モーゲンス・ヴェルディケ/ウィーン国立歌劇場管弦楽団の99番、「軍隊」

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モーゲンス・ヴェルディケ(Mogens Wöldike)指揮のウィーン国立歌劇場管弦楽団の演奏で、ハイドンの交響曲99番、100番「軍隊」、101番「時計」、102番、103番「太鼓連打」、104番「ロンドン」の6曲を収めたアルバム。収録は1956年6月、ウィーン楽友協会小ホール(ブラームス・ザール)でのセッション録音。
今日はこのなかからCDの1枚めの99番、100番「軍隊」を取りあげましょう。
モーゲンス・ヴェルディケは1897年デンマーク、コペンハーゲン生まれの指揮者。1988年に同じくコペンハーゲンで亡くなっています。コペンハーゲンの大学でカール・ニールセンらに音楽を学び、1920年代から60年代までデンマークでオルガン奏者、指揮者、合唱指揮者、音楽学者として活躍していたそうです。1931年にコペンハーゲン中心部にあるクリスチャンスボー城のオルガニストとなり、また1959年から72年までコペンハーゲン協会のオルガニストでもありました。合唱指揮の方ではコペンハーゲン声楽学校の少年合唱団の指揮者、デンマーク国立放送の合唱指揮者などを務めました。そしてスウェーデン放送の指揮者を務めた後、ヨーロッパの主要なオーケストラを客演、地元スカンジナビアやヨーロッパ、アメリカで名声を確立したということです。
ジャケットに写る凛々しい指揮姿はまさに名指揮者そのもの。この時代にウィーン国立歌劇場管弦楽団でハイドンの交響曲を録音をするという事自体がヴェルディケの名声を物語っていますね。
Hob.I:99 / Symphony No.99 [E flat] (1793)
ジャケットの指揮姿から想像されるそのものの音響。凛々しく引き締まった響き。ゆったりしたテンポながらそこそこのキビキビ感もあり、中庸の美学を感じられる演奏。弦楽器にレガートがかかっているので滑らかな響きが心地良い演奏。録音は1956年ということを考えると素晴らしいものがあります。ジャズで良く聴かれる左右の分離が良い録音。オケが中央に定位はするのですが、左右が綺麗に分離して聴こえます。音場は広く響きも豊か。一瞬テープのつなぎ目らしきものがわかるところがありますが気になるほどではありません。一貫したテンポで安定感の高い演奏。演奏自体は少々古風な印象もつきまといますが、それを上回る覇気とエネルギー感。
2楽章のアダージョは99番の聴き所。テンポは一貫してゆったり気味。表情の変化は最小限ですが、ただ演奏するだけでも慈しみ深い曲ゆえ、ゆったり一貫して演奏するだけでも香り立つような情感が浮かび上がります。ゆったりと盛り上がる中間部。なだらかな山脈を遠望するような趣。木管楽器の陰影に富んだ響きがオケの音色に深みを与えます。そして後半更なる高みに。弦楽器がゆったりと織りなす綾がじわりと心に響きます。このアダージョは絶品。至福の一時。
メヌエットは一貫したテンポで軽さを見せながら入りますが、しだいに揺るぎない岩のような強靭さを感じさせるすばらしいもの。99番はこうした穏やかながら筋の通った解釈が生きる曲ですね。
フィナーレもむしろ遅目のテンポでじっくり攻め入ります。最初はかなり抑え気味。徐々にスロットルを開けていきオーケストラに力が漲っていく推移をじっくり楽しむ事ができます。くすんだ迫力あるウィーン国立歌劇場管弦楽団の音色によって立体的に曲の構造が浮かび上がり、老練なのによく見ると筋肉が浮かび上がる壮年のスポーツ選手の鍛え抜かれた体のような味わい深い立体感。無理する事なく曲の構造を詳らかにして終了。
Hob.I:100 / Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
99番の素晴らしい演奏につづいて軍隊。前曲の調子そのままで軍隊を弾かれたら痺れるだろうとの期待をもちながら序奏を聴きます。堂々とした大伽藍の神殿のような序奏。つづいてパルテノン神殿の完璧なプロポーションのごとき立体感とこれ以上ない晴朗さで主題に移ります。まさに軍隊の理想像を描くような圧倒的な説得力。ゆったりしているのに息を飲むようなスペクタクルな展開。全盛期のカラヤンでもここまでの余裕ある覇気は表現できないのではと思わせる完璧さ。テンポは動かさず音楽の芯は微動だにしない揺るぎなさで展開部に。ムジークフェラインの小ホールに響き渡るオケの響き。動と静の完璧なバランス。抑えた金管の号砲。1楽章の最後になんとテンポをあげててキリリと引き締めます。見事。
軍隊のハイライトの2楽章。テンポは一貫しながらも弦楽器主体のオケが色彩感豊かにフレーズを進めます。徐々にエネルギーが満ち、小爆発がはじまります。打楽器陣が非常にテンポ良く穏やかにオケに彩りを加えていきます。なんと豊かな音楽。弦のピチカートがホールに響き、打楽器陣も力が入ります。ハイドンの創意が音になってホールに散乱。荒れ狂うティンパニと打楽器。余韻をフルートが鎮め、トライアングルが名残惜しそうに響きます。エネルギーではなく知性と創意でホールを吹き飛ばすような素晴らしい爆発。すばらしい2楽章。
メヌエットは2楽章の知性の破壊力を日常に引き戻してくれるようなオーソドックスさに引き戻してくれます。ヴェルディケのバトンはハイドンの曲の期待通りの響きで、曲の真髄を把握しきったように、一聴して自然ではありますが、良く聴くと非常に巧みなコントロール。眼光鋭い写真のヴェルディケの意図がCDを通して蘇っています。徐々にノリがよくなってメヌエットを結びます。
フィナーレはところどころテンポを早く打ち、活き活きとした感じを巧みに表現しています。自然な範囲でかなり意図的にアクセント付けにいっています。フィナーレにしては全般に抑え気味の表現ながら、要所要所をクッキリと演出して曲の面白さを思い知らさせるような演奏。最後は打楽器陣が軽く腕前をデモンストレーションするような余裕ある結び。ヤニグロとは逆にテンポを上げる結びが粋ですね。
聴き終わって深呼吸をしなくてはならないような充実ぶり。ヴェルディケのハイドンがここまで素晴らしかったと言う記憶がありませんでしたが、これは圧倒的な演奏。99番のアダージョは宇宙的な深み、そして軍隊の2楽章の素晴らしさも腰にくるようなずしりとインパクトのあるもの。ハイドンの交響曲の最高の演奏として多くの人に勧めたい素晴らしい演奏です。1956年の録音とは思えない素晴らしい録音も絶品。評価はもちろん両曲ともに[+++++]とします。
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