ファイン・アーツ四重奏団の「ひばり」

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ファイン・アーツ四重奏団(Fine Arts Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、ヴォルフのイタリアン・セレナーデ、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲Op.59のNo.3「ラズモフスキー3番」の3曲を収めたアルバム。収録は1986年、ロンドンの聖バルナバ教会でのセッション録音。レーベルはスイス、ジュネーヴに本拠を置くLodiaというところ。
ファイン・アーツ四重奏団については以前にOp.77を収めたアルバムを取りあげています。
2011/01/04 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ファイン・アーツ四重奏団のOp.77
リンクを張った記事の演奏が1998年から1999年にかけての演奏ですので、こちらはそれより10年以上前の録音。クァルテットの紹介は前記事をご覧ください。メンバーはOp.77の時と変わらず。
第1ヴァイオリン:ラルフ・エヴァンス(Ralph Evans)
第2ヴァイオリン:エフィム・ボイコ(Efim Boico)
ヴィオラ:ジェリー・オーナー(Jerry Horner)
チェロ:ウォルフガング・ラウファー(Wolfgang Laufer)
ファイン・アーツ四重奏団のハイドンはリラックスして聴ける気の置けないもの。尖った演奏もいいですが、ハイドンの弦楽四重奏曲の楽しみはそれだけではありません。
Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
期待通り非常にリラックスした入り。ひばりの有名な導入部はゆったりと音階を奏でながらヴァイオリンが糸を引くようにメロディーを奏で、まさに老練。若手には真似の出来ない落ち着きぶり。弾く方も聴く方も音楽の悦びを満喫できるような演奏。ちょっと行書風に崩しながらも、迫力は十分。録音も悪くなく、ヴァイオリンが自然にクッキリと浮かび上がる様子はなかなか。木質系の柔らかな響きが特徴。鮮明さも十分。1楽章は安心して身を委ねることができるまさに至芸。テクニックの誇示もなければ表現意図の誇示もなく、純粋無垢な響き。そして十分なメリハリと安定感。言うことなし。
アダージョは行書の筆の運びが墨の濃淡の微妙な変化でたどれるような陰影の美しい演奏。ヴァイオリンをはじめとした各楽器の織りなすアンサンブルが手作りの音楽を作り上げてゆく様子が手に取るようにわかる素晴らしい演奏。一人一人の演奏スタイルが良くそろって、完璧な調和。長年アンサンブルをともにしているメンバーの信頼関係がよくわかるような演奏。非常に安心感のある演奏ながら、表現の起伏は大きく、間も効果的にとった演奏。絶品。
メヌエットはリズムと音色の変化と迫力を感じる深い演奏。筋骨隆々の立体感ではなく、どちらかと言うと枯れた感じを感じるような立体感。わかりにくいですが、音楽そのものは老練なのに、若々しさを感じる演奏と言えばいいでしょうか。音楽の完成度の高さはあるのに活き活きした感じもあります。一人一人が楽器をフルに鳴らしきっている感じ。教会での録音が功を奏しているのでしょうか。
フィナーレは小気味好い切れ味、ヴァイオリンの弓さばきは見事。3楽章までに十分な深みを感じさせておいたのが非常に効果的。最後は快速テンポでキレの良さを印象づけて終了。いやいや、見事な演奏。
ファイン・アーツ四重奏団のハイドンはハイドンに対する深い理解を感じさせる、非常に説得力のあるもの。4本の弦楽器で4声の曲を奏でる意味と美しさをしみじみ感じます。とくにこの「ひばり」は絶品。上手く演奏しようとか、上手く聴かせようという次元ではなく、ハイドンの弦楽四重奏曲を弾き熟した者だけが到達できる至高の領域の演奏というのが正統な評価でしょう。このアルバムの素晴らしさは心に残るもの。探した甲斐がありました。もちろん評価は[+++++]とします。


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tag : ひばり 弦楽四重奏曲Op.64