作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

リボール・ペシェク/スロバキア・フィルハーモニーの85番「王妃」、86番、87番

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今日も未整理のラックの隙間から取り出した一枚。

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リボール・ペシェク(Libor Pešek)指揮のスロバキア・フィルハーモニー管弦楽団(Slovak Philharmonic Orchestra)の演奏でハイドンの交響曲85番「王妃」、86番、87番の3曲を収めたアルバム。収録は85番が1982年3月、他が1982年9月、スロバキアの首都ブラチスラヴァのスロバキア・フィルハーモニー管弦楽団コンサート・ホールでのセッション録音。レーベルはチェコのGramofonové závody Lodĕnice。なんて読むのかわかりません(笑)

いかにも廉価盤然とした、安っぽいジャケットですが、こうゆうアルバムにもいい演奏はあるもの。しかもブラチスラヴァはウィーンの東40キロほど、アイゼンシュタットからも遠くありません。いわばご当地ものということでなんとなく取りあげようと思った次第。手に入れたのはだいぶ前で聴いた覚えはあるんですが、遥か昔で印象も思い出せないアルバム。今日取り上げるアルバムはパリセットの後半3曲ですが、同じデザインのジャケットの前半3曲のアルバムも手元にあります。

指揮のリボール・ペシェクは1933年チェコのプラハ生まれの指揮者。プラハ音楽芸術アカデミーでピアノやチェロ、トロンボーンなどを学び、またヴァーツラフ・スメターチェクやカレル・アンチェルなどチェコの巨匠に指揮を学びました。その後ピルゼンやプラハの歌劇場で働き、1958年にプラハ室内ハーモニー管弦楽団を創設。1964年まで音楽監督を務めました。ちょうどこのアルバムを録音した1980年から1981年までスロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者であり、また、1982年から1990年までチェコ・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者を務めました。1987年からは1998年までロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督、2007年からはチェコ・ナショナル交響楽団の音楽監督となっています。ドボルザークを得意としている他、チェコ・ナショナル交響楽団とはマーラーの交響曲のアルバムが5曲リリースされています。

チェコの指揮者としてはノイマン、スメターチェク、アンチェルなどと比べるとややマイナーな存在で、私もペシェクといえばこうゆう演奏という感触がありませんので、この機会に知っておきたいところ。今日はハイドンのパリセットの中でも好きな86番、87番が含まれたこちらのアルバムをセレクト。

Hob.I:85 / Symphony No.85 "La Reine" 「王妃」 [B flat] (1785?)
ハリのある鮮明な序奏の響き。録音は1982年としては時代なりです。主題に入ると明確に意図したようなさっぱりしたフレージングで音階の一音一音を切り気味にリズム感を強調してくっきり浮かび上がらせます。余分な情感を排除して音楽の骨格を裸にしていくようなアプローチ。若干単調さをはらむ危険なアプローチでもありますが、潤いのある木管楽器の響きや、ハイドンの曲自体の豊かな情感、そしてこのアプローチで現れた普段以上の曲の立体感によって、なかなかいいところをついている感じを与えます。
2楽章は前楽章と同じく少し乾き気味の音色のスロヴァキア・フィルハーモニー弦楽セクションがリズム感を強調しながらザクザクと弾き進めます。楽章が変わって流麗さを帯びてくる部分もありますが、基調は変わりません。
なぜかメヌエットに入りぐっと滑らかな音楽に。木管楽器と弦楽器の美しいフレージングはこれまでの楽章とはかなり異なります。メヌエットという音楽はハイドンの交響曲ではリズム感を強調して演奏されることが多いんですが、この演奏は全く逆。この曲で一番情感がこもった演奏。音楽とは複雑なものですね。それにしても木管は巧いですね。
メヌエットで音楽のノリが良くなってフィナーレは再びリズムを強調する感じがすこし戻りますが、ワクワクさせるようなスリリングな感じも帯び、また推進力のよさも感じさせてきます。落ち着いたコントロールのもと、音楽のいろいろな面を感じさせる演奏ですね。なかなかユニークな解釈。

