ハンス・スワロフスキー/ウィーン国立歌劇場管弦楽団の軍隊、太鼓連打(ハイドン)
今日は古き良き時代のハイドンの交響曲のアルバムを。前記事のシュテファン・ヴラダーにつづき、ウィーンのハイドンを取りあげます。

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ハンス・スワロフスキー(Hans Swarowsky)指揮のウィーン国立歌劇場管弦楽団の演奏によるハイドンの交響曲100番「軍隊」、103番「太鼓連打」の2曲を収めたアルバム。収録は1956年、収録場所等の表記はありません。レーベルはスイスのTUXEDO MUSIC。
指揮者のハンス・スワロフスキーはWikipediaの情報によれば、1899年ハンガリーのブダペスト生まれのユダヤ系指揮者、教育者。ウィーン大学で心理学と歴史を学び、その後数々の著名な音楽家に師事した後、シュトゥットガルトやハンブルクで指揮者として活動します。1933年にはベルリン国立歌劇場でエーリッヒ・クライバーのアシスタントとなり、1937年から1940年まではチューリッヒ歌劇場の主席指揮者、その後オーストリアに戻り、ザルツブルク音楽祭のアドバイザーや、戦後はウィーン交響楽団の主席指揮者などを務めました。卓越したバトンテクニックをもち、レパートリーも膨大であったと言われ、指揮法の「名教師」としても名高い人とのこと。ウィーン国立音楽大学指揮科の教授として活躍し、門下にクラウディオ・アバド、マリス・ヤンソンス、ズービン・メータ、アダム・フィッシャー、イヴァン・フィッシャー、ヘスス・ロペス=コボス、ブルーノ・ヴァイルなど錚々たる指揮者を育てました。また、日本人指揮者では尾高忠明や湯浅卓雄なども門下生とのこと。
そうした指揮教育の第一人者のスワロフスキーにウィーン国立歌劇場管弦楽団と当時のご当地の一流どころによるハイドンの交響曲の演奏は如何なものだったのでしょうか。
Hob.I:100 / Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
オリジナルはモノラルと記載されていますが、このアルバムはステレオとの表記。1956年の音とは信じ難い艶やかな音色とゆったりとした響きの序奏からはじまります。うっとりするような序奏の響き。主題に入っても強音のところであまり力を入れ過ぎない、非常にデリケートなフレーズのコントロール。オケのメンバーがタクトの先に全神経を集中させ指揮者の指示に忠実にしたがっている感じ。強音でも弱音でもなく、中間領域の音量のコントロールが非常に緻密に感じます。前記事で取りあげたピアノのシュテファン・ヴラダーがピアノを鳴らしきるという音楽だったのとくらべると、なんと慎み深い音楽でしょう。派手にオケを鳴らすことが多い軍隊の演奏としては異例な落ち着き度合いと言っていいでしょう。ゆったり、じっくり進める1楽章。昔の演奏らしくヴァイオリンはキレを強調して彩りを加えますが、それもほどほどでした。
2楽章のアレグレットも程よく華やかな雰囲気を感じさせながらも落ちついた演奏。普通だったら鳴りもので派手にバーンといくところも、なぜか鳴りものをかなり抑えて、逆に普段鳴りものに隠れてしまっている美しいメロディーを聴けと言われているような演奏。昔の録音ゆえダイナミックレンジを抑える処理のためピークを抑えたものかも知れませんが、ピーク成分を抑えるというよりは、打楽器自体の音量がかなり抑えられている感じ。
メヌエットは古き良きウィーンらしい典雅な響きに包まれながらも、相変わらず中音領域のデリケートなコントロールの良さを感じさせる演奏。適度に迫力を抑えた事から生まれる優しい表情。浮かび上がるメロディーライン。一聴してオーソドオックスな演奏ながら、フレーズのひとつひとつが良くコントロールされているため、凡庸ではありません。
フィナーレも堅実なはじまり。終楽章は手加減なく迫力を増していき、この楽章がクライマックスであることを宣言するような演奏。最後までコントロールが行き届いたオーケストラの演奏の魅力は変わりません。ここでは爆発しないことが非常にいい感触を残します。スワロフスキーの面目躍如。非常に良くコントロールされた軍隊でした。
Hob.I:103 / Symphony No.103 "Mit dem Paukenwirbel" 「太鼓連打」 [E flat] (1795)
続いて太鼓連打。前曲と同じころの録音とのことですが、録音された音響は若干異なります。やや高域がクッキリとした録音。鮮明度はこちらの方が上ですが、ヴァイオリンの音色は若干歪みを感じるようなちょっと不思議な響きの乗った音。まあ鑑賞に大きな問題はありません。遠雷タイプの太鼓連打からはじまり、ヴァイオリンの旋律をクッキリと描いた演奏。テンポは全曲同様自然なもので、何気ないフレーズのデリケートなコントロールが行き届いているのも同様。録音のバランスが変わっただけでちょっと派手な演奏に聴こえます。
