作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ショルティ晩年の天地創造ライヴDVD

0
0
以前はあまり興味をもっていなかったショルティですが、最初期の軍隊、102番、太鼓連打の爆演を聴いてからショルティのハイドンは気になってます。今日は最近HMV ONLINEから届いたDVD。しかも驚くほど安いもの。HMV ONLINEのマルチバイ割引で809円でした。

SoltiBRSOCreation3.jpg
HMV ONLINEicon

サー・ゲオルク・ショルティ(Sir Georg Solti)指揮のバイエルン放送交響楽団と合唱団の演奏でハイドンのオラトリオ「天地創造」のライヴ映像をおさめたDVD。収録はミュンヘンのヘラクレス・ザールで収録年はわかりませんがおそらく1995年ではないかと思います。レーベルはDigitalClassicsというはじめてのレーベル。

歌手は珍しく4人のタイプ。ガブリエルとエヴァは1人2役ですがラファエルとアダムが別人という構成。

ガブリエル/エヴァ:ルース・ツィーザク(Luth Ziesak)
ウリエル:ヘルベルト・リッペルト(Herbert Lippert)
ラファエル:ラインハルト・ハーゲン(Reinhard Hagen)
アダム:アントン・シャリンジャー(Anton Scharinger)

ソプラノのツィーザクはシカゴ響とのセッション録音の天地創造や指揮でも共演していますので、ショルティのお気に入りなんでしょうか。リッペルトもセッション録音の天地創造で共演しています。

ショルティは1912年ハンガリーのブダペスト生まれで、1997年に南仏で85歳目前で亡くなっていますので、このDVDに収められたコンサートは亡くなる2年前くらいの映像。ショルティ最晩年にハイドンの最高傑作天地創造をコンサートで取りあげた貴重な記録ということでしょう。

当ブログで取りあげたショルティの演奏は以下のとおり。

2012/01/02 : ハイドン-オラトリオ : ショルティ/シカゴ響による天地創造旧盤
2011/06/27 : ハイドン-交響曲 : ショルティ/ウィーンフィルの「ロンドン」1996年ライヴ!
2011/03/27 : ハイドン-交響曲 : 爆演、ショルティの指揮者デビュー録音、ロンドンフィルとの太鼓連打他
2010/12/03 : ハイドン-交響曲 : ショルティ/ロンドンフィルによる102番、103番「太鼓連打」2
2010/12/02 : ハイドン-交響曲 : ショルティ/ロンドンフィルによる102番、103番「太鼓連打」

このDVD、激安価格ゆえ内容を危惧していましたが、映像も16:9で鮮明なもの。解説がついていないことはご愛嬌ですが、なぜこのような値段で売られているのか不思議なちゃんとしたプロダクツです。システィーナ礼拝堂のミケランジェロの天井画をあしらったジャケットは悪くありません。

Hob.XXI:2 / "Die Schöpfung" 「天地創造」 (1796-1798)
DVDをデッキにかけるとやはりシスティーナ礼拝堂をクレーンカメラでなめるように移動しながら映すなかなか凝ったメインメニュー。

第一部
バイエルン放送響のティンパニや弦楽器奏者のアップからはじまる混沌の描写。ショルティは80歳を超えているとは信じ難い矍鑠とした動き。いつものように眼光鋭く、長めの指揮棒を水平に持ちかっちり振っていきます。音楽はショルティらしくアタックが鋭くクッキリした隈取りがあり、並の指揮者とは次元の異なる緊張感に包まれます。ただし、予想したよりテンポがゆったりしており、またオケがシカゴ響ではなくバイエルン放送響のため適度に穏やかさもあって非常に落ち着いた入り。

ラファエルのラインハルト・ハーゲンはいい男。若々しい透明感のあるバスで、声量もまずまず。安定感もありいいですね。ウリエルのヘルベルト・リッペルトは非常に正確な歌唱。伸びのある良く通る声と落ち着き払った歌唱は素晴らしいですね。ショルティが起用する理由がわかります。

バイエルン放送合唱団は非常に緻密な音量コントロール。ショルティの指示に良くしたがって、序盤の精度高い演奏を支えます。ショルティのコントロールは特有のカッチリした表情で引き締めながらも、80を過ぎた経験からか、ある意味非常におちついたテンポ設定ともはや無欲の境地のような淡々とした指揮振り。オケを爆発させるようなところはなく、的確にコントロールできる範囲の音量で引き締まった音楽を進めます。時折ヴァイオリンの素晴らしい切れ味の音階が顔をのぞかせ、ハンガリー魂が垣間見えますがすべてはショルティの鋭敏なタクトのコントロール下のこと。

ガブリエルのツィーザクはショルティの引き締まった音楽になるほど良く合います。キレのいいテンポと鋼のような強い浸透力をもったキレのいい声。表情づけも豊かで万全の歌唱。第一部の中盤にさしかかりますが、音楽は微塵の乱れも生じさせず、張りつめた緊張感のなか素晴らしい精度で進行。豪腕投手が速球を封印し、針の穴の精度のコントロールで淡々とバッターを打ち取っていくような進行。時たま写るショルティの鋭いまなざしがヘラクレスザールの緊張感を支配しているようです。

