作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

橋本英二/18世紀音楽アンサンブルの初期交響曲集

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前記事のパトリック・ガロワ初期交響曲集を聴いて、もう少し初期のものを聴きたくなった次第。最近手に入れた1枚ですが、これが驚きの出来。

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HMV ONLINEicon / amazon

橋本英二(Eiji Hashimoto)指揮の18世紀音楽アンサンブル(Ensemble for Eighteenth Century Music)の演奏で、ハイドンの交響曲4番、6番「朝」、9番、13番の4曲を収めたアルバム。収録は1997年5月23日から25日、アメリカ、オハイオ州のシンシナティにあるシンシナティ大学音楽院のコルベット・オーディトリウムでのセッション録音。レーベルは以前シェンクマンのピアノソナタで取りあげたアメリカ、ロスのCENTAUR。

橋本英二は日本人のハープシコード奏者、指揮者。本人のサイトがありますのでリンクを張っておきましょう。

EIJI HASHIMOTO(英文)

私はもちろん、はじめて聴く人。生年などはわかりませんが、1975年から2000年まで、このアルバムのオケである18世紀音楽アンサンブルの音楽監督の立場だったようですね。このオケは録音場所であるシンシナティ大学音楽院のオーケストラのようです。他に1991年から93年まで日本の津田コンソート、1996年から98年までイタリアのルッカ室内管弦楽団の音楽監督も務めていたとのこと。2001以降、現在までシンシナティ大学音楽院の名誉教授の地位にあるようです。なお、日本でもリサイタルを開いたり、「バロックから初期古典派までの音楽の奏法―当時の演奏習慣を知り、正しい解釈をするために」というような著書があったりと、本人のサイトは英語版しかないのですが日本でもご存知の方は、ご存知でしょうか。

このアルバム、はじめにバラしちゃいますが、久々に心に深く残る交響曲の演奏。絶品です。

Hob.I:4 / Symphony No.4 [D] (before 1762)
現代楽器のオケらしい引き締まった響きではじまります。若手中心のオケのようですが、溌剌とた生気にあふれてなかなかいい演奏。1楽章はかなり弾んだ感じがいいですね。ハイドンの交響曲に込められたエネルギー感が上手く出せています。抑えた部分の表現も上手く、曲が立体的に浮かび上がります。
絶品なのが2楽章のアンダンテ。シュトルム・ウント・ドラング期を彷彿とさせる素晴らしいうら悲しさを表現。いきなり濃い情感があふれます。ハイドンの時代にタイムスリップしたような素晴らしい響き。
フィナーレは一転して鮮度あふれる響き。清々しいリズムの繰り返し。ハイドンの曲の真髄をつく表現。

Hob.I:6 / Symphony No.6 "Le matin" 「朝」 [D] (1761?)
普通は「昼」と「晩」とセットで演奏されることが多いですが、ここでは「朝」のみでの演奏。ここでも清々しいリズムが基調となってハイドンの曲の晴朗な響きの魅力が溢れます。キレのいいオケに支えられた、何もしていないように聴こえるのに豊かな音楽。抜群のセンス。
2楽章のはじまりに意外に心にぐさっと刺さるアクセント。じつに味わい深い演奏。表現欲ではなく心からにじみ出る音楽の浸透力。最後のアダージョも絶品。
メヌエットはリズム感のよいこの演奏の特徴が良く出たもの。暖かみに溢れた弦楽器と各楽器が次々と繰り出す美しいメロディー。究極の自然さ。若々しい奏者が演奏する諦観すら感じさせる枯れたメロディー。
期待のフィナーレ。ここでも落ち着き払ったコントロール。アメリカのオケである事を忘れさせる、非常に慎み深い音楽。2曲聴いたところでこのアルバムの凄さがわかってきました。

Hob.I:9 / Symphony No.9 [C] (1762?)

10分ほどの短い曲。オケが木質系の実にいい響き。録音もオンマイク気味ながらオケの自然な楽器の音が良く録られて秀逸。この曲でもリズム感の良さは素晴らしいもの。オケのキレも抜群。
2楽章は癒しに満ちたシンプルなアンダンテ。こうゆう短い曲の美しさにハイドンの天才を感じてしまいます。何の外連味もなくすんなり進むアンダンテ。
3楽章構成の3楽章はメヌエット。この曲もシンプルそのもの。心を洗われるような純粋無垢な曲。

Hob.I:13 / Symphony No.13 [D] (1763)

