イェジー・マクシミウク/ポーランド室内管の「悲しみ」、46番
今日もラックの中からふと取り出した1枚。ラックの肥になってました(笑)

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イェジー・マクシミウク(Jerzy Maksymiuk)指揮のポーランド室内管弦楽団(Polish Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」、45番「告別」、46番、47番、48番「マリア・テレジア」、49番「受難」の6曲を収めたアルバム。収録は、「悲しみ」と「告別」が1979年9月、「受難」が1977年3月、その他が1978年7月、何れもロンドンのアビー・ロード・スタジオのスタジオ1でのセッション録音。レーベルはEMI CLASSICS。
このアルバム、ハイドンの名演が多いポーランドものということで取りあげました。ポーランドの悲しみと言えば、知る人ぞ知るこれです。
2011/01/16 : ハイドン–交響曲 : シュミット=ゲルテンバッハ/ワルシャワ・シンフォニアの悲しみ
読んでいただければわかるとおり、衝撃の1枚でした。特にヴァイオリンの凄まじいキレ具合は麻薬的なもの。たまに取り出しては聴いていますが、この「悲しみ」は素晴らしいものでした。以来、ポーランドものは気になる存在となりました。
このアルバム自体は結構前に手にいれていましたが、あまり積極的に評価できる印象はありませんでした。今日、久しぶりに取り出して1曲目の「悲しみ」をかけたところ、来てます。ゲルテンバッハばりのヴァイオリンのキレです。1楽章で早くも素晴らしい陶酔感。これはちゃんとレビューしなくては。
イェジー・マクシミウクは1936年、ポーランドの東端から少し入ったベラルーシのフロドナ生まれ。ポーランドのワルシャワ音楽院でヴァイオリンとピアノ・指揮・作曲を学び、1964年にパデレフスキ・ピアノコンクールで優勝しました。その後指揮活動が中心となって、ワルシャワ大劇場で指揮者として働くようになりました。自身で創設したこのアルバムのオケであるポーランド室内管弦楽団とともに1977年イギリスでデビューし、その後世界的に活動するようになりました。1975年から77年まではポーランド国立放送交響楽団の首席指揮者、1993年からはポーランド南部の街、クラクフのクラクフ・フィルハーモニーの首席指揮者として活躍しています。1983年以降はイギリスでBBCスコティッシュ交響楽団をはじめとして数多くのオケと共演、ヨーロッパの主要オケや日本、アメリカのオケとも仕事をするという国際的な活躍をしている人です。ベラルーシ生まれとはいえ活動のオリジンはポーランドにあるようですね。
Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
来ました。冒頭のタイトな小編成オケの響きに続いてヴァイオリンの素晴らしいキレ具合の音階。ゲルテンバッハばりの素晴らしい音階。悲しみの1楽章の聴き所といえば、この素晴らしい音階です。恍惚感すら感じるキレ具合。時折レガートを効かせて変化をつけます。どことなくストイックな雰囲気が集中力を高めます。これは確信犯的アプローチですね。ポーランドのオケの伝統でしょうか。速いパッセージを素晴らしい弓さばきで松ヤニをまき散らしながら演奏。アクロバチックな印象すら与える弦楽器のキレ。
2楽章は音を切り気味にした特徴的な演奏。じっくりとリズムを刻みながら叙情に傾かないコントロール。若干デッド気味の録音がかえって響きの純度を高めて、音楽の浸透力を増しているようです。素朴さが際立ちます。
3楽章のアダージョは弱音器つきのヴァイオリンの聴き慣れたメロディ。デュナーミクのコントロールは緻密というより素っ気なさも感じる直截なもの。溢れる情感が沸き上がる演奏というよりは素朴な肌合いと素直さが心情というような演奏。これもハイドンの魅力でしょう。ここまで聴き進んでマクシミウクの狙いがようやく見えてきました。ちょっと無骨さをも感じる荒っぽさで、仕上げを気にするというより骨格の表現にすぐれた木炭デッサンのような音楽。それでも沸き上がるシュトルム・ウント・ドラング期のほの暗い情感。
フィナーレは再びヴァイオリンのキレた音階が蘇ります。ヴァイオリンセクションは速くてキレのいいメロディを弾く事に絶対の自信をもっているよう。このキレは只者ではありません。非常に鮮明な主張をもった音楽。両端楽章のキレとエネルギー感は素晴らしいものがあります。
もう1曲行きます。
Hob.I:46 / Symphony No.46 [B] (1772)
