ジェラード・シュワルツ/スコットランド室内管の「哲学者」

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ジェラード・シュワルツ(Gerard Schwarz)指揮のスコットランド室内管弦楽団の演奏による、ハイドンの交響曲22番「哲学者」、ピアノ協奏曲(Hob.XVII:11)、交響曲104番「ロンドン」の3曲を収めたアルバム。収録は1987年1月、エジンバラのクィーンズ・ホールでのセッション録音。レーベルはアメリカのDELOS。
このアルバムはかなり前に手に入れていたもの。CDラックの整理をしていて最近久しぶりに取り出したもの。ジャケットにはハイドンに対して書かれた気になる言葉が。
「彼だけが私の興味をそそり、私の魂に触れるものをもっている」ー W.A.モーツァルト
モーツァルトがハイドンを尊敬し、親交を結んでいた事は有名ですが、モーツァルト自身のこのことばこそ、ハイドンの音楽のすばらしさをわかりやすく示したものでしょう。これと同じ言葉が書かれたシリーズのアルバムが手元には4枚ありますが、今日は好きな哲学者が入っているこのアルバムを選びました。
ジェラード・シュワルツは1947年、アメリカ、ニュージャージー州生まれの指揮者で、トランペット奏者でもあります。両親はオーストリア人とのこと。ニューヨークのジュリアード音楽院を卒業後、1973年までニューヨーク・フィルやアメリカン・ブラス・クインテットなどでトランペット奏者として活動し、1966年から指揮者としても活動も始めました。1982年から2001年にかけてニューヨーク州のモストリー・モーツァルト・フェスティバルの音楽監督を務めました。個人的にはシュワルツの音楽が鮮明に印象に残っているわけではありませんので、今回、わりと新鮮な耳でこのアルバムを聴き直しました。
Hob.I:22 / Symphony No.22 "Philosopher" 「哲学者」 [E flat] (1764)
前記事で取りあげたホルンのためのディヴェルティメントとほぼ同時期のハイドンがエステルハージ家の副楽長時代の作品。冒頭からのどかさ炸裂。1楽章のアダージョはゆったりしたテンポとゆったりした呼吸による、哲学者の聴き慣れたメロディーラインが訥々と奏でられていきます。かなり朴訥な感じですが、不思議と重さは感じません。ホルンとイングリッシュ・ホルン、弱音器付きの弦楽器によるえも言われぬ旋律。ゆったり推移する曲想。糸を引くように音楽を引きずりながら、なだらかな丘陵を散歩するように音楽が進みます。非常に微妙な強弱が音楽を豊かに響かせます。実に不思議な音楽。
2楽章は同じテイスト、音調のままプレストになりますが、テンポは比較的ゆったりしています。鮮烈さを感じるような楽譜ですが、音楽は実に穏やかに流れます。ここでもじっくり腰を据えた強弱の変化の推移が実に効果的。木質系のオケの響きの美しさも独特。記憶のなかのスコットランド室内管はもっとクッキリした響きですが、ここでは実に柔らかい音色を聴かせます。シュワルツの意図でしょうか。
続くメヌエットは一転してリズムのエッジを強調したクッキリとした音楽。テンポはやはりちょっと遅めなので、基調となる穏やかさは健在。ここでもホルンとイングリッシュホルンの特徴的な音色の美しさがポイント。
フィナーレはさらに一転して、なんとスピーディかつスリリングな音楽。穏やか系のフィナーレを予想していた脳細胞が完全に裏をかかれて、かなり刺激的な展開。ホルンや弦楽器はキレよく演奏。ここに来て前3楽章が意図的に穏やかな演奏だった事がわかります。なかなか味のある演出でした。
ピアノ協奏曲とロンドンが続きますが、このレビューはまたの機会に。
哲学者は非常に変わった曲想で好きな曲ですが、ジェラード・シュワルツのこの演奏は、哲学者の曲想の面白さを際立たせる演奏としてなかなかいい味を出しています。なだらかな丘の連なりを眺めるようにじわりと強弱を変化させていくことで非常に有機的な音楽になっています。フィナーレでキレを聴かせる構成も秀逸。最近好評か続きですが、この哲学者も評価は[+++++]を進呈します。やはりハイドンの音楽に対する深い理解と愛情が演奏からにじみ出ており、ハイドンの素晴らしさを伝える名演奏に違いありません。


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