作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

カルミニョーラ/シャンゼリゼ管弦楽団によるヴァイオリン協奏曲集

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ようやくHMV ONLINEから届いたアルバム。他のアイテムの未入荷に引きずられました。

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ジュリアーノ・カルミニョーラ(Giuliano Carmignola)のヴァイオリン、シャンゼリゼ管弦楽団(Orchestre des Champs-Élysées)の演奏で、ハイドンのヴァイオリン協奏曲3曲(Hob.VIIa:1、VIIa:3、VIIa:4)を収めたアルバム。収録は2011年2月、イタリア東北部のアルプスの麓トッビアーコにある文化センター・グランド・ホテルにあるグスタフ・マーラーホール。レーベルはARCHIV PRODUCTION。かなり久しぶりのメジャーレーベルです。

カルミニョーラは最近アバドと組んでモーツァルトのヴァイオリン協奏曲やバッハのブランデンブルク協奏曲などをレコーディングするなど、目立った活躍をしています。そもそも古楽器系のヴァイオリニストとの認識はありますが、詳しく調べた事がありませんでしたので、略歴を紹介しておきましょう。

1951年イタリアのアドリア海の最奥部のヴェネチアのすこし内陸にある街トレヴィーゾ(Treviso)に生まれたヴァイオリニスト。父もヴァイオリニストで、ヴェネチア音楽院で学び、その後、イタリア、シエナにあるキジアーナ音楽院でナタン・ミルシテインに、またスイスのジュネーヴ音楽院ではヘンリク・シェリングに師事しました。70年代に入ると国際的にコンサートで活躍するようになり、ピアノや弦楽器など室内楽を主に演奏。1973年のパガニーニ国際コンクールで第5位に入賞するなど多くの国際コンクールでの入賞歴があります。ソリストとしてクラウディオ・アバド、エリアフ・インバルなどの指揮者と共演し、またヴェネチア音楽院やシエナ音楽アカデミー等で教職についていたようですね。1978年から85年まではヴェネチアのフィニーチェ歌劇場のコンサートマスターを担当。近年は18世紀イタリアの音楽を集中的に取りあげているとの事。イケメンちょい悪オヤジのような風貌なので、ソリストとして人気もあるでしょう。

シャンゼリゼ管弦楽団はパリのシャンゼリゼ劇場とベルギーのブリュッセルも本拠地とする古楽器オーケストラ。パリのシャンゼリゼ劇場と言えばフランスのル・コルビュジエの師にあたりフランス近代建築の巨匠、オーギュスト・ペレの名建築。パリには2度行ってますがどちらの機会にもコンサートがなく、実際に見たのは外観のみです。いちどここでコンサートを聴いてみたいと思ってます。レパートリーはハイドンからマーラーまでで、その時代の楽器で演奏するのがコンセプトとのこと。このアルバムも当然、古楽器による演奏になります。

最近話題のカルミニョーラのハイドンのヴァイオリン協奏曲はどのような演奏でしょうか。

Hob.VIIa:1 / Violin Concerto [C] (c.1765)
序奏は古楽器のオケが音を切り気味にキビキビとした鮮度の高いもの。アクセントをしっかりつけてリズムを刻むので流麗さよりは構成感重視の演奏。カルミニョーラのヴァイオリンは1732年製のBaillotと呼ばれるストラディヴァリウス。この楽器の美音を慎重にコントロールして、音のいいところだけでささっとフレーズを刻んでいくような感じ。まだヴァイオリンをフルには鳴らしません。延ばす音に素晴らしい美音の予感が潜むワクワク感が乗っていい感じ。オケはリズムのエッジで聴かせていくようで、楽器を鳴らしきりません。カルミニョーラは時折高音部分で素晴らしい音を垣間見せ、どきりとさせます。1楽章のカデンツァはカルミニョーラの円熟の技でさらっと自在な弓使いを見せて挨拶代わりという感じ。1楽章は規律を保った演奏でした。
2楽章のアダージョはようやくカルミニョーラのセンスのよい美音が炸裂。ピチカートとハープシコードの抑制の効いた穏やかな伴奏に乗って、これ以上節度のある美音はないのではないかと思わせる素晴らしいヴァイオリンのソロ。ハイドンの美しいメロディーラインが磨き抜かれた宝石のような音楽に。アバドが彼を起用する理由がよくわかります。デュナーミクのコントロールは完璧。しかもこの楽章の消え入るような終わり方はこの世のものとは思えない美しさ。
フィナーレもカルミニョーラが軽々と弾くメロディーが絶妙な美しさ。オケは相変わらず、鮮度の高いリズムを見事な抑制を伴って刻み続けてカルミニョーラのヴァイオリンソロを引き立てます。小編成のオケの切れ味抜群の伴奏にセンスのよいソロの美音。言う事ありません。絶品!