CD1枚めの3曲目に置かれた交響曲46番。この前の45番「告別」なかなかまとまった演奏ですが、46番の方にマクシミウクの特徴が出ていると思い取りあげました。冒頭からヴァイオリンをキレをどこで表現しようか迷いがあるのか、ちょっとつんのめった腰高な演奏。弦楽器のキレは相変わらずいいのですが、曲が落ち着かず、速弾きのような慌てた感じ。これがこの曲のコミカルな側面を表していて意外と面白い表情。
2楽章のポコ・アダージョはじわりと沁みる演奏を期待してしまいますが、この楽章も箱庭的なコミカルさが基調にある演奏。ハイドンの交響曲に潜むユーモラスなところを見事に表していると取る事もできますね。かなりユニークな演奏ですが、指揮者の視点が明確にわかるという点ではなかなか含蓄ある演奏と言えるかもしれません。
メヌエットもざっくりして、溜めなく気負いなく、すすっと入り、すすっと進めます。意外と表情の変化やアクセントを付けて楽しませてくれます。この気負いのない音楽こそハイドンの本質を表しているかもしれませんね。
フィナーレはまた来ました! リズムの鮮度と曲の面白さを手作りの音楽で楽しませてくれます。ヴァイオリンのメロディのキレはやはり流石。短調への転調と表情の変化、盛り上がる感興。迸る機知。ヴァイオリン奏者が自慢げに髪を振り乱してメロディーをザクザク刻む姿が目に浮かびます。純粋無垢の子供のような心で解釈して演奏したらこうなるだろうというような演奏。なかなか面白いです。
イェジー・マクシミウク指揮のポーランド室内管弦楽団の演奏でハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の交響曲集。出だしの「悲しみ」のヴァイオリンのキレは素晴らしいもの。ただし、テクニックを誇る演奏ではなく、音楽を演奏する楽しみに溢れた、素朴で、純粋無垢な心を感じる演奏。並みいる名演盤と並べると、表情の豊かさ、深さ、完成度ではかなり差がつくのも正直なところですが、この演奏には音楽を演奏する素朴な楽しみのエッセンスがあるような気がします。指揮者もオケも純粋にハイドンの交響曲の演奏を楽しんでいるよう。これもハイドンの真髄に迫った演奏と言えるかもしれません。評価は「悲しみ」が[++++]、46番は[+++]とします。このアルバム、ハイドンの交響曲をいろいろ聴きこんだ耳の肥えた方にお薦めしたいですね。これもいいアルバムです。
追伸)
有田さん、拍手コメントありがとうございます! 返信ができないのでこちらで失礼。心に触れるレビューを目指して精進します。とても大切なお仕事につかれていることを知り応援したい気持ちになりました。今後ともよろしくお願い致します。

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イェジー・マクシミウク(Jerzy Maksymiuk)指揮のポーランド室内管弦楽団(Polish Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」、45番「告別」、46番、47番、48番「マリア・テレジア」、49番「受難」の6曲を収めたアルバム。収録は、「悲しみ」と「告別」が1979年9月、「受難」が1977年3月、その他が1978年7月、何れもロンドンのアビー・ロード・スタジオのスタジオ1でのセッション録音。レーベルはEMI CLASSICS。
このアルバム、ハイドンの名演が多いポーランドものということで取りあげました。ポーランドの悲しみと言えば、知る人ぞ知るこれです。
2011/01/16 : ハイドン–交響曲 : シュミット=ゲルテンバッハ/ワルシャワ・シンフォニアの悲しみ
読んでいただければわかるとおり、衝撃の1枚でした。特にヴァイオリンの凄まじいキレ具合は麻薬的なもの。たまに取り出しては聴いていますが、この「悲しみ」は素晴らしいものでした。以来、ポーランドものは気になる存在となりました。
このアルバム自体は結構前に手にいれていましたが、あまり積極的に評価できる印象はありませんでした。今日、久しぶりに取り出して1曲目の「悲しみ」をかけたところ、来てます。ゲルテンバッハばりのヴァイオリンのキレです。1楽章で早くも素晴らしい陶酔感。これはちゃんとレビューしなくては。
イェジー・マクシミウクは1936年、ポーランドの東端から少し入ったベラルーシのフロドナ生まれ。ポーランドのワルシャワ音楽院でヴァイオリンとピアノ・指揮・作曲を学び、1964年にパデレフスキ・ピアノコンクールで優勝しました。その後指揮活動が中心となって、ワルシャワ大劇場で指揮者として働くようになりました。自身で創設したこのアルバムのオケであるポーランド室内管弦楽団とともに1977年イギリスでデビューし、その後世界的に活動するようになりました。1975年から77年まではポーランド国立放送交響楽団の首席指揮者、1993年からはポーランド南部の街、クラクフのクラクフ・フィルハーモニーの首席指揮者として活躍しています。1983年以降はイギリスでBBCスコティッシュ交響楽団をはじめとして数多くのオケと共演、ヨーロッパの主要オケや日本、アメリカのオケとも仕事をするという国際的な活躍をしている人です。ベラルーシ生まれとはいえ活動のオリジンはポーランドにあるようですね。
Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
来ました。冒頭のタイトな小編成オケの響きに続いてヴァイオリンの素晴らしいキレ具合の音階。ゲルテンバッハばりの素晴らしい音階。悲しみの1楽章の聴き所といえば、この素晴らしい音階です。恍惚感すら感じるキレ具合。時折レガートを効かせて変化をつけます。どことなくストイックな雰囲気が集中力を高めます。これは確信犯的アプローチですね。ポーランドのオケの伝統でしょうか。速いパッセージを素晴らしい弓さばきで松ヤニをまき散らしながら演奏。アクロバチックな印象すら与える弦楽器のキレ。
2楽章は音を切り気味にした特徴的な演奏。じっくりとリズムを刻みながら叙情に傾かないコントロール。若干デッド気味の録音がかえって響きの純度を高めて、音楽の浸透力を増しているようです。素朴さが際立ちます。
3楽章のアダージョは弱音器つきのヴァイオリンの聴き慣れたメロディ。デュナーミクのコントロールは緻密というより素っ気なさも感じる直截なもの。溢れる情感が沸き上がる演奏というよりは素朴な肌合いと素直さが心情というような演奏。これもハイドンの魅力でしょう。ここまで聴き進んでマクシミウクの狙いがようやく見えてきました。ちょっと無骨さをも感じる荒っぽさで、仕上げを気にするというより骨格の表現にすぐれた木炭デッサンのような音楽。それでも沸き上がるシュトルム・ウント・ドラング期のほの暗い情感。
フィナーレは再びヴァイオリンのキレた音階が蘇ります。ヴァイオリンセクションは速くてキレのいいメロディを弾く事に絶対の自信をもっているよう。このキレは只者ではありません。非常に鮮明な主張をもった音楽。両端楽章のキレとエネルギー感は素晴らしいものがあります。
もう1曲行きます。
Hob.I:46 / Symphony No.46 [B] (1772)
CD1枚めの3曲目に置かれた交響曲46番。この前の45番「告別」なかなかまとまった演奏ですが、46番の方にマクシミウクの特徴が出ていると思い取りあげました。冒頭からヴァイオリンをキレをどこで表現しようか迷いがあるのか、ちょっとつんのめった腰高な演奏。弦楽器のキレは相変わらずいいのですが、曲が落ち着かず、速弾きのような慌てた感じ。これがこの曲のコミカルな側面を表していて意外と面白い表情。
2楽章のポコ・アダージョはじわりと沁みる演奏を期待してしまいますが、この楽章も箱庭的なコミカルさが基調にある演奏。ハイドンの交響曲に潜むユーモラスなところを見事に表していると取る事もできますね。かなりユニークな演奏ですが、指揮者の視点が明確にわかるという点ではなかなか含蓄ある演奏と言えるかもしれません。
メヌエットもざっくりして、溜めなく気負いなく、すすっと入り、すすっと進めます。意外と表情の変化やアクセントを付けて楽しませてくれます。この気負いのない音楽こそハイドンの本質を表しているかもしれませんね。
フィナーレはまた来ました! リズムの鮮度と曲の面白さを手作りの音楽で楽しませてくれます。ヴァイオリンのメロディのキレはやはり流石。短調への転調と表情の変化、盛り上がる感興。迸る機知。ヴァイオリン奏者が自慢げに髪を振り乱してメロディーをザクザク刻む姿が目に浮かびます。純粋無垢の子供のような心で解釈して演奏したらこうなるだろうというような演奏。なかなか面白いです。
イェジー・マクシミウク指揮のポーランド室内管弦楽団の演奏でハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の交響曲集。出だしの「悲しみ」のヴァイオリンのキレは素晴らしいもの。ただし、テクニックを誇る演奏ではなく、音楽を演奏する楽しみに溢れた、素朴で、純粋無垢な心を感じる演奏。並みいる名演盤と並べると、表情の豊かさ、深さ、完成度ではかなり差がつくのも正直なところですが、この演奏には音楽を演奏する素朴な楽しみのエッセンスがあるような気がします。指揮者もオケも純粋にハイドンの交響曲の演奏を楽しんでいるよう。これもハイドンの真髄に迫った演奏と言えるかもしれません。評価は「悲しみ」が[++++]、46番は[+++]とします。このアルバム、ハイドンの交響曲をいろいろ聴きこんだ耳の肥えた方にお薦めしたいですね。これもいいアルバムです。
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