作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のアルバム収集とレビュー。音楽、旅、温泉、お酒など気ままに綴ります。

ヘスス・ロペス=コボス/ローザンヌ室内管のアレルヤ、ラメンタチオーネ、ホルン信号

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今日は東京は昼間は気温が上がったんですが、夜は再び寒くなってきました。何の脈絡もありませんが、久しぶりに「ラメンタチオーネ」が聴きたくなり、ラックから取り出した1枚。

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ヘスス・ロペス=コボス(Jesús López-Cobos)指揮のローザンヌ室内管弦楽団の演奏で、ハイドンの交響曲30番「アレルヤ」、26番「ラメンタチオーネ」、31番「ホルン信号」の3曲を収めたアルバム。収録は1995年2月8日~10日、スイスのラ・ショー=ド=フォンで。レーベルはDENON。現役盤と思いきや、そうではないようです。

ヘスス・ロペス=コボスは1940年スペインのマドリードの北西約200キロの街トロ生まれのスペイン人指揮者。マドリード・コンプルテンセ大学にて哲学を学び、ウィーン国立音楽大学にてフランコ・フェラーラやハンス・スワロフスキーに指揮を学びました。その後の経歴は、1981年から1990年までベルリン・ドイツ・オペラの総監督、1984年から1988年までスペイン国立管弦楽団の音楽監督、1986年から2000年までシンシナティ交響楽団の首席指揮者、1990年から2000年までローザンヌ室内管弦楽団の首席指揮者、そして2003年からはマドリード王立劇場の音楽監督となっています。ヨーロッパを中心に主要なオケや歌劇場のトップを歴任してきたことになります。このアルバムを録音した95年頃はちょうどローザンヌ室内管弦楽団のトップとして5年が経過し、オケを掌握していた時期でしょう。

これまでロペス=コボスはDENONからアルバムが多くリリースされているので、名前は知っていますが、ちゃんと聴いたのは、このブログで以前取りあげたナカリャコフのトランペット協奏曲の伴奏がはじめて。前記事のリンクを張っておきましょう。

2011/01/10 : ハイドン–協奏曲 : ナカリャコフのトランペット協奏曲

鮮度が高く端正なコントロールが心情の人でしょう。このアルバムを手に入れたのはおそらく10年以上前。もちろん演奏の印象もあまりはっきりとしません。それゆえ久々に取り出した次第。

Hob.I:30 / Symphony No.30 "Alleluja" 「アレルヤ」 [C] (1765)
流石DENONの録音。しかも響きの良さで知られるラ・ショー=ド=フォンでの収録。適度な残響に適度な実体感、1995年録音ですが、鮮明かつ穏やかさもあるほぼ完璧な録音。冒頭から非常に端正な演奏。小編成オケのクリアな響きでテンポ良くハイドンの楽譜を音にしていきます。傾向としてはデニス・ラッセル・デイヴィスの演奏に近いですが、デイヴィスの演奏が端正さに極度に向いた演奏であるのに対し、ロペス=コボスのコントロールはバランス重視というところでしょう。
2楽章のアンダンテも鮮明な響きで穏やかというよりは、几帳面な感じもするもの。教科書的なオーソドックスさと言えばいいでしょうか。ただ、ここの楽器の表情は豊かで、悪い意味で教科書的というのではなく正統的、標準的な名演奏という感じ。これはこれでなかなかいい感じです。
この曲は3楽章構成。フィナーレはメヌエット。フィナーレに入り、わずかですが力感のレベルを上げ、メリハリを強くし、隈取りをつけるような演出。リズムを少し強調しながら曲を終える感じをうまく表現しています。教科書的な演奏としては、骨格がしっかりして、癖がなく、響きもいい演奏。

Hob.I:26 / Symphony No.26 "Lamentatione" 「ラメンタチオーネ」 [d] (before 1770)
期待のラメンタチオーネ。速めの一貫したテンポでなかなかいい入り。曲の骨格をしっかり表現しており、細かいところもいいのですが、ボリューム感をしっかり捉えたデッサンのような堅実な演奏。曲が進むにつれて畳み掛けるような感じも感じさせて迫力も十分。立体感を感じさせるいい演奏ですね。
アダージョは情感と知性のバランスのよい演奏という趣。抑制された中にメロディーラインの美しさが光ります。訥々と弾かれる旋律に素朴な美しさ宿り、徐々に心に沁みてくる感じ。ラメンタチオーネの演奏では以前取りあげたNAXOSのニコラス・ウォードのアダージョが絶品ですが、ロペス=コボスのより抑えた表現も秀逸ですね。
この曲も3楽章構成。フィナーレは端正な悲しみといえばわかりますでしょうか。やはりフィナーレは力強さが増して立体感が見事。ここに来て弦楽器のキレも増し、管弦楽の醍醐味も少し味わえます。

Hob.I:31 / Symphony No.31 "Hornsignal" 「ホルン信号」 [D] (1765)
意外と言っては失礼ですが、このホルン信号の入りはこのアルバム一番の出来。肝心のホルンはことさら強調することなく、むしろ控えめですが、これが非常にいいセンス。ロペス=コボス流の端正で一貫したリズムにのって、この曲の純粋な魅力がよくわかる演奏。特にヴァイオリンパートの美しさが印象的。ダイナミクスは抑え気味で、キレの良いリズム感で聴かせるという設計でしょう。この曲では教科書的という表現から、抑制の美学というような領域に入り、完成度もかなり上がってます。ホルンは目立ちませんが、音程、リズム感、デュナーミク、どれをとっても言うことなし。非常に高いテクニックをもっているのでしょう。
2楽章のアダージョは音楽に情感が宿りはじめ、音楽が濃密さを帯びてきました。ところどころ音を切りアクセントをつけますが、抑えた音量で淡々と音楽をこなして聴き所をつくっていきます。大人の音楽。ホルンの演奏もとろけるような響きを聴かせるようになり、この楽章は一段踏み込んだ表現。
続くメヌエットは弦楽器の鋭敏な反応が素晴らしいですね。キレてます。やはりオケのメンバーも集中力が上がり、一人一人のフレージングが明らかに綿密になってます。ここでも力ではなくキレで聴かせる演奏。玄人好みの演奏。
フィナーレは、セッション録音とはいえ、ここまでの楽章でリスナーの心をしっかりつかんでいるので、流したような演奏ながら、勘所がピタリと定まり実に愉悦感ある演奏。各変奏では木管楽器の美しさも絶品。チェロのリズムが若干重いのが少々気になりますがそれ以外は節度あるゆったり感、のんびり感をしっかり感じさせて完璧な演奏。音量を抑えたところもしっかり沈んで表現の幅を広げます。最後のコーダも力みなく終えるのが秀逸。

久々に聴いたロベス=コボスのハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の前夜から頂点に至る時期に作曲された3曲をまとめたアルバム。ロペス=コボス独特の端正なキレの良い演奏が基調ながら、アレルヤでは、曲の深みに依存するのかもしれませんが、すこし教科書的な演奏に聴こえ、ラメンタチオーネでは端正さが曲の新たな美しさを浮かび上がらせました。聴き所はホルン信号で表現が一段踏み込んだもの。やはり精緻、端正だででは音楽の深みにはたどり着かないという事でしょう。評価はアレルヤが[++++]、その他が[+++++]としました。
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