爆演! ヴィトルド・ロヴィツキの驚愕、ロンドン

ヴィトルド・ロヴィツキ(Witold Rowicki)指揮のハイドンとベートーヴェンの交響曲4曲をまとめた2枚組のアルバム。収録曲は収録順にハイドンの交響曲94番「驚愕」、ベートーヴェンの交響曲3番「英雄」、ハイドンの交響曲104番「ロンドン」、ベートーヴェンの交響曲7番。オーケストラは驚愕の方が国立フィルハーモニー交響楽団(Orkiestra Symfoniczna Filharmonii Narodowej)これは現ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団でしょうか、ロンドンがポズナン・フィルハーモニー交響楽団(Orkiestra Symfoniczna Filharmonii w Poznaniu)、収録は驚愕が1968年3月16日、ワルシャワのFNホール、ロンドンが1955年の12月29日、ポーランド中部の古都ポズナン(場所不明)での録音。拍手もないことから放送用録音ではないかと思われます。レーベルはポーランドのmuzaというレーベル。CDとしては1999年に発売されたようです。
ヴィトルド・ロヴィツキは1914年、黒海の北に接するアゾフ海沿いのタガンログ(ロシア)生まれの指揮者。ポーランドのクラクフ音楽院でヴァイオリンと作曲を学び、戦時中にドイツに渡ってヒンデミットの弟、ルドルフ・ヒンデミットに指揮法を学んだとのこと。ヴァイオリニストとして活躍し、ポーランド国立放送交響楽団やワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団の結成に参加しました。1950年から1955年までと1958年から1977年までワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督を務めたていたということで、このアルバムの驚愕は音楽監督の頃の演奏でしょう。その後国際的にも活躍するようになり、晩年である1982年から1985年までバンベルク交響楽団の首席指揮者となります。1989年にワルシャワで亡くなっています。
これまで何回か触れたように、ポーランドの演奏家やオケの演奏するハイドンは、弦楽器の素晴らしいエネルギー感を特徴とする演奏が多く、なにげに気になってます。昨日もディスクユニオンでいろいろ仕入れたのですが、このアルバムがまず気になり取りあげた次第。先にバラしますが、予感的中。もの凄いエネルギー感に溢れる演奏でした。
Hob.I:94 / Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlagk" 「驚愕」 [G] (1791)
いきなり素晴らしい張りのあるオーケストラの響き。1968年録音ということですが、若干古びた印象はあるものの適度に残響がブレンドされたなかなかいい録音。低音が若干量感不足ですが、逆にヴァイオリンの素晴らしい覇気がしっかり録られています。主題に入ると素晴らしい覇気とスピード! 音量を上げて聴くと恍惚となるような陶酔感。驚愕の聴き所はハイドンファンの方ならご存知のとおり、1楽章の緊密な構成。ロヴィツキのコントロールはまさにエネルギーが噴出する素晴らしい覇気。フレーズごとの立体感は驚くほど。痺れます。弦楽セクションの分厚い響きはカラヤン時代のベルリンフィル顔負け。もはや神憑ったような集中力。
2楽章は逆にレガートを効かせながらリラックスした演奏。ビックリさせようとは思っていないような堂々としたアタック。ゆったり流麗な表現で有名なメロディーをじっくり演奏していきます。オケは1楽章とは異なり、リズムのキレをあえて抑え、すべての音に面取りがされて柔らかく演奏する事が徹底されています。後半の展開部はざっくりしたオケの荒々しさと弦楽器の素晴らしいエネルギーが再び漲ります。
3楽章のメヌエットは王道を行くようなオーソドックスなもの。ロヴィツキのコントロールは落ち着き払ってはいますが、脈打つリズムと時折顔をのぞかせる弦楽器のキレがただならぬ感じも残して、凡庸さは全くありません。
そして期待のフィナーレは、1楽章の覇気とエネルギーが蘇ります。ヴァイオリンはキレまくり、畳み掛けるような快速テンポでホール中に響き渡る大音響。ヴァイオリンのキレは尋常ではありません。これほどまでの陶酔感はなかなかありません。まさに爆演。弦楽セクション全員がアドレナリン噴出状態。マーラーやストラヴィンスキー等の巧みなオーケストレーションの曲とは異なりますが、迫力は負けいないどころか、古典の均整の枠の中でのこの爆発感、見事という他ありません。ロヴィツキ恐るべしです。
Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
今度は1955年と少し古い録音。音響は鮮明さが少し落ちますし、すこしテープの伸びがあるのか音に揺れを感じますが、分厚い音色で迫力はなかなかのもの。序奏は非常にゆったりとした堂々としたもの。主題に入るともの凄いギアチェンジでトップスピードに入ります。これもテープの問題かちょっと音程が上がったように聴こえますが、もの凄いエネルギーで攻め込みます。途中から明らかに高音のレベルが下がる部分がある等テープのコンディションが良くなかったことが窺われます。テープのコンディションはあっても分厚い音色と演奏のエネルギーははじけています。1楽章は速めのテンポのまま突き抜けるように終わります。
2楽章のアンダンテは、前曲同様、ゆったりと堂々としたもの。アンダンテというよりアダージョに近い表現。中間部以降の徐々に迫力が増す部分に至り、オケはフルスロットルになり、ザクザクと音階を刻んでいきます。静かな部分にもエネルギーが満ちあふれている感じ。
メヌエットはこれまでの楽章に比べるとすこしさっぱりとした表情付け。特徴であるエネルギー感はそのままに、淡々と進めてきます。終楽章との対比のためでしょうか。
予想通り、終楽章は最初からフルスロットル。漲るエネルギー感。前曲の驚愕のフィナーレ以上の素晴らしいエネルギー。やはり弦楽器のキレは最高。ハイドン最後の交響曲のフィナーレに相応しい高揚感です。
ポーランドの巨匠ヴィトルド・ロヴィツキの指揮するハイドンの驚愕とロンドンと言う傑作交響曲の演奏。1950年代から60年代の演奏ということを考えると、まさに王道の演奏でしょう。カラヤンとベルリンフィルの演奏にも負けない素晴らしい迫力。これをライヴで聴いたらさぞかし素晴らしかったでしょう。当時は東側に属していたため、この演奏が我々の耳に届く事はなかったのではないかと想像していますが、この演奏は時代を超えて聴かれる価値があると思います。特にコンディションのいい驚愕はおすすめ盤。現代の古楽器隆盛の時代からすると、時代がかった古いスタイルの演奏である事に間違いありませんが、ロヴィツキの迫真のコントロールとオケの弦楽器のエネルギーの塊のような演奏の価値は色あせる事はありません。評価は驚愕が[+++++]、ロンドンは録音のクォリティーの分減点で[++++]とします。やはり全盛期のポーランドのオケは素晴らしいですね。
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