【追悼】パーヴォ・ベルグルンドのオックスフォード、99番

しばらく前に訃報に接し、いつか取りあげようと思っていたアルバム。

Berglund92.jpg
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パーヴォ・ベルグルンド(Paavo Berglund)指揮のフィンランド室内管弦楽団の演奏で、ハイドンの交響曲92番「オックスフォード」、99番の2曲を収めたアルバム。収録は1992年11月、フィンランドの首都ヘルシンキの北方約50km内陸の街ヒュヴィンカー(Hyvinkää)にあるヒュヴィンカー・ホールでのセッション録音。レーベルはフィンランドのONDINE。

ベルグルンドが亡くなったのはこの1月25日のこと。シベリウスも嫌いではありませんので、ベルグルンドは好きな指揮者でもあります。また学生のころフィンランド建築史を勉強していたこともあり、フィンランドにはひとかたならぬ愛着があります。
私がフィンランドを訪れたのは30年近く前。学生時代の旅行で真冬のヘルシンキを訪れ、アルヴァ・アアルトの建築やヘルシンキの街並み、凍える寒さのセウラサーリ野外博物館などを見て回ったのが懐かしく思い出されます。また、バックパッキングだったのでヘルシンキオリンピックのメインスタジアムの中にあるユースホステルに泊り、黒人の学生と捕鯨論争をしたり、ヘルシンキ中央駅で声を掛けられたクリスチャンの2人の女性に氷点下の中ボランティアで市内を案内してもらったりと良い思い出ばかりです。そろそろ再訪しなくてはならないと思ってます。

ベルグルンドのシベリウスはEMIのヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団との交響曲全集、ヨーロッパ室内管弦楽団との交響曲全集が手元にありますが、ことさら愛聴しているのはヨーロッパ室内管との4番。やはりシベリウスは4番の凍てつく森の魂が昇華したような険しさを表現したような4番に惹かれます。ベルグルンドの新盤はゆっくり時間をかけて凍らせた透明に輝く氷柱のごとき素晴らしい純度の演奏で、深く印象に残っています。

ベルグルンドのハイドンの交響曲の演奏は非常に珍しいものでしょう。今回取りあげるにあたって、いつものようにHMV ONLINE、amazon、TOWER RECORDSを探したのですが、このアルバムは見つかりませんでした。そもそもこのレーベル自体あまり国内に多く入っていないのではないかと思います。

ベルグンドは1929年、ヘルシンキに生まれたフィンランドの指揮者。父に作ってもらったヴァイオリンで音楽に親しみ18歳までレストランで演奏していたとの事。1949年にフィンランド放送交響楽団のメンバーとなり、同年自身が組織した室内管弦楽団で指揮を始めました。1953年にはヘルシンキ室内管弦楽団の創立メンバーとなり、1956年にはフィンランド放送交響楽団の副指揮者、1962年から72年まで首席指揮者となりました。1975年にはヘルシンキフィルハーモニー管弦楽団の音楽監督となり4シーズンを務める等フィンランドの主要なオケの指揮者を歴任。イギリスではボーマンス交響楽団でシベリウス生誕100年の記念コンサートを振り、1972年から79年まで首席指揮者を務め、この間EMIに多くの録音を残したとのこと。また、1981年から85年までスコティッシュ・ナショナル管弦楽団の首席客演指揮者を務めるなどイギリスにも大きな足跡を残しました。数少ない左手で指揮棒を持つ指揮者として有名だったとのこと。

このベルグルンドのハイドン、久しぶりに取り出して聴いた甲斐がありました。

Hob.I:92 / Symphony No.92 "Oxford" 「オックスフォード」 [G] (1789)
序奏から非常に純度の高い響き。しかも独特の透明感を帯び、シベリウスの新盤と似た純粋さ。主題に入ると快活にオケをドライブしていきますが、ヴィブラートがあっさりしているのか、意図的に響きの純度を高めているのか、聴き方によっては淡白とも思える素直な響き。ウィーン風には香りや華があったのだと気づかされる、蒸留水のような純度の高い響き。テンポもリズムも非常にキレがいいので単調さは皆無で、純粋にぐいぐいとオケを引っ張っていく感じ。これがフィンランド風と言うかベルグルンド風なんでしょう。無色透明な美しさに満ちたオックスフォードの1楽章。ヴァイオリンのキレは確かな技術と統率を感じさせ、響きは氷の冷徹さをほのかに感じさせる実体感のあるもの。録音は適度な残響と実体感のある秀逸なもの。
2楽章は怖い顔なのに優しそうなベルグルンドならではのコントロール。奇を衒ったことは何もせず、ただただ音符に従って純粋にメロディーを奏でていきます。じわりと暖かみが伝わる慈しみ深い演奏。ヘルシンキのレストランには昼間もテーブルに必ず蝋燭の火がともされていたのを思い出します。中間部の強奏はインパクトと節度のバランスがよく、破綻をきたしません。ふたたび慈しみ深いメロディーにもどりますが、良く聴くと木管楽器のハーモニーが絶妙。さらりとした美しさ。透き通った肌の北欧の女性の美しさのような素朴さ。
メヌエットはベルグルンド特有の透明な力感を存分に味わえます。何もしていないのにやはり単調さは全く感じません。非常にデリケートな領域でのコントロールが効いているのでしょう。鮮度の非常に高い演奏。新蕎麦を食べた時の香りとのどごしの良さのようなものを感じます。
フィナーレの入りは有名な弾むメロディーですが、さりげなく入り、むしろ力感で聴かせる演奏。ここに来てリズムの変化のおもしろさを存分に表現。これは秀逸。弾む感じではなく、鋭敏な感覚でリズムの変化を楽しむような演奏。かなりの強弱の変化を全く自然な流れでこなしていく、実に玄人好みの趣向。奏者の音楽性もかなりのものと推察します。このフィナーレは素晴らしい。

