったとされる録音は、NAGRAの名を冠しただけのことはある素晴らしい録音。弦楽四重奏のアルバムで、これほど録音の良さが際立つものは数少ないのではないかと思います。録音の良さから聴こえる弦楽器の様々なニュアンス。強奏部分であっても混濁なくしかも非常にテリケートなニュアンスをつたえ、まさに弦楽四重奏曲を堪能できる名録音。演奏の方も負けていません。評価はちょっと力の入った皇帝は[++++]、両端の2曲は[+++++]とします。
いろいろ仕事が忙しいのと、ついついオリンピックを見てしまうので、少し記事を書くピッチが落ちています。月末恒例のHaydn Disk of the Monthは、明日に延期です(笑)
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