エミール・クライン/ハンブルク・ソロイスツのディヴェルティメント集

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エミール・クライン(Emil Klein)指揮のハンブルク・ソロイスツの演奏で、ハイドンのディヴェルティメント3曲を収めたアルバム。収録曲目はHob.III:1、III:2、III:3の3曲。ディヴェルティメントといっても最初期の弦楽四重奏曲Op.1の最初の3曲でもあります。収録は1995年5月7日から9日、ヤマハ・ヨーロッパのテスト・ザールとの記載。どこでしょう? レーベルはARTE NOVA。
このアルバムは初期の弦楽四重奏曲12曲を弦楽オーケストラで演奏した4枚組のアルバムの第1巻。手に入れたのはおそらく15年以上前ですが、立派な事に現役盤のようです。実は昔はかなり聴いていた、愛着あるアルバム。ハイドンの素朴な音楽の楽しさを、素朴で楽天的に仕上げた絶妙の演奏なんですね。このアルバムもほぼ10年振りくらいに聴きたくなったので、取りあげる事としました。
指揮のエミール・クラインは1955年、ルーマニア生まれの指揮者、チェリスト。ブカレスト音楽院で学び、ハンブルクでダヴィド・ゲリンガスにチェロを学びました。国際的な名声を得るようになったのは、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカへのツアーを通じてとのこと。ソリストとしてハンブルク交響楽団、ブカレスト放送交響楽団などと共演、その他室内楽でも活躍し、1990年には室内楽の演奏のためにこのアルバムのオケであるハンブルク・ソロイスツを設立したということです。私自身はこのアルバムによってクラインを知りましたが、音楽をこれほど気楽に楽しめる演奏はそれほどありません。
Hob.III:1 / String Quartet Op.1 No.1 [B flat] (c.1757-59?)
1750年代とハイドンがモルツィン伯爵に仕えるようになる前の作曲。最初期の弦楽四重奏曲らしくシンプルで穏やかな起伏を伴って描かれたハイドン初期の傑作と言う位置づけでしょう。弦楽合奏で演奏された4声の曲でこの頃は5楽章構成。ストイックな表情は全くなく、小編成の弦楽オーケストラによって弦楽四重奏曲を演奏しているので、適度に楽天的であり、また穏やかな表情なのに迫力もそこそこある演奏。弦楽器が良くそろって、響きのいいホールで演奏しているような録音。1楽章、終楽章がプレストで、2楽章、4楽章にメヌエット、3楽章にアダージョがおかれると言う構成。このアルバムに収められた3曲はすべてこのような構成。曲は家庭で食事時にでものんびり聴くのに相応しい音楽という感じ。エミール・クラインは特段攻めにくるそぶりは全く見せず、ひたすら音楽を心地よく聴かせることに集中しているよう。このアルバム、密かに愛聴している人が多いのではないかと想像しています。この曲の白眉は3楽章のアダージョ以降。後年の成熟した筆致とは差があるものの、ハイドン20歳代の作曲とは思えない深みを感じさせます。4楽章のメヌエットも心に刺さるメロディー。曲想が明解なだけにその良さもわかりやすいもの。メロディーメーカーとしてのハイドンの才能が早くも開花した作品。フィナーレは推進力とその力を静かに鎮める様子を描いた秀逸なものでした。
Hob.III:2 / String Quartet Op.1 No.2 [E flat] (c.1757-59?)
続く2曲目も1曲目の特徴を引き継ぐいい演奏。この安定感は見事。ただただ音楽を紡いでいくクラインの至芸と言えるでしょう。まさに弦楽四重奏曲という様式美の完成前夜の音楽。弦楽四重奏曲集ではなく、ディヴェルティメント集というパッケージとしたのも酔眼。20代のハイドンが書いた素晴らしい音楽をただただ楽しむアルバム。やはり前曲と形式が似ているという印象は与えず、1曲1曲創意が尽くされています。この曲も3楽章のアダージョ以降の充実が印象に残ります。アダージョ楽章におかれたピチカートによる箸休めのようなフレーズを挟んで曲想が大胆に変化していくあたりはまさに天才的。そしてフィナーレも後年の充実した筆致を感じさせる曲。クラインの演奏に身を委ねる快感。
Hob.III:3 / String Quartet Op.1 No.3 [D] (c.1757-59?)
このアルバム最後の曲は1楽章が極端に短く2分弱というもの。ほの暗さも垣間見せるなかリズムにかなりの創意を凝らした曲。逆に3楽章のアダージョは7分超のこの頃の曲の楽章としては大曲。曲ごとにアイデアが良くこれだけ湧くものです。クラインの演奏は本当に安心して音楽に浸れる、演奏者が消えて見えなくなり、そこにハイドンの音楽だけが残るような秀逸なもの。3曲目に至り、曲の起承転結のようなもののキレがはっきりわかるようになります。クラインのコントロールもメリハリをクッキリ描き、曲に合わせた奥行きを感じさせるところは流石です。
エミール・クライン指揮の弦楽合奏による最初期の弦楽四重奏曲集。もちろん弦楽四重奏曲はOp.20で飛躍的な進歩を遂げる事になるのですが、その萌芽を感じるOp.1。弦楽四重奏としてはまだまだ成熟を見せる余地がありますが、こうして弦楽合奏で聴く音楽は朗らか、のどかのみならず、後年の才能の開花を思わせる断片や美しいメロディーがちりばめられた佳曲。クラインはそのへんのところをよく踏まえて、音楽の楽しさを存分に表現。これは秀逸と言わざるを得ないでしょう。久しぶりにクラインの魔力にやられた感じです。昔このアルバムを聴いた頃を思い出しました。評価はもちろん3曲とも[+++++]とします。
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