デーネシュ・コヴァーチュ/ゲーザ・ネーメトによるヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ集

デーネシュ・コヴァーチュ(Dénes Kovács)のヴァイオリン、ゲーザ・ネーメト(Géza Németh)のヴィオラによるハイドンのヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ集。収録曲はHob.VI:1、VI:2、VI:3、VI:4、VI:5、VI:6の6曲。収録は1969年。収録場所などの記載はありません。レーベルはハンガリーのHUNGAROTONのWHITE LABELというシリーズ。
ヴァイオリンとヴィオラだけのデュエットと非常に珍しい曲。ハイドンによるこの編成の曲はこの6曲限りとのこと。作曲年代は判明していないようですが、いつも参考にしている大宮真琴さんの「新版ハイドン」巻末の作品リストではBreitkopfの目録に1776/77年の記録が最も古いとの記載があります。ライナーノーツによれば、曲の様式から作曲年代は1760年代の後半に書かれたものであろうと推察されているようです。また、ハイドンから作曲のレッスンを受けていたイタリアのヴァイオリニストのルイジ・トマシーニのために作曲されたとされ、ハイドンは自身でヴィオラを担当し、トマシーニと演奏を楽しんだのではないかとのこと。曲を聴くとあながちその想像も頷けるものがあります。
ヴァイオリンのデネーシュ・コヴァーチュは1930年、ハンガリーのブダペスト北部のバーツ(Vác)生まれのヴァイオリニスト。2005年に亡くなっています。ハンガリー国立管弦楽団のコンサートマスターを10年務め、1960年に独立してソリストとして活躍するようになり、1957年以降はブダペスト音楽院の教授となっています。
ヴィオラのゲーザ・ネーメトはバルトーク四重奏団のヴィオラ奏者ということです。
ヴァイオリンとヴィオラという非常に珍しい曲ですが、その響きは如何なるものでしょう。
Hob.VI:1 Sonata for Violin and Viola No.1 [F] (c.1769)
HUNGAROTON独特のリアリティのある直接音重視の録音。ヴァイオリンとヴィオラが楽器をキリッと鳴らしながら掛け合います。弦楽四重奏曲と同様の楽しみもありますが、基本的にヴァイオリンがメロディーでヴィオラが伴奏を担当するという構図。楽器が2丁というだけあって純度が高い音楽。ただ音楽は練習曲のような風情もあり、公式な場で演奏を披露する目的よりも、純粋に音楽を演奏して楽しむ用途のもののように感じられます。1楽章はアレグロ・モデラート。デネーシュ・コヴァーチュの美音はほれぼれするような唸る響き。ゲーザ・ネーメトのヴィオラは伴奏役に徹しているような演奏。コヴァーチュの独り舞台といったところ。
2楽章は短調による名旋律。バッハの無伴奏のようなヴァイオリンの存在感ですが、寄り添うようなヴィオラの伴奏がつくのも悪くありません。このメロディーラインの緊張感は素晴らしいものがあります。コヴァーチュのヴァイオリンが冴え渡ります。
フィナーレはメヌエット。予定調和のように落ち着きはらった演奏。音量を上げて聴くとやはりコヴァーチュのヴァイオリンは絶品。当時ヴィオラをハイドンが弾いて、ヴァイオリンを演奏させるように書かれたことが頷けます。室内楽アンサンブルの楽しみに満ちあふれたかくれた名曲という事が出来るでしょう。
Hob.VI:2 Sonata for Violin and Viola No.2 [A] (c.1769)
No.2以降は同様の構成が続きますので、簡単に紹介しましょう。この曲は同じく短調の2楽章の高音の伸びが印象的。
Hob.VI:3 Sonata for Violin and Viola No.3 [B flat] (c.1769)
穏やかにはじまる1楽章のハイドンらしい優しい表情と、つづく2楽章も穏やかなメロディーに包まれた曲。2楽章は短調ではありません。
Hob.VI:4 Sonata for Violin and Viola No.4 [D] (c.1769)
これまでの曲とまた違った趣を感じさせるの凄いところ。1楽章は音程を大胆に上下させてくっきりと晴朗さを表し、2楽章に入ると表情がぐっと沈み込む見事な展開。メヌエットではふと木のぬくもりを感じさせる明るさが射しふたたび楽章の展開の妙に打たれます。
Hob.VI:5 Sonata for Violin and Viola No.5 [E flat] (c.1769)
1曲ずつ曲調も豊かに変化していくのが凄いところ。5番に至り、メロディーラインもかなり複雑で変化に富んだものになります。
Hob.VI:6 Sonata for Violin and Viola No.6 [C] (c.1769)
1曲1曲の表情の変化はもはや神業。ハイドンがハイドンたる所以です。たった2丁の楽器のためにだけでもこれだけの変化を書き分けられるとは素晴らしい事。
珍しいヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ集でしたが、期待を超える素晴らしい演奏。聴いているうちにまさに自分が弾いているような錯覚に陥る親密な音楽。弦楽四重奏曲を聴く楽しみをさらに身近にしたような楽しみを味わえます。演奏もコヴァーチュのヴァイオリン、ネーメトのヴィオラともども完璧。ということで、評価は全曲[+++++]としました。
今日はヴァイオリンとヴィオラの心地よい響きに酔いしれて休む事にしましょう。
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