ロヴロ・フォン・マタチッチ/ザグレブ・フィルの「太鼓連打」

ロヴロ・フォン・マタチッチ(Lovro von Matačić)指揮のザグレブ・フィルハーモニック管弦楽団の演奏でハイドンの交響曲103番「太鼓連打」とシューベルトの交響曲第2番D125の2曲を収めたアルバム。収録は1979年10月29日、現クロアチアの首都、ザグレブにあるヴァトロスラヴ・リシンスキ(Vatroslav Lisinski)コンサート・ホールでのライヴ。レーベルはオケのプライベートレーベルだと思われる、Zagrebačka Filharmonija。
マタチッチのハイドンはこのアルバムの他に、1984年ウィーン響との太鼓連打のライヴ、1982年ローザンヌ室内管との熊が手元にありますが、聴く限り今日取り上げるこのアルバムの出来が目立っていい感じです。
マタチッチはN響アワーでは非常に紳士的な人格者だったと元N響のコンサートマスターの徳永二男さんが語っていたのが非常に印象に残っています。マタチッチの演奏は生で聴いた事はなく、テレビやアルバムで聴くいただけですが、じっくりと盛り上げる手腕に秀でた人との認識です。ハイドンのなかでも熊や太鼓連打を取りあげるというところのマタチッチの好みも反映しているかもしれませんね。
Hob.I:103 / Symphony No.103 "Mit dem Paukenwirbel" 「太鼓連打」 [E flat] (1795)
不気味な迫力を帯びたオケが遠雷タイプの太鼓に続いて入ります。糸を引くように滑らかな序奏のヴァイオリンの響き。ホール中に響く残響。丁寧に丁寧に彫り込まれた柔らかな彫刻的フォルム。主題に入ると怒濤のエネルギーが噴出するのを抑えきれないような図太いオケの響きが部屋中に満ちます。揺るぎないオーケストラの分厚い響き。荒々しいコントロール。オケの線がそろってませんが、ヴォリューム感の表現は秀逸。ミケランジェロのデッサンのような荒々しいデフォルメの施されたフォルム。マタチッチの長い眉毛の奥から覗く鋭い眼光に支配されたオケの息吹が伝わってくるようです。1楽章最後の太鼓は弩迫力。部屋に雷が落ちたような衝撃。何と輝かしい太鼓連打。
2楽章のアンダンテは抑えた表現なのに旋律がくっきりと浮かび上がる絶妙のキレ具合。曲が進むにつれて再びエネルギー噴出。ハイドンの演奏でこれだけ突き抜けるエネルギーの表出はめったにお目にかかれません。何気ない演奏なのに、誰にも真似の出来ない圧倒的な存在感。途中からのヴァイオリンのソロも見事。キリッとしたテンポが引き締まった表情を作っています。オケも非常にダイナミックな響きでマタチッチの指示に応えます。後半はテンポをかなり落とす場面と静かな踊り場のような場面を挟んで曲のメリハリを強調。この楽章も見事。
メヌエットは思い切り彫刻的。時折弦楽器をじっくり鳴らして変化を付け、中間の抑えた部分は、間を上手く取って余韻の美しさもふくめた表現に拘るあたりが流石なところ。
フィナーレの開始を告げる美しい金管の響き。柔らかい表情で爆発までの美しいメロディーラインをじっくり表現。フィナーレはマタチッチのもてるエネルギーが凝縮して爆発せんばかりの素晴らしい緊張感の連続。溜めた音楽性の高いオーケストラの演奏の醍醐味が満喫できる素晴らしい演奏。最後は拍手がホール中から降り注ぎます。
やはりマタチッチのエネルギーは素晴らしい。これぞハイドン、これぞ太鼓連打です。当日のコンサートホールにいた観客がうらやましいです。1楽章終わりの太鼓がホールを震わすところは鳥肌がたつような素晴らしさ。そして渾身の起承転結。フィナーレは音の塊。同じ音符でもこれだけ迫力がちがうものかとおもう素晴らしさ。大リーグボールがまわりに砂煙をおこしてミットめがけて突き抜ける、あの感じがこの演奏にはあります。この少し後のウィーン響とのライヴがちょっとよそ行きの鈍い演奏だったのに対して、こちらはマタチッチの良さがフルに発揮された素晴らしい演奏という事が出来るでしょう。評価はもちろん[+++++]とします。
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