ツィーザクのガブリエルのアリアは正確な歌唱と独特の表情が醸し出す高次元の芸術性。美声で気かせるというより、清潔さのかもしだすほのかな色香を表すような素晴らしい歌唱。これほど知的なガブリエルははじめて。完璧です。ショルティも上半身を左右に揺らしながら、抜群のサポート。なんでしょうこの引き締まった響きは。

続く曲から、ショルティのエンジンがかかってきました。と言っても灰汁の強いところは一切みせず、オケにムチをいれ、一段ギアチェンジ。バイエルン放送響はショルティの指示に良く従って、抜群の精度の演奏で緊張感を保ちます。場内はあまりにも素晴らしい演奏に打たれっぱなしのよう。ショルティは常に冷静に楽譜を見ながら緻密な指示を出し続け、テンポをまた少しあげて大山脈のような第一部のクライマックスにむけてオケをコントロール。美しいヘラクレス・ザールがショルティあおるオケの大音響で満たされ第一部を終えます。80歳を超えたショルティが見せた無欲ながら、ショルティらしい引き締まったコントロール。最後に爆発もみせ素晴らしい演奏。腰抜けそうです。爆演。

第二部
第二部はツィーザクのレチタティーヴォから。非常に表情ゆたか(本当に顔の表情が豊か!)なツィーザク。ちょっとやられました。ツィーザクの良く通る声と心に刺さる歌にメロメロです。平常心を失いました(笑) バイエルン放送響のソリストはショルティの指示にかなり忠実に応え、オケは万全。

第二部の聴き所の三重唱「若々しき緑に飾られて」でも3人のソロの正確なテンポと歌唱が素晴らしいですが、とりわけツィーザクの美しい声が別格の出来。指揮するショルティも歌いながらクライマックスにむけて追い込みます。ツィーザクは最後のアクロバティックな音階も難なくこなし素晴らしいプレゼンス。

ラファエルのハーゲンは第二部を安定した歌唱で支えます。突き抜けたところもない変わりに、非常に安定した歌唱で曲の進行を支えます。この安定感を支えるテクニックは素晴らしいものがあります。アリア「いまや天は光に溢れて輝き」は迫力のオケに押されながらもニュートラルな歌唱でしっかりと軸を定めています。

代わってリッペルトの聴かせどころ。この人はまったく破綻しそうな感じがしません。あくまでも自身のペースで素晴らしい安定感で歌い続けます。これがショルティのコントロールに妙にマッチして素晴らしい歌唱。男声陣のツィーザクに負けない存在感を誇示。

第二部のクライマックスに向けてコーラスの「大いなる御業は成りぬ」に入り、またしてもショルティがギアチェンジ。明らかにムチをうったようにオケに指示を出し、素晴らしい感興を招きます。あくまでも冷静に感動を演出するようなショルティのタクト。徐々に混沌の中からハレルヤコーラスが聴こえ始め、第二部のクライマックスへ。カメラが引き全奏者の強奏。最後はティンパニ奏者の素晴らしいバチさばき。おそらく第二部の終わりに休憩が取られたのでしょう、拍手で迎えられます。

第三部
そして、第三部。導入部の優しい響きを引き締まったタクトでショルティが演出。疲れ一つみせず、ショルティの目には鋭さが残っています。最初はリッペルトのビロードのような歌唱とホルンの醸し出す至福のひと時を楽しみます。

つづくアダムとエヴァのデュエット、速いです。個々から登場したアダムのアントン・シャリンジャーは胴に響く柔らかな声。ツィーザクとのデュエットは草原を駆け抜けるような快速のもの。このような解釈もありですね。シャリンジャーはリートにも向いたような響きの美しい声。力強さも十分。後半の盛り上がりも寄せては返す波のような大きなうねりを上手く表現して素晴らしいものです。波の頂点ではコーラスの分厚い響きがホールを包みます。ショルティはあくまでも冷静にオケとコーラスをコントロール。

2番目のアダムとエヴァのデュエットでも突き抜けるツィーザクのソプラノ。シャリンジャーの柔らかい声と好対照。バスーンのほっとするようなメロディーに続いてホルンによって終結を伝えるようなメロディーが奏でられ、テンポが上がります。この曲の畳み掛けるような終結にむけてデュエットも素晴らしい歌唱で支えます。

短いレチタティーヴォをはさんで大コーラスによる終曲。ショルティはまだ曲のはじめのようなすっきりとした表情でオケをコントロール。最後のフレーズでテンポを落としフィニッシュです。ショルティの笑顔を見ればわかるような快心の演奏に、ヘラクレス・ザールのお客さんも万来の拍手で迎えます。止まないブラヴォーの声が当日の開場の感動を伝えます。


サー・ゲオルク・ショルティとバイエルン放送交響楽団、同合唱団によるハイドンのオラトリオ「天地創造」のライヴ。ショルティ最晩年の演奏ですが、ショルティが時折みせる灰汁の強さは一切感じさせず、逆に自然な流れの中にいつもの引き締まった響きが聴かれ、しかも逆に若々しさすら感じさせるコントロール。歌手はソプラノのツィーザクが完璧なコントロールで一歩抜けていますが、その他の人も総じて素晴らしい出来。超廉価なプロダクツにも関わらず映像の品質も高く、完璧な出来。評価はもちろん[+++++]です。すべての人に聴いていただくべき人類の至宝です。

いや、いまさらですが素晴らしいアルバムがリリースされたものです。
関連記事

0 Comments

There are no comments yet.