Hob.VIIa:3 / Violin Concerto "Merker Konzert" 「メルク協奏曲」 [A] (c.1765/70)
前曲同様、序奏からワクワク感満点のオケ。オケのメンバー全員が非常に鋭敏なリズム感をもっていることがわかります。出だしからリズムがキレまくってます。脳内にアドレナリンが噴出。カルミニョーラはすこしリズム崩す余裕も出てきて自在さも加わり、もはや神憑った領域に。古楽器による演奏の新たな魅力を存分に感じさせる演奏。冴え渡る音楽的感興。1楽章のカデンツァは前曲よりさらに自在さが際立ち、もはや圧倒的な存在感。オケのリズムもキレつづけ完璧な1楽章。
演奏によっては非常に叙情的なものになるこのアダージョ・モデラートを、すっかり抑制を効かせた純音楽的な音楽にしてしまうあたり、素晴らしい音楽性でしょう。カルミニョーラの奏でるヴァイオリンの落ち着き払った美音にただただ身を委ねているだけで素晴らしい音楽に浸れます。
フィナーレは前曲同様、オケのキレと軽々と運ぶカルミニョーラのヴァイオリンの掛け合いが素晴らしい緊張感を醸し出しています。高い音の芯のしっかりした美音は惚れ惚れとするようですね。今度はヴァイオリンのテンションで曲を引っ張っています。カデンツァは短くさりげないのに最高のテンション。これは見事。

Hob.VIIa:4 / Violin Concerto [G] (c.1765/70)
リズムだけで収まらない複雑な要素をもつ入り。やはり抜群の抑制で、ヴァイオリンが入る前に音楽的な地ならしは完璧にしておきます。この曲ではすこしもたつくようなそぶりを見せながら、じっくりと1楽章のメロディを一つずつこなしていきます。ヴァイオリンもオケも俊敏な反応だけに、溜める部分でも重さは皆無、溜めて鮮やかなのが流石なところです。この曲も情緒に流されず、ヴァイオリンの短く切った美音で語られる物語が支配しています。カルミニョーラのヴァイオリンは曲調を完全にコントロールしています。カデンツァは曲調の一貫性とテクニックの高度なバランスを保ち、素晴らしい一体感。やはりカルミニョーラの音楽性が際立ちます。
このアルバムのアダージョで一番複雑な構成の曲。オケとヴァイオリンのゆったりとしながらも緊張感をはらんだ掛け合いを楽しめる曲。クッキリ浮かび上がるヴァイオリンとしっかり沈むオケの対比が見事。
フィナーレはヴァイオリンのボウイングの力が抜けて音の芯のみで弾かれているような、もはやカルミニョーラのヴァイオリンは力が抜けて純粋な音楽に昇華。複雑な音符を正確にこなして曲を閉じます。

いやはや、参りました。普段のレビューを読まれている方は薄々わかってらっしゃると思いますが、どちらかと言うと現代楽器によるオーソドックスな演奏を高く評価することの多い当ブログですが、このアルバムは別格。古楽器演奏の真髄を感じます。火を噴くような切れ味抜群のリズム感、非常に冷静に抑制されたフレージング、磨き抜かれた美音、そしておけとの完璧な掛け合い。素晴らしい音楽性にノックアウトです。ハイドンのヴァイオリン協奏曲の古楽器演奏のスタンダードな名盤としてどなたにでもお薦めできる名演奏でしょう。カルミニョーラ、只者ではありませんね。もちろん全曲評価は[+++++]とします。

あんまりちゃんと聴いてないアバドとのモーツァルトのヴァイオリン協奏曲も聴いてみたくなりましたね。
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