Hob.I:99 / Symphony No.99 [E flat] (1793)

ザロモンセット一穏やかな曲調の99番。前曲でとらえたベルグルンドの特徴がピタリとハマる曲。一体感あるオーケストラのピタリとそろったメロディーラインとリズムの面白さ、デュナーミクの変化が心地いい演奏。穏やかの曲なのに聴神経には非常に刺激があります。ベルグルンドがなぜオックスフォードと99番を選んでハイドンの交響曲を録音したか狙いがわかったような気がします。99番の新たな魅力を見事に表現しています。
アダージョはオックスフォード以上に慈しみに満ちています。もともと美しさの際立つ曲ですが、ハイドンの白鳥の歌とも聴こえる素晴らしい感興。朗らかさと慈しみ、そしてほんの少し顔を出す機知。オケの奏者もそのような狙いを良く捉えて、音を削ぎ落としなら透明な旋律を一つずつ置いていく感じ。間を効果的にとって音楽を創っていきます。絶品。ハイドンへのリスペクトに満ちあふれた音楽、そしてベルグルンンド自身の白鳥の歌にも聴こえてしまいます。いや、ほんとに絶品です。
メヌエットはすっと力を抜いて前楽章の透明なのに濃い情感の余韻を綺麗に抜いている感じ。前曲のメヌエットが力感で聴かせたのに対し、明らかに異なるアプローチ。力の抜けた古老の草書のような趣。音楽の流れに従った柔軟な解釈で曲を組み立てているという事でしょう。出来るようでなかなか出来ない変化です。強音でもオケの秩序ある音色が維持され、響きの隅々までコントロールされている事がわかります。これも見事なメヌエット。
フィナーレはもはや神憑っています。弩迫力でも、個性的でもなく、神憑った自然さとでも言えばいいでしょうか。鳥肌のたつような抑制と響きのコントロール。純粋無垢な心境による素晴らしい99番でした。

パーヴォ・ベルグルンドとフィンランド室内管弦楽団による、まさにフィンランドのハイドン。純音楽的な魅力に溢れたハイドンの交響曲の奇跡の演奏とでも評したらよいでしょうか。豪腕でも個性的でも重厚でもなく、まさに純音楽的なハイドン。この2曲を選んでいるところを見ると、ベルグルンドはハイドンの曲に相当造詣が深いと見ました。どちらの曲もベルグルンドのアプローチがピタリとハマる曲です。もちろん両曲とも[+++++]にしました。入手した時には両者とも[++++]としていましたが修正です。ようやくベルグルンドの音楽が理解できる耳にこちらが育ったというのが正直なところでしょう。

そういえばライムンドさんのブログでベルグルンドのシベリウスの4番が、なんと亡くなる3日前に取りあげられていました。ライムンドさん、ベルグルンドの声でも聴こえたのでしょうか。リンクを張っておきましょう。

今でもしぶとく聴いています:シベリウス 交響曲第4番 ベルグルンド・3度目
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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : オックスフォード 交響曲99番

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No title

おはようございます。

ペルグルント氏、亡くなられたのは知らず…往年のマエストロがまた一人旅立たれました。ご冥福を祈ります。

彼のシベリウス。最高です。第4番がお薦めとは、さすが聴き込んでいらっしゃると脱帽いたします。私は、第6番か最後の第7番。寒いこの冬、久々にシベリウスも聴きたくなりました。

さて、彼のハイドンは全く知りませんでした。92と99は、個人的にはあまり好みませんが、聴いてみたくなりました。情報ありがとうございました♪

Re: No title

有田さん、おはようございます。
ベルグルンドのシベリウス、6番と7番もいいですね。特に7番の幽玄な世界は心に響きますね。寒い季節にはシベリウスもいいものですね。私はシベリウスはバーンスタイン/ニューヨークフィルの1番、2番のLPが最初に聴いたものでした。情熱的に歌うシベリウスです。演奏によってもずいぶん異なる情感が出るものです。これもこれで懐かしい演奏です。
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Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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