Hob.I:86 / Symphony No.86 [D] (1786)
つづいて、好きな86番。聴き慣れた序奏から滑らかな音楽が心地よいですね。リズムの拍子をすこし速く打つような速めのスピードと、鋭いアクセントが特徴でしょうか、前曲の1楽章の骨格を強調するアプローチが前曲のみのものであったことがわかります。かなり流麗なフレージングできびきびとした演奏。録音は前曲の方が良く聴こえます。響きが少し高域寄りで若干弦楽器に濁り感が伴いますが、前曲と比べて少しという程度。かなり鮮烈な響きを聴かせる非常にキレのいい演奏。好みのテンポよりも若干速く、この楽章はスピーディーなところを聴かせたいとの意図でしょう。
2楽章のラルゴは落ち着きよりも爽やかさを感じさせるようなアプローチ。こちらも流麗な弦楽器と時折聴かせる鮮烈なアクセントがポイント。なかなか聴かせます。
この曲ではメヌエットは普通の位置づけ。キレよくリズム感よくクッキリ進めます。
そして、フィナーレがこの曲一番の聴き所でしょう。ご当地ものを感じさせる非常に手堅い演奏ながら、一音一音のキレと全体の構成感、推進力、迫力どれをとっても抜群の出来。この曲のペシェクのコントロールのポイントは全体的に非常に鮮度の高いキレでしょう。曲に生気がやどっていると言えばいいでしょうか。唯一高音にちょっと歪み感を感じる録音が惜しいところ。

Hob.I:87 / Symphony No.87 [A] (1785)
87番も86番と同時に録音されていることからわかるとおり、冒頭かキレキレです。録音の特徴も同様。速めのテンポでぐいぐい行きます。またアクセントの鮮烈さも86番同様。オケもコンディションが最高の時を狙って録られているのでしょう。全員の感覚が研ぎすまされている感じ。87番は畳み掛けるような速めのテンポの似合う曲だけに、ペシェクの意図がピタリハマります。大活躍の弦楽器群は素晴らしい表現の幅。ここまで気合いのこもった演奏には滅多にお目にかかれません。少々粗いところはありますが、凄まじいエネルギー感に圧倒され、細かい事は一切気になりません。1楽章は心に刺さる超弩演。
嵐の後の平穏な風景のようなのどかな開始。対比が見事。いきなりホルンとフルートの美音にうっとり。落ち着いたフレージングと印象的な間、フレーズごとのコントラストのクッキリついた変化もすばらしい効果。このアルバムでもっともリラックスした演奏。これぞハイドンのアダージョというべき完璧な演奏です。ペシェクのこの曲への思い入れがわかるような素晴らしい演奏。
続くメヌエットも完璧。神々しいまでに生気が漲っています。特に印象的なのは効果的に差し込まれた間。余韻の消え入るところを非常に巧く表現しています。張りつめた静けさ。逆に強音部分は余裕のある威風堂々とした弦楽器群がここでも素晴らしいエネルギー感。
この曲はハイドンの交響曲のフィナーレでも名作のひとつ。意外にこのアルバムのはじめの85番の1楽章に通じる音を少し切り気味演奏する構造を強調した演奏。86番風に来るのかと思いきや意外な展開。しかし全3楽章圧倒的な出来からのつながりは意外に悪くありません。アルバムのはじまりと終わりに韻を踏んでいるのでしょうか。だとしたら相当凝った演出です。じっくり名曲を料理して前3楽章の火照りを鎮めるような淡々とした演奏。といっても弦楽器、特にヴァイオリンのキレは最高です。

意外に深い演奏だったリボール・ペシェクのハイドンのパリセットの後半3曲。中東欧圏のオケは弦楽器のキレがいいオケが多いのでその期待もありましたが、そのとおりの演奏。評価は85番「王妃」が[++++]、86番、87番はもちろん[+++++]とします。特に87番は素晴らしい演奏。鬼気迫る迫力に圧倒される演奏です。

今日は雪のなか、これから銀座に玉三郎の歌舞伎を見に行ってきます。夜には歌舞伎レビューをアップの予定です。
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