ハインツ・シュレーター/ギュンター・ヴァントのピアノ協奏曲

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ハインツ・シュレーター(Heinz Schröter)のピアノ、ギュンター・ヴァント(Günter Wand)指揮のケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団の演奏によるシューベルトの交響曲6番、8番「未完成」、ハイドンのピアノ協奏曲(Hob.XVIII:11)の3曲を収めたアルバム。収録は1956年6月11日、ドイツのケルンの北東約10キロの街レバークーゼンでの録音。おそらくセッション録音です。
ヴァントのハイドンはこれまで2度取りあげていますが、何れもヴァントが得意としていた交響曲76番。
2011/10/15 : ハイドン–交響曲 : ギュンター・ヴァント/ベルリン交響楽団の交響曲76番ライヴ
2010/12/27 : ハイドン–交響曲 : ギュンター・ヴァントの交響曲76番DVD
今日は最近手に入れた、ヴァントが伴奏を担当するピアノ協奏曲。ヴァントのハイドンには何か惹き付けられる華があります。このアルバムの演奏にも期待した華が聴かれますでしょうか。
ピアノのハインツ・シュレーターはちょっと情報があまりありませんので、いつもの紹介は割愛です。
Hob.XVIII:11 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
前2曲のシューベルトの交響曲はステレオ録音なのに対し、この曲は1956年のモノラル録音。音質はそれほど悪くありません。ヴァントらしい古典的な立体感溢れる伴奏。彫りの深い彫刻ながらバランスの良いプロポーション。じっくりしたテンポと抜群の生気でピアノの入りを待ちます。ピアノはかなり大きめの音像で前に定位。高音がすこしつまり気味なので鼻をつまんだような音色なんですが、リアリティは十分。シュレーターのピアノの表情は若干単調で、むしろヴァントのコントロールするオケの方が雄弁に聴こえます。それでもテンポの正確さと転がるように滑らかな音色でオーソドックスな演奏。ちょっとピアノが弱いかなと思ったところ、1楽章のカデンツァは、聴いたことのない変わったもの。短いフレーズごとに転調や変化を多用したユニークなもの。あっさりしながらも、ちょっと個性的なカデンツァ。1楽章は基本的にヴァントペースで進み、カデンツァでシュレーターがちょっぴり自己主張という感じ。
2楽章のアダージョは、ヴァントのコントロールする優しく息の長いフレーズの序奏からはじまります。当たり前ですが抜群の安定感。ピアノはあっさりした雰囲気のまま、コロコロと転がるようにオーケストラに絡み、1楽章とは異なり意外と深みも感じさせる演奏。ソリストと指揮者の息が徐々に合ってきて、なかなかいい掛け合いにになってきました。あまりオケに引きずられずに淡々と弾き進めるのがかえっていい感じになっています。2楽章のカデンツァは非常にシンプルなもの。
3楽章はソロとオケが一体となった演奏。ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団の音色はいい意味で粗さもあり、ざっくりした生成りの布のような風合いを感じさせるもの。ピアノは推進力に溢れ、バリバリ弾き進めていきます。ほどよい感興をともなってリズミカルにピアノがリードして、オケが間の手を入れていくような展開。協奏曲の醍醐味をじわりと味わえる演奏。最後までピアノはハッタリもなく誠実な演奏。程よい盛り上がりで終了です。
やはりヴァントの古典的均整のとれたオーケストラコントロールは見事。緻密なものではありませんが、手慣れた手腕は見事の一言。一方ピアノはヴァントの均整に対して、ちょっと地味な存在ですが、それほど悪くはありません。以前取りあげた76番に見られる、カジュアルなのに輝きにみちた完成度までには至りませんが、ヴァントのハイドンはハイドンの曲の真髄をとらえた説得力があり、このバランス感覚が貴重なものだと思います。ピアノ協奏曲ゆえ、やはりピアノにはもうひと踏み込み欲しいのが正直なところです。評価は[++++]としたいと思います。
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tag : ピアノ協奏曲XVIII:11 ヒストリカル
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No title
Re: No title
今日ヴァントを取りあげたのも、ライムンドさんの記事をみて、ちょっと思い出したからです。ヴァントのハイドン、特にDVDの76番は非常に魅力的な演奏。緻密でもなく迫力で聴かせる訳でもないのですが、抜群の彫刻的な造形とじわりと伝わる推進力で、ハイドンの非常にマイナーな曲を、実に慈しみ深いものにしています。ハイドンの真髄を射抜く名演です。ブルックナーの6番は私も好きな曲なので、このDVDはオススメです。
No title
ヴァントの伴奏によるピアノコンチェルト、超レア!?なものを紹介くださいました。彼は、晩年になって、日本でも注目され、ブルックナーの名演を数多く残してくれたこと…我々の宝物です。
ハイドンの76番。ヴァントの演奏が無ければ、出会えなかった思います。あの、Es
ドゥアの流れるようなメロディー。同じ調性のモーツァルトの39番が霞んでしまうほどの比類なき名曲。ヴァントの超弩級の名演があればこそですね。
円熟期の交響曲でも、まだまだ隠れた名曲が数多くあるハイドン。あの『ジュピター交響曲」を凌ぐ、と思える97番も愛聴しております。話が脱線して申し訳ありません。
Re: No title
76番はまさにヴァントのためにあるような曲ですね。あの流れるようなメロディーと見事な彫刻的フォルムは誰にも真似のできないレベルですね。ドラティのもうすこしごつい演奏とはことなり、ハイドンの曲から官能的ですらある表情を引き出しています。
ピアノ協奏曲の方もそうしたヴァントのハイドンの美点が76番ほどではありませんが、確かに感じられます。
97番も確かにいい曲ですね。ハイドンをいろいろ聴くようになってくると名前がついていない曲にも、それぞれ豊かな表情があり、その魅力がじわりと伝わってきます。