作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

チョ・ヨンチャン/テロス・アンサンブル・ケルンのチェロ協奏曲集(ハイドン)

2
0
結構な頻度で取りあげているチェロ協奏曲ですが、またいいアルバムを発掘しました。

TelosCello.jpg
amazon

チョ・ヨンチャン(Young-Chang Cho)のチェロ、テロス・アンサンブル・ケルン(Telos Ensemble Köln)の演奏によるハイドンのチェロ協奏曲1番、2番を収めたアルバム。収録は1996年3月25日、26日、おそらくケルンにあるテロス・スタジオでのセッション録音。レーベルはtelos recordsというレーベル。

このアルバム、先日ディスクユニオンの店頭で見つけたもの。まったく見た事もないアルバムでしたので迷わず入手。チェロ協奏曲はずいぶん集めたつもりですが、まだまだ未知のアルバムがあるものですね。

チェロのチョ・ヨンチャンは1958年、韓国のソウルで生まれ。8歳からチェロをはじめ、1971年に渡米しフィラデルフィアのカーティス音楽院、ボストンのニュー・イングランド音楽院で学んだ後、ロストロポーヴィチにも師事しました。1981年にパリで開催されたロストロポーヴィチ・チェロコンクールで入賞、またブダペストで行われたパブロ・カザルス・チェロ・コンクールやミュンヘンのARD国際音楽コンクールにも入賞するなど国際的にも高く評価されるようになりました。また、姉弟でチョ・ピアノトリオを結成して室内楽にも取り組んでおり、こちらでもジュネーヴ国際音楽コンクール、ARD国際音楽コンクールでも入賞しています。近年はチョン・ミュンフンの主宰する「セヴン・スターズ・ガラ・コンサート」やN響、東京フィルなどに客演しているとのことで日本でもご存知のかたはいるでしょう。現在はドイツ、エッセン近くのフォークワング芸術大学で教鞭をとっています。

オケのテロス・アンサンブル・ケルンについてはライナーノーツを含めてほとんど情報がありません。このアルバムのライナーノーツの裏面にメンバーの写真と名前があり、人数は16人。ファゴットを持った方は日本人で、Hiroaki Mizumaという方です。このアルバムのレーベルがtelos recordsだということを考えると、録音用に結成されたオーケストラだと想像しています。

冒頭に書いたとおり、このアルバムを取りあげたのはその出来が素晴らしいからに他なりません。

Hob.VIIb:1 / Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
奥行きの深いホールで録られているような残響の比較的豊かな録音。テロス・アンサンブル・ケルンは冒頭から柔らかいな音色なのに鮮烈、鮮度の高い生気漲る演奏。腕利き揃いのメンバーである事が想像されます。チョ・ヨンチャンのチェロは最初から鳴きまくる煽情的なボウイング。高音の鳴きをベースになめらかなフレージングで思い切り歌わせ、ハイドンの1番の晴朗さを体現するよう。チェロが良く鳴ってっています。メロディーラインを作る時の力の抜き方がうまく、表情がとても豊か。ジャクリーヌ・デュ・プレの再来かと思わせる表情。オケもオーソドックスな現代楽器による演奏ですがこれだけ活気ある演奏になれば聴き応え十分。ソロもオケも千載一遇の機会とばかりに素晴らしい集中力で進みます。楽器の響きがホールに響き渡っています。終盤は熱気が迸る感じ。カデンツァはリズム感を保ちながらチェロの美しい高音の魅力をそっと表現した短いながらインパクトのあるものでした。1楽章から盛り上がります。
アダージョは満月が静かな湖面にうつる姿を眺めるような静けさを感じさせる演奏。最初から非常に抑えた表情。徐々にチェロの表情を少しずつ膨らませていきますが、基本的に音楽的静寂が支配する世界。音量の問題ではなく表現としてという意味です。深い深い静かな呼吸を感じさせ、糸を引くようなメロディーをゆったりと奏でる感じです。チェロの音色の美しさ、とくに高音の鳴きの音色は素晴らしいものがあります。
フィナーレは期待通り十分な速さで、駆け抜けるような爽快感。速いパッセージのキレは素晴らしいものがありますがなによりそれでも非常に表情の豊かさを保っているところは絶品。1996年の演奏としてはロマンティック過ぎる嫌いはあるものの、その音楽の素晴らしさは他の演奏を押しのけてベスト盤の仲間入りする資格ありです。

Hob.VIIb:2 / Cello Concerto No.2 [D] (1783)
1番の充実ぶりで2番を弾かれたらと期待していたそのままの演奏。2番の柔らかな表情が特徴の入りは、本当に期待通りの演奏。最初からチョ・ヨンチャンの美音炸裂です。ゆったりとしたリズムに乗って、チェロがこちらもゆったりと噛み締めるようメロディーを重ねていきます。音の揺らぎというか、震えのようなものが乗って音楽が深まって行くのが感じられます。明らかに1番とは異なる深みを感じるアプローチ。このときチェ・ヨンチャンは38歳ですが音楽は老巨匠の円熟味を感じさせ、風格に満ちています。この2番の1楽章は音楽の結晶のような素晴らしい至福の時間。1番の溌剌とした魅力に対し、ハイドンの音楽も成熟し、音楽のエッセンスの結晶の様な曲となっていますが、チェ・ヨンチャンはその違いを見事に表現しています。1楽章のカデンツァはチェロの表現の深さの限りを尽くしたような入魂の演奏。暗黒の淵を覗き見るような深みを感じさせます。最後はリズミカルなオケに拾われるようにして1楽章を閉じます。
アダージョに入ってもじっくりした演奏のスタンスは変わらず、力の抜け具合も絶品。もはや言葉で説明するごとが出来ないような純度。心が昇華して音楽になったよう。
フィナーレは郷愁あふれるメロディを、これまたじっくりと進めていきます。もはや燻し銀の演奏。チェロ協奏曲というより、チェロを伴ったオーケストラによる叙情詩のような趣。ハイドンがこの曲に込めた想いをこれほどうまく引き出した演奏は滅多にありません。技術や表現を超えた素晴らしい音楽性。絶品です。

チョ・ヨンチャンとテロス・アンサンブル・ケルンによるハイドンのチェロ協奏曲1番、2番を収めたアルバム。正直に言うと、ジャクリーヌ・デュ・プレの演奏よりもこちらの方が気に入ったくらいいい演奏。おそらく1996年の演奏としてはロマンティックすぎると言う意見もあるかもしれませんが、このアルバムに入った音楽の純度はそういった意見を超えた存在。チェロ協奏曲がソロを聴かせるものという既成概念を打ち破る音楽としての情感の深さがあります。このアルバムも店頭では全く見かけませんが、こういった演奏こそ多くの人に聴いてほしいですね。評価はもちろん両曲とも[+++++]としました。

にほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ
関連記事

2 Comments

There are no comments yet.

まる

ファゴット

そのファゴットのHIROAKI MIZUMAさんは、ケルン放送管弦楽団の首席ファゴット奏者の方です。
2年に1度くらいケルン放送管弦楽団木管トリオ、トリオダンシュデコロンのツアーで帰国されています。(前回の演奏会に行きました。トリオのCDも購入しましたが、GOOD!でした。)

  • 2012/11/24 (Sat) 14:46
  • REPLY

Daisy

Re: ファゴット

まるさん、こんばんは。
情報ありがとうございます。なるほど流石に上手い訳ですね。彼らのウェブサイトをみると、バッハのアルバムの他にハイドンのロンドントリオを収めたアルバムもありますね。機会があったら聴いてみたいアルバムです。

  • 2012/11/24 (Sat) 21:56
  • REPLY