アンダンテは一転、憂いに満ちた音楽。小刻みに震えるような弦楽器のデリケートなフレージングでしっとりとした入り、途中からからっとした明るさに変わって溌剌としたメロディーを奏で、再び憂いに満ちた音楽。音色と感情のコントロールが見事。後半の木管楽器のあっけらかんとしたメロディーで変化を付けるなど、ここでもスワロフスキーの制御が行き渡ってます。ヴァイオリンソロも雰囲気のあるもの。そしてこの楽章の終盤のオケは香り立つようなウィーン風の華やかな響き。流石ウィーン国立歌劇場という事でしょう。
メヌエットは華やかなオケの響きを引き継いで、落ち着いたテンポで典雅なフレーズを刻んでいきます。香り立つ芳香。これぞ本場のハイドンという事でしょう。老舗レストランのベテランシェフによるなじみのフルコース料理を堪能するような至福の一時。素材を無理なく香りを引き出して、いつもの味で仕上げてくれる喜びといえば伝わりますでしょうか。このメヌエットは絶品。
いつも郷愁を感じる太鼓連打のフィナーレ。故郷がウィーンだったような懐かしさ。ここでもダイナミックさはあえて抑えて音楽の髄だけ取り出すような演奏。迫力不足とは全く感じず、逆に音楽、そして響きの美しさにに酔いしれられるのが不思議なところ。いろいろ創意を凝らした音形やリズムが特徴的なこの曲ですが、その面白さは存分に伝え、力みなど無縁の領域で音楽を創っていきます。このフィナーレも絶品!
ウィーンのハイドンという視点で選んだこのアルバム。最近音楽の聴き方が少し深くなっていきたのか、この手の演奏には敏感に反応してしまいます。やはり指揮を教える立場として名声を博したスワロフスキーらしく、ハイドンの聴き慣れた名曲を、じっくりかつ行き届いたコントロールで極上のフルコース料理に仕上げていました。先に触れたようにスワロフスキーに指揮を学んだ門下の面々を見ると、音楽を活き活きと鳴らしじっくりコントロールするという意味ではまさに現代を代表する人たちが並んでいます。アバドにヤンソンス、ヴァイルにハイドンのスペシャリストであるアダム・フィッシャー。その原点たるスワロフスキーのハイドンは流石の出来でした。評価は両曲とも[+++++]とします。

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ハンス・スワロフスキー(Hans Swarowsky)指揮のウィーン国立歌劇場管弦楽団の演奏によるハイドンの交響曲100番「軍隊」、103番「太鼓連打」の2曲を収めたアルバム。収録は1956年、収録場所等の表記はありません。レーベルはスイスのTUXEDO MUSIC。
指揮者のハンス・スワロフスキーはWikipediaの情報によれば、1899年ハンガリーのブダペスト生まれのユダヤ系指揮者、教育者。ウィーン大学で心理学と歴史を学び、その後数々の著名な音楽家に師事した後、シュトゥットガルトやハンブルクで指揮者として活動します。1933年にはベルリン国立歌劇場でエーリッヒ・クライバーのアシスタントとなり、1937年から1940年まではチューリッヒ歌劇場の主席指揮者、その後オーストリアに戻り、ザルツブルク音楽祭のアドバイザーや、戦後はウィーン交響楽団の主席指揮者などを務めました。卓越したバトンテクニックをもち、レパートリーも膨大であったと言われ、指揮法の「名教師」としても名高い人とのこと。ウィーン国立音楽大学指揮科の教授として活躍し、門下にクラウディオ・アバド、マリス・ヤンソンス、ズービン・メータ、アダム・フィッシャー、イヴァン・フィッシャー、ヘスス・ロペス=コボス、ブルーノ・ヴァイルなど錚々たる指揮者を育てました。また、日本人指揮者では尾高忠明や湯浅卓雄なども門下生とのこと。
そうした指揮教育の第一人者のスワロフスキーにウィーン国立歌劇場管弦楽団と当時のご当地の一流どころによるハイドンの交響曲の演奏は如何なものだったのでしょうか。
Hob.I:100 / Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
