作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ピンカス・ズーカーマン/ナショナル・アーツ・センター管の「哲学者」

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今日は手元のアルバムから好きな演奏を取りあげます。

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ピンカス・ズーカーマン(Pinchas Zukerman)の指揮とヴァイオリン、ナショナル・アーツ・センター管弦楽団の演奏で収録順にハイドンのヴァイオリン協奏曲(Hob.VIIa:1)、交響曲22番「哲学者」、ヴァイオリン協奏曲(Hob.VIIa:4)の3曲を収めたアルバム。収録は約20年前で1991年2月20日~21日、カナダの首都オタワのナショナル・アーツ・センターの歌劇場でのセッション録音。レーベルは懐かしいRCA VICTORのRED SEAL。

今日はこのアルバムからヴァイオリニストのズーカーマンだけにヴァイオリン協奏曲を、、、と言いたいのですが、取りあげるのは交響曲の哲学者です。このアルバムの演奏はヴァイオリン協奏曲もいいのですが、何といってものどかなのに締まった哲学者の演奏が最高です。哲学者はハイドンの機知が感じられる非常にユニークな曲。その哲学者を実にゆったりと歌い上げる名演奏です。

ズーカーマンのハイドンは以前に一度、同じくRCAのアルバムを取りあげています。

2010/10/02 : ハイドン–協奏曲 : カーシュバウム/ズーカーマンのチェロ協奏曲2番

以前取りあげたアルバムは1993年の録音とこのアルバムの2年後の録音でオケもイギリス室内管と異なるオケです。

今日取り上げるアルバムのオケであるナショナル・アーツ・センター管弦楽団は1969年にナショナル・アーツ・センターの新設にともない設立されたオーケストラ。初代指揮者はマリオ・ベルナルディ、その後何人か指揮者がかわりこの演奏を録音した1991年からはトレヴァー・ピノックが音楽監督で1998年にはズーカーマンが引き継いでいます。Wikipediaの情報ではその後もズーカーマンがその地位にあるようですね。

Hob.I:22 / Symphony No.22 "Philosopher" 「哲学者」 [E flat] (1764)
1楽章のアダージョは実にゆったりしたテンポでの入り。弦楽器がゆったりと規則正しく刻むリズムに乗ってハイドンが交響曲ではこの曲でしか使わなかったインングリッシュ・ホルンやホルンの奏でるのどかなメロディが響きます。確信犯的な遅いテンポ。イングリッシュ・ホルンの深みのある響きは最高。そしてこの後訪れるハイドン創作の前半の頂点であるシュトルム・ウント・ドラング期の成熟を予感させるほの暗い陰りを感じる美しいメロディーが心に迫ります。あえて機械的に刻んでいく弦楽器のリズムに対してデリケートに表情を変えていくメロディーラインは弦楽器奏者であるズーカーマンの素晴らしく緻密なコントロールによるものでしょう。録音もこれ以上ないほどにいい雰囲気でオケと指揮が奇跡的に一体化した素晴らしい瞬間を捉えています。適度な残響とゆったりとしたオケの存在感。ハイドンの時代にトリップしそうです。1楽章は絶品。これ以上の演奏はあり得ません。
2楽章はプレストですが、それほど速くありません。1楽章の余韻を噛み締めるようにリズムを強調してじっくりとした演奏。遅めならではの丁寧なメロディーのトレース。弦の各パートが手に取るようにわかるクッキリとしたコントロール。明らかに1楽章のイメージを汲んだものでしょう。
3楽章はメヌエット。一貫してゆったりした演奏。途中から入るホルンの響きの美しいこといったらありません。このようなオーソドックスな演奏で楽しませるには、おそらくかなり確かな技術がなければこれだけの自然さはだせないでしょう。弦楽器に被さるイングリッシュホルンによって非常に深い響きがもたらされます。チェンバロも繊細な響きを加えます。
フィナーレは流石にテンポを上げますが各楽器のクッキリとしたフレージングは変わらず、管弦楽の楽しみを目一杯味わえる演奏。吹き上がるホルンの迫力。気づいてみると響きは弦楽器主体で木管、金管は控えめに音を乗せている感じの演奏。それゆえ弦主体の一体感が生まれているようです。弦楽器はボウイングがきちんとそろっているからこそのこのクッキリ感でしょう。この時期のハイドンの交響曲はオーソドックスに演奏するだけで溢れ出る魅力を感じられますね。最後は粋なアクセントをつけてフィニッシュ。

いや、ハイドンの初期の交響曲を聴く悦びに浸れる素晴らしい演奏です。弦楽器奏者ならではのオーケストラコントロールと曲の真髄を見極めたテンポ設定、最上の雰囲気溢れる録音と言うことなし。もちろんヴァイオリン協奏曲も素晴らしいのですが、この哲学者は別格の出来と言っていいでしょう。評価はもちろん[+++++]です。残念ながら現役盤ではないようですが、中古でも見かけたら是非聴いていただきたい名演奏です。
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