何でしょう、この愉悦感に満ちた導入。これ以上弾む演奏はあり得ないほどの素晴らしいリズム。この曲のみティンパニが加わり、しかもそのティンパニが慎ましやかにそっとなでるだけのような絶妙な存在感。天才的なコントロール。素晴らしすぎて言葉になりません。展開部は音量はほどほどなのに転調とリズムで攻め込む感じを上手く演出。ホルンも強調しすぎる事なく絶妙のサポート。絶品!
2楽章はアダージョ・カンタービレ。チェロのソロがゆったりとメロディーを奏でる曲。ソロの自然さも素晴らしいもの。
3楽章のメヌエットは今までの曲よりも本格的なもの。リズムの面白さが際立ちます。中間部の静かな曲想も斬新なもの。そしてざっくりえぐるようなメロディーにもどってオケが鳴りきります。
フィナーレはモーツァルトのジュピターのようなメロディーが出現することで知られる曲。橋本英二のコントロールはここでも自然さを保ちながら、必要十分なメリハリと中庸の美学を地でいくもの。それにしても彫りの深い立体感溢れる音響は流石のもの。この曲も抜群でした。

正直存在も、名前も知らなかった橋本英二の指揮する18世紀音楽アンサンブルによるハイドンの初期交響曲集。これは絶品。初期交響曲の現代楽器による演奏の一押しのアルバムです。このような素晴らしいハイドンの演奏があったかと、今更知った次第。ハイドンはいろいろ聴いているつもりですが、まだまだ修行が足りません。評価はもちろん全曲[+++++]です。ハイドンの交響曲好きなすべての人に聴いていただきたい、じわりとくる名演奏です。
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4 Comments

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有田

No title

こんにちは。
ようやく、春めいてきましたが、来週は強い寒の戻りがあるいう予想も。古来より、三寒四温申します。春が待ち遠しいですね。

ご紹介くださった、橋本英二氏。遺憾ながら、全く存じませんでした。日本人のチェンバロ奏者いえば、我々の世代では小林道夫氏が浮かびます。彼の『ゴールドベルク』は絶品ですけれど…ハイドンの初期の交響曲を、日本ではあまり知られていない日本人の指揮者が演奏している。かけかえのない宝物ですね。あの井上太郎氏が、ハイドンは未開の宝庫と書かれておりました。未開の宝庫に光を照らす演奏なのでしょう。ショルティの際に書かれておりました管理人さまの言葉。既成の評価にとらわれずにというスタンス。同感です。再現芸術であるクラシックにおいて、古楽器による演奏が賛否両論取り沙汰された時代もありました。それでも、私は、カールリヒターもコレギウムアウレウムも、ブランデンブルグの名演を残してくれている事実。聴き手の感性しだいいうことでしょうか。モダン楽器による橋本氏のハイドン。期待しております。相変わらす、とりとめのない内容で申し訳ありません。

  • 2012/03/08 (Thu) 13:16
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Daisy

Re: No title

有田さん、いつもコメントありがとうございます。
橋本英二さんは私もこのアルバムと出会うまで、全く知りませんでした。もちろん現在では多くの日本人演奏家が世界中で活躍する時代ですので、私の知らない人がいるのは当たり前ですが、このアルバムの素晴らしい演奏を聴くと、橋本英二さんのアルバムが、もっと日本で取りあげられる機会があってもいいのではと思った次第。当ブログではハイドンの音楽を集中して取りあげますので、たまに、誰も知らないようなアルバムから、驚きの名演が聴かれる事があります。このアルバムもまさにそのようなアルバムでしょう。
演奏の善し悪しはあくまでも個人の間奏でしかありませんが、聴き手の感性次第ですね。聴き手の感性は変化し、育つものというのが私の最近の自身の経験をふまえた感覚です。今日は寒さが戻りましたね。

  • 2012/03/09 (Fri) 06:21
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maro_chronicon

やっと手に入れましたっ!

入荷したようです。「溌剌とた生気」や「愉悦感」よりは、「慎み深い音楽」「中庸の美学」といった面で印象に残りました。好きなタイプの演奏です。

  • 2012/06/13 (Wed) 02:23
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Daisy

Re: やっと手に入れましたっ!

maro_chroniconさん、おはようございます。
入荷されたようですね。古楽器の演奏もいいですが、しっとりした現代楽器の演奏もいいですね。おそらくこう言ったシンプルな曲を情感豊かに聴かせるには、かなりの経験と音楽性が必要なんだと音楽性思います。もう少し録音を聴いてみたい人です。

  • 2012/06/13 (Wed) 07:05
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