オリジナルはモノラルと記載されていますが、このアルバムはステレオとの表記。1956年の音とは信じ難い艶やかな音色とゆったりとした響きの序奏からはじまります。うっとりするような序奏の響き。主題に入っても強音のところであまり力を入れ過ぎない、非常にデリケートなフレーズのコントロール。オケのメンバーがタクトの先に全神経を集中させ指揮者の指示に忠実にしたがっている感じ。強音でも弱音でもなく、中間領域の音量のコントロールが非常に緻密に感じます。前記事で取りあげたピアノのシュテファン・ヴラダーがピアノを鳴らしきるという音楽だったのとくらべると、なんと慎み深い音楽でしょう。派手にオケを鳴らすことが多い軍隊の演奏としては異例な落ち着き度合いと言っていいでしょう。ゆったり、じっくり進める1楽章。昔の演奏らしくヴァイオリンはキレを強調して彩りを加えますが、それもほどほどでした。
2楽章のアレグレットも程よく華やかな雰囲気を感じさせながらも落ちついた演奏。普通だったら鳴りもので派手にバーンといくところも、なぜか鳴りものをかなり抑えて、逆に普段鳴りものに隠れてしまっている美しいメロディーを聴けと言われているような演奏。昔の録音ゆえダイナミックレンジを抑える処理のためピークを抑えたものかも知れませんが、ピーク成分を抑えるというよりは、打楽器自体の音量がかなり抑えられている感じ。
メヌエットは古き良きウィーンらしい典雅な響きに包まれながらも、相変わらず中音領域のデリケートなコントロールの良さを感じさせる演奏。適度に迫力を抑えた事から生まれる優しい表情。浮かび上がるメロディーライン。一聴してオーソドオックスな演奏ながら、フレーズのひとつひとつが良くコントロールされているため、凡庸ではありません。
フィナーレも堅実なはじまり。終楽章は手加減なく迫力を増していき、この楽章がクライマックスであることを宣言するような演奏。最後までコントロールが行き届いたオーケストラの演奏の魅力は変わりません。ここでは爆発しないことが非常にいい感触を残します。スワロフスキーの面目躍如。非常に良くコントロールされた軍隊でした。
Hob.I:103 / Symphony No.103 "Mit dem Paukenwirbel" 「太鼓連打」 [E flat] (1795)
続いて太鼓連打。前曲と同じころの録音とのことですが、録音された音響は若干異なります。やや高域がクッキリとした録音。鮮明度はこちらの方が上ですが、ヴァイオリンの音色は若干歪みを感じるようなちょっと不思議な響きの乗った音。まあ鑑賞に大きな問題はありません。遠雷タイプの太鼓連打からはじまり、ヴァイオリンの旋律をクッキリと描いた演奏。テンポは全曲同様自然なもので、何気ないフレーズのデリケートなコントロールが行き届いているのも同様。録音のバランスが変わっただけでちょっと派手な演奏に聴こえます。
アンダンテは一転、憂いに満ちた音楽。小刻みに震えるような弦楽器のデリケートなフレージングでしっとりとした入り、途中からからっとした明るさに変わって溌剌としたメロディーを奏で、再び憂いに満ちた音楽。音色と感情のコントロールが見事。後半の木管楽器のあっけらかんとしたメロディーで変化を付けるなど、ここでもスワロフスキーの制御が行き渡ってます。ヴァイオリンソロも雰囲気のあるもの。そしてこの楽章の終盤のオケは香り立つようなウィーン風の華やかな響き。流石ウィーン国立歌劇場という事でしょう。
メヌエットは華やかなオケの響きを引き継いで、落ち着いたテンポで典雅なフレーズを刻んでいきます。香り立つ芳香。これぞ本場のハイドンという事でしょう。老舗レストランのベテランシェフによるなじみのフルコース料理を堪能するような至福の一時。素材を無理なく香りを引き出して、いつもの味で仕上げてくれる喜びといえば伝わりますでしょうか。このメヌエットは絶品。
いつも郷愁を感じる太鼓連打のフィナーレ。故郷がウィーンだったような懐かしさ。ここでもダイナミックさはあえて抑えて音楽の髄だけ取り出すような演奏。迫力不足とは全く感じず、逆に音楽、そして響きの美しさにに酔いしれられるのが不思議なところ。いろいろ創意を凝らした音形やリズムが特徴的なこの曲ですが、その面白さは存分に伝え、力みなど無縁の領域で音楽を創っていきます。このフィナーレも絶品!
ウィーンのハイドンという視点で選んだこのアルバム。最近音楽の聴き方が少し深くなっていきたのか、この手の演奏には敏感に反応してしまいます。やはり指揮を教える立場として名声を博したスワロフスキーらしく、ハイドンの聴き慣れた名曲を、じっくりかつ行き届いたコントロールで極上のフルコース料理に仕上げていました。先に触れたようにスワロフスキーに指揮を学んだ門下の面々を見ると、音楽を活き活きと鳴らしじっくりコントロールするという意味ではまさに現代を代表する人たちが並んでいます。アバドにヤンソンス、ヴァイルにハイドンのスペシャリストであるアダム・フィッシャー。その原点たるスワロフスキーのハイドンは流石の出来でした。評価は両曲とも[+++++]とします。
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